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激しかったあの暴風雨による大騒ぎのために、念誦していらしたとはいえ
やはり疲労困憊していらしたのでしょう、心にもなくまどろみなさいます。
粗末な御座所ですので、ただ物に寄りかかったままでうとうとなさいますと、
故・桐壺院がご在世でいらした頃のままの御姿で御前にお立ちあそばされて、
「どうしてこのような賤しい所に住んでいるのか」
とお手をお取りになり、
「住吉の神のお導きの通りに、早く舟を出してここを立ち去りなさい」
と仰せあそばされます。源氏の君はたいそう嬉しくて、
「畏れ多くも故・父の院にお別れもうしあげてからは、
様々に悲しい事ばかりが多くございまして、
今はもう、この須磨の浜辺に身を捨ててしまおうと思うのでございます」
と申し上げます。
「そんな事をしてはならぬ。この不運はほんの些細な事の報いである。
私が位についていた時には咎となるような事はなかったが、
知らぬ間に罪を犯す事もあるものだ。
その罪を償う暇がなくてこの世の事を顧みなかったが、
そなたがひどく悲しみに沈んでいる様子を見るに耐えず、
あの世から海に入り渚に上りいたく疲れてしまった。
しかしこの機会に帝に上奏すべき事があるので、いそぎ都に上るところだ」
とて、お立ち去りになるのでした。