PR
カレンダー
キーワードサーチ
暗くなってから二条院にお着きになりました。
御車を寄せますととても華やかで、大井の古邸とはまるで様子が違っています。
田舎者の女房たちは気後れして『気詰まりな思いで仕えることになるのかしら』
と思うのですが、寝殿の西面を特に設えて、
姫君のために小さな御調度品などを可愛らしいふうに調えさせていらっしゃるのでした。
乳母の局には、寝殿から西の対に通じる渡殿の北側にあたる部屋を
用意させていらっしゃいました。
幼い姫君は道中の御車の中で眠ってしまいましたが、
抱きおろされても泣いたりなさいません。
紫の女君のお部屋でお菓子などをお召しあがりになるうち、
あたりを見回し母君を求めて、可愛らしいふうにべそをかいていらっしゃいますので、
乳母をお召し出でになりあやしたり紛らわしたりしてさしあげます。
源氏の大臣は、『姫君のいなくなった大井の山里の所在なさは、いかばかりか』
と可哀想にお思いなのですが、明け暮れ紫の女君が
姫君を思いのまま大切に養育なさるのをご覧になって、
なにもかも満足していらっしゃるのでしょう。
されど『母として理想的なこの紫の女君に御子が生まれないとは、
何と皮肉なことであろうか』と口惜しくお思いになります。
姫君は、馴れた女房を求めてしばし泣いていらっしゃいましたが、
もともと素直で人懐こい性質ですので、紫の上にたいそうよく馴れ親しむようにおなりで、
紫の上も『とても可愛らしいものを手に入れた』とお思いになるのでした。
それで他の事はせずに、姫君を抱いたりお遊び相手になったりしますので、
自然に乳母も紫の上に近くお仕えし馴れ親しむようになりました。
また乳の出る高貴な身分の人を乳母としてさらにお加えになります。