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若君は一人取り残されてひどくばつが悪く胸が塞がり、
自分のお部屋でお寝みになってしまいました。
そのうち御車が三つばかり、前駆の声も控えめに
大急ぎで出て行かれる気配がしますので、若君はいたたまれないお気持ちになります。
大宮の御前から「こちらへいらっしゃい」とお言葉があるのですが、
狸寝入りして身動きもなさいません。
涙ばかりが流れて止まらず泣き明かして、霜がたいそう白く降りた早朝、
急いで二条院にお帰りになります。
『泣き腫らした目を人に見られるのは恥かしいし、
大宮が私をお引き留めなさるであろうから、一人になれる所に』
と、大急ぎで大宮邸を後になさるのでした。
誰のせいでもなく自分のしたことを心細くお思い続けになります。
空の気色もひどく曇り、あたりはまだ暗いのでした。
「霜氷 うたてむすべる明けくれの 空かきくらし 降る涙かな
(霜や氷がひどく凍てつく明け方の暗い空。
その空を曇らせて降る雨は、まるで私の涙のようではないか)」
★
源氏の太政大臣邸では、今年の新嘗祭に五節の舞姫を朝廷にたてまつります。
格別準備なさることはないのですが、その日が近くなりますと
舞姫に付き添う童女たちの装束の準備を急がせなさいます。
東の院にお住いでいらっしゃる花散里の御方には、
参内する夜の者たちの装束の用意をおさせになります。
源氏の大臣は全体の準備をなさり、梅壺中宮(斎宮の女御)からは、
童・下仕への分を過分に奉納なさるのでした。
去年は藤壺中宮崩御の諒闇でこの儀式が停止になり、
張り合いがなくて寂しかったのですが、その反動のように
今年は殿上人の気持ちもいつもより陽気に思える年ですので、
舞姫をたてまつる家々では互いに競ってたいそう立派に、
贅を尽くしていらっしゃるようなのです。
公卿からは姫君の父・按察大納言と内大臣の弟・左衛門の督が、
受領分では、今は近江の守で左中弁となった良清が舞姫をお立てになります。
皆この五節の舞姫を女官として内裏に仕えさせるべく、我が娘をたてまつるのでした。