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月が出てきましたので、潮が近くまで押し寄せた跡がはっきり見えます。
高潮の後がまだおさまらず、寄せては返す荒波の様子を、
柴の戸を押し開けて眺めていらっしゃいます。
ご自分の周りには、情趣を知り、来し方行く先の事を弁え、
物事の道理を知る人もありません。
賤しい海士たちが「ここは身分の高い人がおわす所」といって集まってきて、
源氏の君がお聞きになってもお分かりにならぬ言葉で互いに喋るのも
たいそう奇妙なのですが、追い払う事もなさいません。
「この風がもうすこし止まなかったら、潮が上って来てすっかりさらってしまっただろうよ。
無事であったのは、並々ならぬ神の助けがあったからだろう」
と言うのをお聞きになるにつけても、
何とも心細い身の上であることに変わりはありません。
「海にます 神のたすけにかゝらずば 潮のやほあひに さすらへなまし
(海にまします神の助けがなければ、今頃私は潮の渦巻く中にさすらっていたことだろう)」