私訳・源氏物語

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October 26, 2012
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カテゴリ: 源氏物語

内大臣は和琴をお引き寄せになり、
古風な律の調子を華やかな今風にお弾きになります。

名手でいらっしゃるだけにたいそう面白いのです。

琴の音に誘われるように御前の木の葉がほろほろと散り、
老女房たちがあちらこちらの御几帳の後で聴き惚れています。

内大臣は「風の力 蓋しすくなし」と誦じ給いて、

「我が琴の音に感じてではないが、不思議にもの哀れな夕べだね。
そなたももっとお弾きなさらぬか」

と、姫君の弾く秋風楽に合せて唱歌なさる声がたいそう面白いのです。

大宮は孫の若君、姫君、そして御子息の内大臣に対しても、
たいそう愛おしくお思いでいらっしゃいます。

折も折、感興を添えようとするように若君がやって参りました。

「こちらへ」

とて、姫君とは几帳をへだてて入れたてまつります。

「このごろは対面もめったにかないませんな。
どうしてこんなにご学問に打ちこまれるのでしょう。

父・源氏の大臣も『学才が身分以上に優れるのはよろしくない』
とおっしゃっておいでのはず。

このようにお仕向けになるには理由があってのことと存じてはいますが、
こうして学問のために籠っているのが、気の毒でならないのです」

と申し上げます。そして、

「時々は御学問以外の事をしてごらんなさい。
笛の音にも昔の賢人の教えがあるものですよ」

と、笛をたてまつります。

若君はたいそう若々しく可愛らしい音色に吹きたてて面白いのです。

それで御琴、琵琶、筝をしばし止め、内大臣が控えめに拍子をお取りになって
「萩が花ずり」などをお唄いになります。

「源氏の大殿(おおいとの)も、こうした気楽な管弦の御遊びをなすって、
多忙なご政務から離れて寛いでいらっしゃる。

ほんにこのつまらない世を、好きな事をして過ごしたいものです」

と、仰せになってお酒をお召し上がりになるうち
暗くなりましたので、灯火を持って参ります。

皆でお湯漬けやくだものなどをお召し上がりになります。

姫君は、内大臣があちらのお居間にお移しになりました。

『春宮に差し上げたい』と考えておいでですので、若君から無理にお離しになり、
姫君のお弾きになる御琴の音さえお耳に入れまいと、
今ではひたすら遠ざけていらっしゃいます。

姫君の近くにお仕えする大宮付きの老女房たちは、

「そのうち、お気の毒な事件が起こらなければよろしいけれど」

と、囁き合うのでした。






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最終更新日  October 26, 2012 03:08:14 PM
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