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折しも若君がやって参りました。
『もしや姫君に逢えるかもしれぬ』と、このごろでは始終お顔をお出しになるのでした。
ところが今日は内大臣の御車がありますので、気が咎め、ばつが悪くなって、
そっとご自分のお部屋にお入りになりました。
左少将、少納言、兵衛の佐、侍従、大夫などという内大臣の御子息たちもみな
こちらに集まっていらっしゃるのですが、
大宮は御簾の内へのお出入りをお許しになりません。
左兵衛督(さひょうえのかみ)、権中納言などは内大臣の異腹でいらっしゃいますが、
故・太政大臣が継子でも分け隔てなさいませんでしたので、
今でもねんごろに大宮邸をご訪問なさいます。
それで自然、その御子たちも大勢お越しになるのですが、
この若君の気品にはとても及びません。
大宮は若君をこの上なく可愛がっていらしたのですが、
ご学問のために二条院に移り住んでからは、
この姫君お一人だけをお傍から離さず身近で大切にご養育なすっていらしたので、
ひどくがっかりしていらっしゃいます。内大臣は、
「今から参内いたしまして、夕方、姫をお迎えに参ろうと存じます」
と、行ってしまいました。道すがら、
『今さら仕方のない事なのだから、むしろこちらから穏便に言いなして、
二人の結婚を許すべきであろうか』
とお思いになるのですが、やはり気持がおさまりませんので、
『若君の官位がもう少し昇進した時に、その時の愛情の程度を見定めて、
改まった縁談と言うことにして結婚を許す事にしよう。
二人によく言い聞かせ注意するとしても、
同じ住いでは見苦しいことが起らぬとも限らぬ。
大宮が厳しくご意見なさることもあるまい』
とお思いになって、女御の所在なさを口実に、大宮にも北の方にも穏便に言い繕って、
姫を自邸にお引き取りになるのでした。