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藤壺入道の宮は、三十七歳でいらっしゃいます。
帝は「残念で悲しい」とご覧あそばされます。
「お慎みになるべき厄年でいらっしゃいますのに、
ご気分がすぐれないままお過ごしになったことに加えて、
精進や祈祷などを熱心におやりにならなかった事をひどく悲しく存じます」と、
帝は後悔あそばされるのでした。
帝はつい近頃になってようやく母宮のご病気にお気づきになり、
さまざまな加持祈祷をおさせになっていらっしゃいます。
今まではいつものご病気かとばかり油断していましたので、
源氏の大臣も深く悲しんでいらっしゃいます。
限りがありますので、帝はほどなく内裏にご帰還あそばすのですが、
悲しいことが多いのでした。
藤壺の宮はたいそう苦しくて、はかばかしく物も仰せになれません。御心内では、
『先帝の四の宮として后腹に生まれ、国母となり中宮として
世に並ぶ人もない栄誉を得たけれど、
源氏の大臣との秘密という苦しみも常に胸の中にあって、
何事につけても人にまさる人生だったわ』
と思い知られるのでした。
帝の御夢の中にもこの秘密をお知らせ申さないことがさすがに心配で、
この事だけは死んでもお胸のなかで解けがたく、
この世に執念として残りそうな心地がなさるのでした。