私訳・源氏物語

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佐久耶此花4989

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July 5, 2018
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カテゴリ: 源氏物語
九月になり、九日には、綿で覆った菊をご覧になって、

「もろともに おきゐし菊の朝露も ひとり袂に かゝる秋かな

(去年までは紫の上とともに起き、着せ綿をして長寿を願った菊の白露も、
今年は私一人の袂に涙となってかかる秋になってしまった)」。

神無月の時雨がちになるころは、夕暮れの何となく心細い空の景色に、
「降りしかど」と独り言ちて、
雲居を渡る雁の比翼をうらやましく見ていらっしゃいます。

「大空を かよふまぼろし夢にだに 見えこぬ玉の ゆくゑたづねよ

(大空を通う幻術の使い手よ、夢にまで見えてこない紫の上の、
魂の行方を尋ねておくれ)」

何事につけてもお気の紛れることがなく、
月日が経つにつれて亡きおん方のことを恋しくお思いになるばかりです。

五節の舞などで世間が何となく華やかな霜月には、
童殿上なさる若君たちを連れて、大将殿がおいでになりました。

同じ年ごろの二人で、たいそう可愛らしい様子をしています。

おん叔父の頭中将、蔵人少将などは小忌の役職ですので
青摺の御衣装が目にもすがすがしく、大将に打ち続き六条院に参上なさいました。

みな悩みなどなく晴れやかな様子でいらっしゃいますのをご覧になりますと、
さすがに昔、筑紫の五節にお文をおあげになったことを
お思い出しになるのでしょう。

「宮人は 豊の明にいそぐけふ 日影も知らで 暮しつるかな

(大宮人たちは五節の舞に急ぎ参内する今日であるけれど、
私は日の光も日影も知らずに暮らしていることよ)」

今年一年をこうして耐え忍んで過ごしてきたのですから、
俗世をお捨てになるであろう時を近くお決めになるにつけても、
感慨深いことが尽きないのです。

次第に出家の準備をあれこれとお考えになって、
女房たちには形見の品などを大げさにではなく、
身分に応じて下賜なさいます。

お側近くにお仕えする女房たちは『きっと御本望を成就なさるんだわ』
と見たてまつるままに年が暮れてゆくのも心細く、限りなく悲しいのでした。





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最終更新日  July 5, 2018 09:57:38 PM
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