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年が改まりました。
うららかな空に何の憂いもないお暮らしぶりは新年に相応しくたいそうめでたく、美しく磨き上げられた二条院には、人々が年賀のご挨拶にやって参ります。
七日には、昇進した年配の人々が車を引き並べて、お礼に参じました。
若い人々も、何となく晴れやかです。身分の低い人々も、心の内では不満に思うこともあるのでしょうが、
上辺は誇らかに見える御代なのでした。
二条院の東の対にお住いでいらっしゃる花散里の御方も、申し分のないお暮らしぶりです。
お傍にお仕えする女房や童たちにも、
礼儀正しく心配りして過ごしていらっしゃいますので、大井とは異なり近いという利点は格別で、源氏の大臣がお暇な折などには、
ひょいとお越しになることもおありです。
夜お泊りになるためにわざわざお見えになることはありませんが、
ただ花散里の御方のご性質がおっとりと鷹揚でいらして、
『私はこの程度の宿縁に生まれついた身の上なのだわ』と諦めておいでです。
嫉妬することもなく、珍しいまでに安心のできる穏やかな方でいらっしゃいますので、
源氏の大臣からの折々の暮らし向きのご配慮なども、西の対にいらっしゃる紫の女君に劣らぬもてなしぶりで、
決して軽んじることがありません。
女房たちも紫の女君に対するのと同じようにお仕えして、
別当たちも仕事を怠ることがありませんので、反って乱れる所がなくきちんと整い、
感じの良いご様子なのでした。
大井の、明石の女君のつれづれな暮らしぶりに対しても、いつも気にかけていらっしゃいます。
公私ともに忙しい時期が過ぎたころ、大井にお渡りになろうとして、いつもより念入りに身支度をなさいます。
桜襲のおん直衣の下に、みごとな色合いの袙を重ね着し、
香をたきしめた装束をお召しになって紫の女君にお出掛けのご挨拶をなさる様子は、
隈なき夕日に照り輝くばかりうつくしく、女君は穏やかならぬ思いでお見送りなさいます。