私訳・源氏物語

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October 3, 2014
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カテゴリ: 源氏物語

夜通し神楽を奏してお明かしになります。

空には二十日の月がはるかに澄んで、海が一面にうつくしく見え渡り、
地面には霜がたいそう深く下りて松原の色も白く変わり寒々として、
風情も面白さもひとしおたちまさるのでした。

紫の上は六条院の内ながら、
その時々に応じて朝夕興ある遊びに聞き飽き目馴れて
いらっしゃいましたけれども、
御門から外での物見などめったになさいません。

まして都から離れた旅は初めてでいらっしゃいますので、
珍しく感興深くお思いになります。

「住の江の 松に夜深くおく霜は 神のかけたる木綿鬘(ゆふかづら)かも
(住吉の入江に夜深く下りた霜は、
住吉の神様がお掛けになった木綿鬘のようね)」

小野篁の朝臣が『比良の山さへ』と詠んだ雪の明朝を想像なさいますと、

『雪景色は、大殿のおん志を住吉の神がお受けになったしるしかもしれない』

と、ますます頼もしくお思いになるのでした。

明石女御の君の御歌、

「神人の 手にとりもたる 榊葉に 木綿かけそふる 深き夜の霜
(神にお仕えする人が手に持っている榊の葉に、
さらに木綿を掛け添えるような夜の霜ですわね)」

中務の君、

「祝(はふ)り子が 木綿うちまがひ置く霜は げにいちじるき 神のしるしか
(神官が持つ木綿かと見まごうばかり一面に置かれた霜は、
ほんに住吉の神が御願をお受けになったしるしのようでございます)」

次々と詠まれた歌は限りなくあったのですが、
書き記すまでもないようでございます。

このような折の歌は、例によって自信ありげにお詠みになった殿方の歌でも、
松の千歳を詠むばかりで当世風な新しさがなく、
精彩に欠けたものばかりでございますので省略いたします。

ほのぼのと夜が明けてゆくにつれて霜はますます深く下り、
本末も分からなくなるほど深酔いしたお神楽の人々は、
顔の赤いのも知らず興に乗り、篝火が消えかかっているのに、

「万歳、万歳」

と、榊葉を振りながら祝福申し上げる大殿の御行く末は、
思いやるだけでもたいそうめでたく頼もしいのでした。

何事も飽かず面白いままに、千夜をこの一夜にしたいような長い夜も
あっけなく明けてしまいましたので、
若い人たちは返る波と競うようにして帰京しなくてはならないのを
残念に思うのです。






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最終更新日  August 19, 2018 08:22:21 PM
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