私訳・源氏物語

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February 5, 2016
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カテゴリ: 源氏物語
「長患いをしておいでのわりには、それほど窶れてはいらっしゃいませんね。
今の方が反って優雅に見えますよ」

そうして、涙を押し拭いながらお尋ねになります。

「ともに死ぬまで変わらぬ友情を約束した仲ですのに、水臭いではありませんか。
こんなに親しい間柄でありながら、私にはさっぱり訳が分かりませぬ。一体何があったのです」

「自分でも重くなる理由がわからないのです。
どこがどう苦しいということもないうちに急に衰弱いたしまして、
今では正気も失ってしまいました。死んでも惜しいような身ではございませんのに、
命を引きとどめるような祈祷や願掛けの力なのでしょうか、
さすがにこの世に生き長らえますのも反って苦しく、
自分から死へ駆り立てているような心地がいたします。
両親のお心を悩まし、親孝行も帝へのご奉仕も中途半端なままでございますし、
わが身を顧みますとはかばかしからぬ出世も残念に思うのでございます。
そういった嘆きはともかく、私の心の内には煩悶していることがございまして、
こういった最期にも決して漏らすべきことではないと存じますが、
あなたさまの他に私の憂いを打ち明けるべき人がございましょうか。
兄弟はあまたおりますが、私の気持ちをわかってくれる者はおりませぬ。

実は、六条院の大殿との間にいささかの行き違いが生じまして、
月ごろ密かにお詫び申すような事情がございました。それがひどく心にかかり、
世間に交わっていけるかと心細く感じますうちに病を得てしまったのでございます。
大殿からのお召しで朱雀院の御賀の試楽に参りました際に、
やはりお許しいただけないお気持ちをお目の端に拝見いたしましてからは、
これ以上世に生き長らえることも憚り多いと思い始め、
それから心が騒いで鎮まらないのでございます。





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最終更新日  February 5, 2016 04:35:42 PM
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