私訳・源氏物語

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July 30, 2018
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カテゴリ: 源氏物語
中将のお身体から発せられる香りの香ばしさは、
この世のものとは思えないほどです。

不思議なことに中将がおいでになる辺りから遠く離れた所でもほのかに香り、
百歩香といいますけれども、
ほんにそれ以上のところでも薫るような心地がいたします。

源氏の院の御子と申し上げるおん方々は誰もがよく目立ちますし、
それぞれに「我こそは」とお洒落をなさいますのに、
中将は不都合なまでの強い香りのせいで、
人目を忍んで近寄る物陰も隠れようがありませんので、
それをうるさがってめったに香をたきしめなさらないのですが、
たくさんの香木を納めたおん唐櫃に埋もれている香どもも、
中将の君の香が加わりますと得も言われぬ匂いとなり、
御前の花の木も、ちょっとお袖が触れた梅の香は
春雨の雫に濡れながらでも身にしみ込ませる人が多くあり、
秋の野に咲く藤袴の側を通りますと、
もとの香りは薄れて中将の親しみ深い追い風が香り立ち、
それを手折りますと花の香はいっそう際立つのでした。

こんなふうに人が不思議に思うほど
お身体に香りがしみ込んでいらっしゃいますので、
兵部卿の宮は負けまいと競っていらして、
あらゆる優れた香をお焚き染めになり、
薫物の調合を朝夕の仕事にまでなさって、
何とか御召し物に香を移したいと思っていらっしゃいます。

お庭の前栽でも、春は梅の花の園を眺め給い、
秋は世の人が色を愛でる女郎花や、牡鹿が妻にするという萩の露には
少しもお心をお移しにならず、髪に挿すと老いを忘れるという菊や
枯れてゆく藤袴、見栄えのしない吾木香などを、
霜枯れするころまでその香に執着なさるなど、
殊更らしい様子で香を愛でることを好んでいらっしゃいます。

このような有様ですので、世間の人は兵部卿の宮を
『柔和すぎて、趣味に溺れるご性分でいらっしゃる』と噂するのでした。

しかし昔の源氏の君はこの宮のように、
一つ事に執着なさるということはありませんでした。





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最終更新日  July 30, 2018 09:34:04 PM
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