私訳・源氏物語

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November 25, 2011
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カテゴリ: 源氏物語

源氏の君にお仕えしている中務、中将などの女房たちは、
つれないお扱いを受けながらも、お傍にお仕えしていてこそ心も安らいだのですが、
『この後は何を慰めとしたらいいものやら』と思うと、心細くなるのです。

「生きて都にまた帰ることもあろうものを。
私の帰京を待とうと思う人は西の対にお仕えしなさい」

と、身分の上下にかかわらず皆紫の女君の所へおやりになって、
それぞれにふさわしい品々をお配りになります。

左大臣邸の若君の御乳母たちや花散里にも、趣味の品はもちろんの事、
生活の品々においてもこまごまと配慮なさるのです。

朧月夜の尚侍の君の御もとには、無理をして御文を差し上げます。

「あなたさまから御文がないのも道理とは思いながら、
こうして都を離れる際の憂さも辛さも、今まで経験したことのないほどでございます。

あふ瀬なき なみだの川に沈みしや 流るゝみをの はじめなりけむ

(あなたさまとの逢瀬の時を持てない悲しみ。その涙の川に溺れたために、
こうして流される身になったのでしょうか)

あなたさまに恋をした、その事だけが私の罪なのでございましょう」

御文を届ける道すがらも心配ですので、あまり細かくはお書きになりません。

朧月夜の君はひどく悲しくお思いになり、
耐えていらっしゃるもののお袖から涙があふれてしまうのです。

「なみだ川 浮かぶみなわも消えぬべし 流れて後の 瀬をも待たずて

(あなたさまが涙川に溺れるとおっしゃるなら、私はそこに浮かぶ水泡でございます。
きっとお帰りを待つ事もなく消えてしまうのですわ)」

と、心乱れた様子で泣きながらお書きになったご筆跡が、たいそういじらしいのです。

一目お逢いする事も叶わぬまま別れるのかと名残り惜しくお思いになるのですが、
思い直してごらんになると、ご自分を目障りな者とお思いになる右大臣の縁者も多く、
尚侍の君も堪えていらっしゃるようですので、
御文も差し上げないままになってしまいました。






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最終更新日  March 6, 2017 11:33:32 AM
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