私訳・源氏物語

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August 2, 2012
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カテゴリ: 源氏物語

源氏の大臣は嵯峨野の御堂においでになり、
毎月十四、十五、三十日に行われる普賢講、阿弥陀、釈迦の称名念仏はもとより、
それに加えて行われるべき仏事を定めてお置きになります。

御堂の飾り、仏の御具などをしかるべき者たちにお命じになり、
月の明るい時分に大井にお帰りになります。

ちょうど明石で源氏の君が琴をお弾きになった別れの日の月夜のようですので、
この折を逃さず明石の女君はかの御琴を御前に差し出しました。

源氏の大臣は何となく物悲しく、堪え切れずに琴を掻き鳴らしなさいます。

するとまだ、琴の調子は明石の頃と変わっていませんので、
昔に戻ったような心地がなさいます。

「契りしに 変らぬことのしらべにて 絶えぬ心の ほどは知りきや

(あなたと約束した時と変わらぬこの琴のしらべと同じように、
いつも変わらずあなたの事を思う深い私の気持ちを、あなたは知っていましたか)」

明石の女君、

「変はらじと 契りしことをたのみにて 松のひびきに 音を添へしかな

(「心変わりはしない」とお約束してくださったあなたさまのお言葉を、
頼みとしておりました。松風の響きに、泣く音を添えながら)」

と、お歌を交わすお二方がお似合いなのは、
明石の女君にとって身に余る光栄というものでございましょう。

女君の顔立ちや姿は歳とともにうつくしく整い、とても見捨てることなどおできにならず、
また幼い姫君は可愛らしくて、いつまでも見ていたいほどです。

『どうしたものか。隠し子のようにして育てるのは可哀想だし不本意だ。
いっそ二条院に移して思う存分大切に養育するならば、
後々入内させるにしても世評から免れることができよう』

とお思いになるのですが、一方では明石の女君の心中を察すると気の毒で、
言い出すことがおできにならず、涙ぐんで見ていらっしゃいます。

姫君は幼心に少しはにかんでいましたが、しだいに打ち解けて
お話ししたり笑ったりしてまつわりついていらっしゃいます。

顔がつやつやとしてうつくしく、可愛らしいのです。

姫君を抱いていらっしゃる源氏の大臣のご様子はいかにも愛おしげで、
『姫君の運命は格別』と思えるのでした。






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最終更新日  March 4, 2017 11:19:51 PM
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