私訳・源氏物語

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August 12, 2016
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カテゴリ: 源氏物語
御息所が、

「今宵の御風流には、故・衛門督もきっとお許しくださろうと存じます。
はかない昔のお話ばかりをなすって、
玉の緒がのびるほどにもお弾きにならなかったのは残念でございますけれども」


と、おん贈り物に笛を添えて奉ります。

「これは由緒ある笛と聞いております。
伝えるべき人もなく、
このような蓬生にうづもれるのはもったいのうございます。
随身の声とともに、あなたさまが御
車の中でお吹きくださいましたら
どんなによろしいかと、よそながらも聞かせていただきとう存じまして」

「これは私にはもったいないほど立派な随身でございますな」

とご覧になります。
なるほど衛門督が和琴とともに一生涯大切にしていた楽器で、


「私自身でもこの笛の妙音を出し切ることはできない。
名人と思うような人に、何とかして伝えたいものだが」


と、折々話していらっしゃいましたので、愛着をお感じになって、
試しに鳴らしてみます。盤渉調の半分ばかりを吹きさして、


「故人を偲ぶひそかな和琴の音色は、拙くても許されましょうが、
笛はどうもきまり悪うございますな」


そうおっしゃって帰ろうとなさいますので、御息所、

「露しげき むぐらの宿にいにしへの 秋にかはらぬ 虫のこゑかな

(涙ばかりの侘しい蓬生の宿でございますけれども、
昔の秋と同じように虫の音が響いております)」


と、お歌いかけになります。

「横笛の しらべはことにかはらぬを 空しくなりし 音こそつきせね

(主はいなくとも、横笛も琴のしらべも以前と変わることがないのですね。
お亡くなりになった悲しみに泣く虫の音までも尽きることがなく)」


 そうしてぐずぐずしていらっしゃいましたので、
すっかり夜が更けてしまいました。


 お邸にお帰りになりますと、
格子などを下ろさせて皆お寝みになっていらっしゃいます。


「近頃二宮さまにご執心で、ねんごろにご訪問なさるようですわ」

などと北の方に告げ口する女房もいますので、
こんなふうに夜更かしなさるのを憎くお思いになって、
寝たふりをしていらっしゃるのでしょう。

大将は「妹とわれのいるさの山の」と、きれいなお声でお謡いになり、


「どうして格子を閉め切っているのです。ああ、鬱陶しい。
今宵のみごとな月を見ないなんて」


と呻いていらっしゃいます。
格子をあげさせ給いて自ら御簾を巻き上げなどなさり、
端の方にお寝みになります。


「こんな月夜なのに、のんびり夢など見る人があるものでしょうか。
少し出ていらっしゃい。ああ、嫌なこと」


などお話しかけになるのですが、
北の方は面白くありませんので聞こえないふりをしていらっしゃいます。





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最終更新日  August 13, 2016 12:15:30 AM
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