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大殿がそのお二方の様子をご覧になって、
「上達部の座が、ひどく端近ではありませんか。こちらへいらっしゃい」
と、東の対の南面にお入りになりましたので、皆そちらにおいでになります。
兵部卿の宮も居ずまいをお直しになりおん物語をなさいます。
上達部以下の殿上人は簀子の間に円座を敷いて座ります。
若い人々は、格式ばったものではありませんが、
様々な箱の蓋に椿餅、梨、柑子のような物を取り交ぜてありますのを
ふざけながら食べます。
上達部は魚介の干物でお酒を召し上がります。
衛門の督はひどく思いに沈み、
ややもすると桜の花に目を止めて思いに耽っています。
大将は事情を知っていますので、
『御簾からほのかに見たおん方を思い出しているのであろう』
と思っていらっしゃいます。
『だが一方ではひどく端近にいらした事を、はしたないとも思うであろうな。
それにしても、こちらのおん方ならばそのように不用心な事はなさるまい。
さればこそ父上は、世間から言われるほど宮様をご寵愛なさらないのかもしれぬ』
と合点がいきますので、
『やはり、内にも外にも心配りが足りなく幼稚なのは、
可愛らしいようではあるけれど安心できないものだな』
と、見下げた気持ちになるのでした。
衛門の督は、そのような女三宮の欠点に考えが及びませんでした。
思いがけず物の隙間からほのかに宮様を拝見したにつけても、
『以前から思いこがれていた気持ちが叶うかもしれぬ』
と嬉しくてたまらず、女三宮の事が頭から離れないのでした。