私訳・源氏物語

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佐久耶此花4989

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November 14, 2014
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カテゴリ: 源氏物語

の花は趣ある夕暮れの薄暗い空に、まるで去年の雪のように、
枝もたわむほど咲き乱れています。

ゆるやかに吹く風に乗って、御衣に焚き染めた香のかおりが
御簾の内から吹き合わせて、
まるで六条院に鶯を誘うような匂いが漂っています。

大殿が御簾の下から筝の琴を少し差し出しまして、

「左大将には失礼かもしれませんが、絃を張って調子をみていただけませんか。
この場にあなた以外の人が入るわけにはいきませんからね」

と仰せになりますので、緊張してお受けになります。

そのご様子は心遣いも深くご立派で、
壱越調(いちこぢょう)の音に定めたまま控えていらっしゃいますので、

「調子の掻き合わせに、短くて趣あるものを一曲弾いてごらんなさい。
座が白けない程度にね」

と仰せになります。左大将は、

「今日のお遊びに加わるほどの技量を、
私はどうも持ち合わせておりませんので」

と、気取ったご返事をなさいます。

「そうかもしれませんが、『女楽に参加もしないで逃げてしまった』
と世間に噂されるほうが悔しいでしょう」

と、お笑いになります。

それで調子を合わせて、申し訳程度に弾いてお琴を返上なさいました。

おん孫の君達がたいそう可愛らしい宿直姿で吹き合わせた笛の音は、
まだ幼いとはいえ先の上達がみえてたいそう楽しみなのでした。

調弦がすんで合奏なさる中で、明石の上の琵琶は際立って気品があり、
古風で神々しい手法は音色も澄み切って面白く聞こえます。

大殿が紫の上の和琴にお耳を澄ましてごらんになりますと、
やさしく好ましいおん爪音に、掻き返した音がめずらしく華やかで、
しかも和琴の上手たちが
仰々しく掻きたてた調べや調子に劣ることなく賑やかで、
『とるに足らぬ大和琴にも、このような手法があったのか』と驚くのでした。

熱心なご習練の甲斐が確かに聞こえて面白く、ほっと安心なすって
『ほんに、またとない人だ』と感心なさるのでした。






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最終更新日  August 19, 2018 08:02:51 PM
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