私訳・源氏物語

私訳・源氏物語

PR

プロフィール

佐久耶此花4989

佐久耶此花4989

カレンダー

バックナンバー

November , 2025
October , 2025
September , 2025
August , 2025
July , 2025
June , 2025
May , 2025
April , 2025
March , 2025
February , 2025

キーワードサーチ

▼キーワード検索

August 9, 2016
XML
カテゴリ: 源氏物語
月が差し出でた曇りなき空に列をなして飛ぶ雁の音を、
宮は羨ましく聞いていらっしゃるのでしょうか。
風が肌寒く、もの哀れな気配に誘われて、
筝の琴をほのかにかき鳴らしていらっしゃいますのも、
深みのある音色ですので大将の心に沁みまして、琵琶をお取り寄せになり、
たいそうなつかしい音色で想夫恋をお弾きになります。

「ご心中を忖度申すようで恐縮でございますが、この曲につきお返事をいただけましたら」


と、しきりに御簾の内にご催促申し上げるのですが、

宮にはうっかりお返事がおできにならない曲目ですので、

ただしみじみと物を思い続けていらっしゃいます。すると大将が、


「ことに出でて 言はぬも言ふにまさるとは 人に恥ぢたる けしきをぞ見る


(言葉にしておっしゃらないとは、

言うにまさる深い思いでいらっしゃるということでございましょうね。

私にはあなたさまの恥じらいのご様子で、ちゃんとわかっております)」


と仰せになりましたので、終わりの節を少しばかりお弾きになって、


「深き夜の あはればかりは聞き分けど 琴よりがほに えやは言ひける


(深き夜に聞く想夫恋の風情だけは聞き分けることができますけれど、

それ以上の事を申してはおりませんわ)」


とお返事なさいます。


 和琴は大まかな音色が特徴なのですが、昔の人が心を込めて弾き伝えたものは、

同じ調べのものであってもすごみがあります。

宮が少しばかり弾き鳴らしてお止めになったことを残念に思うのですが、


「物好きにも、あれこれ弾き出しましてみっともないところをお目にかけてしまいました。

秋の夜更かしをいたしますと亡き衛門督に咎められましょうから、

御いとまをさせていただきます。また改めて失礼のないよう御伺いいたしとう存じますが、

それまでこの御琴どもの調子を変えずにお待ちいただけましょうか。

引き違えることもある世の中でございますので、気がかりでございまして」


と、はっきりとではなく、心の内をほのめかしたつもりになって退出なさいます。






お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  August 9, 2016 03:42:11 PM
[源氏物語] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: