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July 15, 2008
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カテゴリ: 教授の読書日記



もちろん超一流のアメリカ文学・文化研究者の書かれたエッセイですから、本を読むことに関する話題があれこれ出るのですけど、そういうものを読んでいると、ははあ、なるほど亀井先生はこういう風にして本を読まれてきたのか、と思うことが多いんです。特に私が興味を抱くのは、何の本を読んだか、ということではなく、本を読んだあとどうするか、ということですね。

で、この点について、亀井先生は川端康成の『雪国』の一節から説き起こします。この小説の中で、ヒロインの芸者・駒子が作者自身と思しき島村と話をしながら、自分は15歳くらいから読んだ小説のことを書き止めておく習慣があるのだが、いつしかそのノートが10冊になったというようなことを言うシーンがあるんですな。で、この駒子の習慣に対し、島村が次のようにちょっと茶を入れる、と・・・。


「感想を書いとくんだね?」
「感想なんか書けませんわ。題と作者と、それから出て来る人物の名前と、その人たちの関係と、それくらいのものですわ。」
「そんなものを書き止めたって、しょうがないじゃないか。」
「しょうがありませんわ。」
「徒労だね。」
「そうですわ」と、女はこともなげに明るく答えて、しかしじっと島村を見つめていた。




でも、ここが亀井先生の正直なところで、この雑記帳が近年、なかなか増えなくなってきた、ということも告白されています。

「もっとも、いつしか、この雑記帳があまりふえなくなってきた。昔は、一年に大学ノート一冊分は書いたのに、近ごろは、数年たってもまだ同じ大学ノートが終わらない有様だ。本を読まなくなったのではない。読む分量はむしろふえていると思う。しかしどうも、純粋に読書を楽しむよりも、研究者という仕事のために読むことが多くなり、それはしばしば拾い読みの作業ともなって、雑記帳に書きとめるにはいたらないのである。書評を書くために読む、などということもある。読書人としては堕落だと思う。」(本書89-90頁)

分かるなあ! あの亀井先生ですら、そうなんだなあ! 堕落、なんだよなあ!

とはいえ、そこはやはり亀井先生なのであって、その後大学でアメリカ文学を講じるようになってからは、アメリカの小説を読むたびに、その作品の筋や人物関係、素朴な感想などをノートに記すようになり、それがやがてたまりにたまって、『アメリカ文学史講義』(全三巻・南雲堂)を書き上げるための豊かな源泉になったというのですからやっぱり凡人とは違います。

で、そういうことを述べられたあと、先生は次のようにこの文章をまとめられています。

「読書の醍醐味は、結局、駒子の読み方にあるような気が私にはする。こむずかしい理屈や批評は二の次、三の次。いちばん心ひかれることを、私は大切にしたい。大切にしたい気持ちが高じると、それを書きとめておくことにもなる。書きとめておくことは、それを自分の心のものにすることにつながるのではないか。駒子は、自分では気づかぬうちにそれをしていた。だから、『徒労だね』といわれても、『そうですわ』と、『こともなく明るく』答えることができた。彼女の心は豊かで、そこから、姿態のなまめかしさを越える彼女の魅力が生まれ、私も感動を誘われる結果になったのであろう。」(90-91頁)

ふーむ。なるほど。これが駒子の魅力であり、また亀井先生の読書法の神髄なんですなあ。

私なんぞ、仕事柄、本は人並み以上に読む方ですが、筋とか登場人物の人間関係とかすぐ忘れちゃうんですよね~。これからは私も駒子に倣った亀井先生に倣って、雑記帳に簡単なメモと、どうしても書いておきたい感想や、素晴らしいと思う文章の一節なんかを書き抜いちゃおうかしら。っていうか、このブログをそういう場にしてしまえばいいわけですけどね。

それからあともう一つ、この本を読んでいて「おっ」と思ったのは、亀井先生の恩師のお一人である矢野峰人先生の思い出を綴っておられる箇所でありまして、ここで亀井先生は、矢野先生から「アンソロジーつくり」を勧められた、ということを述べられています。

「・・・その授業で教わったことの一つに、アンソロジーつくりがある。先生は蒲原有明の逸詩拾集に苦心された。たぶんその体験を話された時、ついでに、個人の詩文にしろ、世界の文学にしろ、自分がその精華だと思うものを集めて、自分本位のアンソロジーをつくることをすすすめられたのである。/世間に流行の文学理論をふりまわしたり、それによって作家や作品を一刀両断してみせたりすることに、どれほどの価値があるか。詩文を愛し、味わい、魂を呼応させることこそ、文学研究の土台であろう。アンソロジーつくりは、まさにそういう仕事である」(137-138頁)

その時その時の自分の読書の力に応じて、自分がもっとも愛し、もっとも優れていると思う文学作品を集めてアンソロジーをつくる。それこそが文学研究の出発点だ、というこの矢野先生の、そしてその理念を受け継がれた亀井先生の教え。腹にこたえるねえ! 私はこういう腹にこたえる言葉が好きなんです。



亀井俊介先生の『ひそかに ラディカル?』という本、こんな感じの本なんですけど、もし興味のある方はぜひお読み下さい。教授のおすすめ!です。


これこれ!


ひそかにラディカル?





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Last updated  July 16, 2008 12:20:15 AM
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釈迦楽@ Re[3]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  ああ、やっぱり。同世代…
丘の子@ Re[2]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 釈迦楽さんへ そのはしくれです。きれいな…
釈迦楽@ Re[1]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  その見栄を張るところが…
丘の子@ Re:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 知らなくても、わからなくても、無理して…
釈迦楽 @ Re[1]:京都を満喫! でも京都は終わっていた・・・(09/07) ゆりんいたりあさんへ  え、白内障手術…

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