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「女は気立てが良くてこそ、世に用いられるものでございますね」
と、明石の女君のことを仰せになります。
「弘徽殿女御を『並々にではなく、また何事も人には劣らぬほど』
に育てたつもりではございますが、
斎宮の女御という思いがけない人に負かされてしまった宿縁に、
世の中というものは思いの及ばぬものと存じまして。
せめてこの姫君だけでも、
何とかして私の思い通りに出世させてみたいものでございます。
もうすぐ春宮の御元服がございますから、『春宮妃に』と密かに決めておりましたが、
幸運な方が産んだ后候補者が、また追いついて参りました。
明石の姫が入内なさる時には、冷泉帝の御代にもまして、
競いあう姫がいそうもありませんな」
とため息をおつきになりますので、大宮、
「どうしてそのようなことがございましょう。
『我が家系から、后の位に立つ人が出ないはずがない』と、
故・太政大臣が仰せになって、弘徽殿女御の入内にもご自身が奔走なさったのですよ。
ご存命でいらしたなら、源氏の大臣に負けることもなかったでしょう」
など、女御の御事についてだけは、源氏の大臣をお恨み申し上げるのです。
姫君はたいそうあどけなく可憐で、
筝の御琴をお弾きになる時の御髪の下がり具合や額髪の生え際などが、
高貴なご身分にふさわしくしっとりと上品なのです。
父・内大臣がじっと見つめますと恥らって少し横をお向きになる面ざしが可愛らしく、
絃を押しつける時の手つきは、まるで上手に作られたお人形のようで、
大宮も限りなく可愛くお思いなのでした。
姫は掻き合わせなどを少しお弾きになって、御琴をあちらに押しやってしまいました。