私訳・源氏物語

私訳・源氏物語

PR

プロフィール

佐久耶此花4989

佐久耶此花4989

カレンダー

バックナンバー

November , 2025
October , 2025
September , 2025
August , 2025
July , 2025
June , 2025
May , 2025
April , 2025
March , 2025
February , 2025

キーワードサーチ

▼キーワード検索

December 20, 2012
XML
カテゴリ: 源氏物語

あちらこちらの珍しい風景を眺めながら、

「夕顔の君は気がお若かったから、この景色をお見せしたらさぞお喜びでしたでしょうね」

「されどもしもご存命でいらしたら、私たちは筑紫に下向することもありませんでしたわ」

と、互いに言い合っては返す波が羨ましく、わが身は心細く、水夫どもが、

「もの寂しくも遠くまで来たものだ」

と唄う荒々しい声を聞きながら、姉妹差し向かいで泣くのでした。姉が、

「舟人も たれを恋ふとか大島の うらがなしげに 声の聞こゆる

(舟人も誰かを恋しく思って唄っているのでしょうか。うら哀しげな舟歌が聞こえます)」

と歌えば、妹も、

「来し方も 行くゑも知らぬ 沖に出でて あはれいづくに 君を恋ふらん

(来し方行く末も分からぬ沖に漕ぎ出して参りましたが、
恋しい夕顔の君はどこにいらっしゃるのでございましょう)

都から遠い鄙の旅路で」

と、思いのたけを言い合うのでした。

鐘の岬を過ぎても「私たちは夕顔の君を忘れませぬ」という言葉を
口癖のように言い続け、まして都からははるかに遠い大宰府に到着してからは、
恋い泣きして、この姫君を大切に養育して暮らします。

乳母は、たまに夢に夕顔の君を拝見する時があります。

夢の中では同じ姿をした女がもう一人いらっしゃるのですが、
覚めた後の気分が悪く病気になったりしましたので、

『きっとお亡くなりになったのだわ』

と思うようになるのもひどく悲しいのでした。






お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  August 20, 2017 03:57:59 PM
[源氏物語] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: