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大宮はひどく気落ちなさって、
「たった一人の娘が亡くなりまして後、ひどく寂しく心細く思っておりましたが、
嬉しいことにこの姫君をお預かりいたしましてからは、
私の命ある限りのかしずき者として、
明け暮れにつけての老いの辛さの慰めにと思って大切にお世話して参りました。
それなのに、意外にも他人行儀な御心でいらっしゃるのは、薄情ではありませんか」
と申し上げますと、内大臣はかしこまって、
「私は心に思う事を正直に母宮に申し上げたまででございます。
他人行儀とはどういう意味でございましょう。
内裏にお仕えする弘徽殿女御が、中宮の御位に着けない事を嘆いておりますので、
里に退出させたのでございますが、ひどく所在なく鬱々としておりますのがお気の毒で
『せめてご一緒に御遊びなどしてお慰めしては』と存じまして、
少しの間呼び寄せたのでございます」
さらに、
「今まで大宮が大切にお世話くださり、立派にご養育くだすった御恩を、
決して忘れはいたしませぬ」
と申し上げます。
固くご決心なさったからには、お留め申されたところで
思い直されるようなご性分ではありませんので、ひどく残念にお思いになって、
「人の心ほど思うようにならず切ないものはございませぬ。
子ども心にせよ私に隠し事をするなんて、何と厭わしいことをなさる。
それはそれとしても、内大臣も思慮分別をわきまえていらっしゃるのに、
私を恨んで姫をつれて行ってしまうなんて。
あちらに住んでも、ここより安心ということはないでしょうに」
と泣きながら仰せになるのです。