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February 1, 2012
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カテゴリ: 教授の読書日記



 「東京R不動産」というのは実在する不動産屋さんで、ネットで検索しても、そういうサイトがあり、ちゃんと不動産を紹介しています。じゃ、この不動産屋さん、普通の不動産屋とどこが違うのか。

 ま、一言で言えば、ちょっと毛色の変わった物件を紹介している、ということですな。

 どう変わっているかというと、例えば、部屋は4畳だけなんだけど、そこに60平米のバルコニーが付いていて気持ちいいよ、とかね。5階建てビルの5階なんだけど、エレベーターはないよ、ただし、ビルの屋上は好きに使ってくれていいよ、とか。一応3DKだけど、部屋の幅はどこをとっても1メートル73センチしかないよ、とか。めちゃくちゃぼろいけど、内装とか、好き勝手に手を入れていいよ、とか。

 しかし、普通であれば不利な条件の多い物件でも、それを構わないと思う、いや、むしろそういうのを探していたという人は居るわけ。「東京R不動産」は、そういう不可思議な物件を、そういうのを欲する人に仲介する仕事をしていると。

 で、この東京R不動産の発足経緯というのが面白くて、代表にあたる馬場正尊氏が、自分のオフィスとして使える物件を探していたんですな。その際、彼としては内装を自由に変えていいというのが条件だった。

 ところが、内装を変えて、しかも出ていく時に元に戻さなくていい、なんていう物件って、普通の不動産屋では扱わないらしく、あちこち問い合わせてもなかなか色よい返事がないんですって。

 で、それでもしつこく問い合わせたところ、しぶしぶ、「こんな物件でいいんならあるよ」と、ファイルの一番底の方にあった物件を紹介してくれた。そしたら、それがまさに馬場氏の望むような物件だった、というんです。

 そこで彼は、普通の人が望む物件と自分が望む物件の間には大きな差異があって、自分が望むような物件は、たとえ存在はしていても、その気になって掘り出さないと表には出てこないんだ、ということに気づくわけ。



 そう思ったことが、「東京R不動産」の始まりだったんですな。

 不動産の価値は、普通、広さとか日照とか、駅からの近さとか、そういういくつかのパラメータで計られるわけですけど、それとは別のパラメータで見れば、この大東京には面白い不動産が沢山ある。それを発掘することは、いわば「街の可能性を発掘するような作業」(7ページ)だろうと、馬場さんはそう言います。実際、東京R不動産は、今では何人もの社員を抱えながら、採算の合うビジネスを行なっている。事業として成立しているわけです。

 で、本書『東京R不動産』は、この会社が過去に仲介してきた妙な物件を紹介しつつ、その物件が今、借り手によってどんな風に使われているかを紹介しているのですが、やはりそういうユニークな物件をわざわざ借りようという酔狂な人たちですから、やっぱりユニークかつ才能豊かな人が多いようで、その妙な物件をリノベーションしたりしながら、実に豊かに使いこなし、生活を楽しんでおられる。その楽しさが、写真を多用した本の紙面からヒシヒシと伝わってきます。大体、一般的には不利な条件の多い物件ですから、賃料も異様に安いものが多いですしね。安く借りて、楽しんで生活できれば、いいことづくめじゃありませんか。


 ところで、本書を読みながら思ったのですが、この「東京R不動産」の行き方ってのは、経済とか学問の世界にも深く通じていると思うんですよね。

 そもそも物の価値というのは、本質的に決まっているのではなく、他の物との関係性によって決まるわけです。例えば、かつて日本では浮世絵なんてのは、そんなに価値のあるものだとは思われていなくて、ふすまの穴をふさぐのに使われたりしたわけですが、外国人から見たらえらく興味深いものに思われて、どんどん買っていく。今、ボストン美術館で国宝のように飾られている浮世絵だって、もとはそういう風に日本では二束三文で売られていたもんでしょ。同じように、日本では100円ショップで売っているような電卓でも、そういうものが普及していない国に持っていけば、その5倍くらいの値段で売れるわけですよ。

 ニューヨークのマンハッタン島だって、今、あの島を丸ごと買おうと思ったらどのくらいのお金が掛かるか。だけど最初にあの島をネイティヴ・アメリカンから買い取った白人は、わずかばかりのラム酒と、金ボタンだったか貝ボタンだったか、とにかく何個かのボタンと交換したってんでしょ? つまり、ボタンなるものを見たことがなかったネイティヴ・アメリカンたちは、そんな素敵なボタンとだったら、この島まるごとと交換してもいいと、そう思ったわけです。

 逆に、ネイティヴ・アメリカンからしたら、白人ってのはものすごい馬鹿だな、こんなちっぽけな島を何で欲しがるんだろう、と思ったことでしょう。

 物の価値は、価値観の体系の中で決まる。広大なアメリカの大地を自由気ままに駆け回っていたネイティヴ・アメリカンの価値観の中では、ちっぽけなマンハッタン島なんて、モノの数にも入っていなかった。だけど白人側の価値観の体系からしたら、マンハッタン島にはものすごい価値があったと。

 一つの価値体系の内側にいると、物の価値というのは固定的(本質的)に決まっているんだとしか思えなくなるわけですが、様々な価値体系を相対的に見比べることのできる人にとっては、そうではないということが見えてくる。で、そういう人は、二つの価値体系の差異を利用してビジネスができるわけですよ。



 だから、この本は、不動産の本であると同時に、非常にすぐれたビジネス・モデルを提示していると言ってもいい。

 学問も同じでしてね、大概の研究者が「つまらない」「価値が無い」と決めつけたものを屑籠から拾い出し、「いや、これ、結構面白いんじゃないの?」と考え直すところから、案外、新しい発見があったりするのよ。私が今、大衆向けロマンス小説の研究をしているのも、そうしたところに発想の根っこがあるわけですが。

 ですからね、『東京R不動産』、ただの不動産の本と思うなかれ。読みようによってはなかなか深い本ですぞ。例えば私もクリストファー・アレグザンダーという人が発案した「パタン・ランゲージ」なる概念のことを本書から学ぶなど、勉強の種をいくつも拾いましたし。っつーことで、この本、教授のおすすめ!でございます。


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Last updated  February 1, 2012 11:09:34 PM
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Comments

釈迦楽@ Re[3]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  ああ、やっぱり。同世代…
丘の子@ Re[2]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 釈迦楽さんへ そのはしくれです。きれいな…
釈迦楽@ Re[1]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  その見栄を張るところが…
丘の子@ Re:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 知らなくても、わからなくても、無理して…
釈迦楽 @ Re[1]:京都を満喫! でも京都は終わっていた・・・(09/07) ゆりんいたりあさんへ  え、白内障手術…

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