私訳・源氏物語

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December 15, 2024
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カテゴリ: 源氏物語
ご婚儀の後は六条院の姫君のもとにいらして、
二条院には心安くお渡りにもなれません。

宮は重いご身分でいらっしゃいますので、
夜はもちろん昼間も思うようにお出かけができず、
昔紫の上が住んでいらした六条院の南の町におわします。

六の君を避けているように思われてはなりませんので、
日が暮れましても二条院にはようお帰りにはなれないまま
過ごしていらっしゃいます。

中君は宮のお越しのないまま待ち遠になる折々がありますのを、
『こうなることはよく分かっていたはず』
と思うのですが、

『こんなに簡単に捨てられてしまうなんて。
思慮があれば物の数にも入らぬ我が身を自覚して、
高貴なご身分の方々と付き合うべきではなかったのだわ』
と、宇治の山路を出てきたことがうつつとも思えず、
悔しく哀しく思われて、

『やはり何とかして宇治に帰りたい。
宮さまとのご縁を断ち切ってしまうのではなく、
しばらくの間宇治で気持ちを慰めたいだけなの。
それならば宮さまに背くことにはならないと思うもの』

など、あれこれ考えては思い余って、
恥ずかしいとは思いながら薫中納言殿にお文を差し上げました。

『先日は故・父の法要を営んでくださいましたことを
宇治の阿闍梨からの消息文で詳しく承りました。

今でも昔をおわすれにならないあなた様の
ご親切なお取り計らいがございませんでしたら、
どんなに父が気の毒だったかと思いますと、感謝に堪えませぬ。
つきましてはお目にかかって直接お礼を申し上げとう存じます』

と書いてあります。

引き繕ったところもなく、
檀紙に生真面目なふうに書いていらっしゃるのも、
たいそう風情があります。

故・八宮の御忌日には追善のご供養などを
たいそう厳めしくおさせになりましたことを
中君が喜んでいらっしゃる様子が、
仰々しくはありませんけれどもお分かりになったからでございましょう。

いつもはこちらから差し上げるお文のお返事さえも
気を許ずかしこまっているように思われましたのに、
今日は「お目にかかりまして」とさえありますのを珍しく嬉しく、
心ときめくのでございましょう。

匂宮はちょうど六の君という新しい女君に気持ちが傾いている時ですので、
疎遠にされた中君がお気の毒に思われて、
何ということのないお文ですのに下に置きもせず、
何度も何度も読み返していらっしゃいます。

お返事は、

「お文、拝見いたしました。
法要の日はあなた様にも告げず私の一存で、
人目を忍んで宇治に参りましたのも、理由あってのことでございました。
あなた様は『名残』と書いておいででしたが、
いかにも私の好意が浅くなったようで、恨めしく存ぜられます。
そのうち御前に参上いたしまして詳しくお話し申し上げましょう。
あなかしこ」

と、ごわごわした白い色紙に生真面目にお書きになりました。





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最終更新日  December 15, 2024 09:26:05 PM
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