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源氏の君へのお返事には、
「数ならぬ み島がくれに鳴く鶴(たづ)を けふもいかにと 問ふ人ぞなき
(数ならぬ我が身に隠れるように暮らしております姫でございます。
今日も五十日の祝いに訪う人さえございませぬ)
何事につけ物思いで心が晴れませぬ私に、
こうしてたまさかにいただく慰めのお言葉にすがって長らえておりますが、
この命もいつまで続く事かと心細く、後顧の憂いのない方法がございますれば」
と、熱心に訴えます。
源氏の君は何度も読み返し、お返事をご覧になりながら「可哀想に」
と独り言をおっしゃって、長いため息をおつきになります。
紫の女君はその様子を横目でご覧になり、「私を除け者になさるのね」と、
そっと独りごちてお庭を眺めていらっしゃいますので、
「そんなにまで勘ぐっていらっしゃるのですか。
『可哀想に』と言ったのは、この文を見て思っただけの事なのですよ。
明石の様子など昔の事を思い出しての独りごとですのに、
あなたはそれもお聞き過ごしにならないのですね」
とお恨みになって、御文の上包みだけをお見せになります。
筆跡などにはたいそう趣があり、高貴な身分の人でも及ばないほどですので
『やはり、それなりの女人なのだわ』とお思いになります。
こうして紫の女君の御機嫌をお取りになっていらっしゃる間に、
麗景殿女御や花散里といった方々へのご訪問も途絶えてしまいましたのは、
何ともお気の毒なことでございます。
朝廷でのご公務も忙しく、内大臣という窮屈な御身分ですので、
軽々しいお忍び歩きも憚られるのですが、
花散里の女君たちから新たな御消息文がない間は、
源氏の君も心を落ち着けていらっしゃるのでございましょう。