私訳・源氏物語

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November 28, 2012
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カテゴリ: 源氏物語

娘の兄で童殿上する者が常にこの若君にお仕えしていますので、

いつもより睦ましくお話しなさって、

「妹の五節は、いつ内裏へ参るのだ」

とお尋ねになります。

「今年中には、と聞いておりますが」

と申し上げます。

「たいそう可愛らしい顔をしていたので、無性に恋しい。
いつも見馴れているおまえが羨ましいよ。そうだ、私に会わせてくれないか」

と仰せになりますので、

「滅相もない。私ですら見ることができないのでございます。
父上は男の兄弟であるというだけで私どもを遠ざけます。
ましてあなたさまに、どのようにしてお目にかけることができましょう」

と申し上げます。

「ならば、文だけでも渡してくれないか」

と御文をお渡しになります。童は、

『このような文使いはせぬようにと、父上から厳しく言われているのに』

と困ってしまうのですが、
何としてもと仰せになりますので断り切れずに持って参りました。

五節は、年の割にませていたのでしょうか、若君の御文に心が惹かれたのです。


筆跡は未熟なものの成長が楽しみに思える文字で、

「日影にも 知るかりけめや乙女子が あまの羽袖に かけし心は

(日の光にもはっきりお分かりいただけたでしょうか。
あなたさまが天つ羽衣の袖を振って舞った姿に、すっかり魅了されてしまった私の心を)」

と書いてあります。

それを二人で見ていますと、父・惟光が不意にやってきました。
二人は叱られるかと怖ろしく途方に暮れて、御文を隠すことを忘れてしまいました。

「どうした、その文は」

と取り上げますので、二人は顔を赤らめています。

「怪しからぬ事をしたものだ」

と叱りますと兄は逃げ出しますので、呼び止めて、

「これは誰の文なのだ」

と問います。

「源氏の殿の冠者の君から、しかじか仰せいただいた文でございます」

と応えますと、打って変って笑顔になり、

「何と可愛らしい若君の好き心であろう。
おまえたちは若君と同い年だが、ひどくたわいないというのに」

など若君を褒めて、母君にも見せるのです。

「もしもこの若君が、少しは娘を一人前に認めてくださるのなら、
宮仕えさせるよりは若君にたてまつろうではないか。

源氏の殿の女君たちへの処遇を見ると、ひとたびお見染めになった人を
ご自分からはお忘れにならぬようだから、まことに頼もしい。
明石の入道のような幸運に与るかも知れぬぞ」

と言うのですが、惟光の言う事には誰も耳を貸さず、宮仕えの準備を急ぐのでした。






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最終更新日  August 20, 2017 04:05:42 PM
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