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明石入道はいつものように喜び泣きしていました。
『生きた甲斐があった』と泣くのも、入道にとっては「道理なこと」と見えます。
明石でも五十日の祝いには所狭しとばかりに祝賀を用意していたのですが、
源氏の君からの御使者がなければ、
それも「闇夜の錦」のように見映えしなかったことでしょう。
源氏の君がお遣わしになった乳母も、
明石の女君が心に沁みるほど理想的な人でしたので、
日々の慰めの話し相手として過ごしました。
この乳母に引けを取らぬ身分の女房たちも、入道が都から迎え取って
明石の女君に仕えさせていたのですが、みなひどく落ちぶれて都には住めず、
人里離れた場所に住処を求めていたところを入道に拾われ、
そのまま明石に住みついている者たちばかりでした。
それに比べてこの乳母は格別鷹揚で気品がありました。
興味をそそられる都での話や、源氏の大臣の日々のご様子、
世にかしずかれていらっしゃること、帝からのご信頼のほどについてなど、
女のお喋りが限りなく話し続けますので、明石の女君は
『なるほど、源氏の君が御心をかけてくださるような姫を生んだ自分も、
なかなか大したものなのだわ』と次第に思うようになるのでした。
源氏の君からの御文も二人で一緒に見ます。
乳母は心の内で『ああ、こんなふうに思いもよらない幸運な宿世というものもあるのね。
それに引き換え、辛い人生なのは我が身の上だわ』としみじみ思うのですが、
源氏の君から「乳母はどうしていますか」など、ねんごろにお尋ねくださるので、
もったいなくて辛さも慰められるのでした。