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May 4, 2012
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カテゴリ: 教授の読書日記



 ちなみに出版元の「DHC」ですが、今でこそサプリメントの会社として名高いものの、昔は大学の英語の教科書や何かを翻訳して、出来の悪い学生たちに供する仕事をしていたのでありまして、「DHC」という社名も、元をただせば「大学翻訳センター」の頭文字を取ったもの。翻訳関連の書物を出すのは、いわば、会社のルーツに関わることなんですな。

 また著者の河野一郎先生について一言しておきますと、先生は東京外大の名誉教授であり、かつカポーティやモームやブロンテなど、英米の著名な作家の作品を翻訳されている翻訳のプロ。本書はそんな先生の経験を元に、翻訳をする際、心がけなければならない諸点を「おきて」として体系化し、それを伝授する実践的な翻訳指南書であります。

 で、本書の冒頭を飾る「第1のおきて」は何か、と言いますと、「辞書を選べ」ということ。翻訳を志そうという者、まずはその道具として優れた辞書を揃えよ、と。まあ、これは翻訳関係の本であれば、大抵冒頭近くで指摘することなのでありますが、しかし、本書が類書とひと味違うのは、その辞書の使い方まで指南しているところ。

 「辞書は逆さに読め」。これが河野先生の教えです。どういうことかと申しますと、最近の若い人は電子辞書を使うけれども、あれは当該の言葉の語義のうち、使用頻度の高い方から順に表示されるし、また調べる側も最初に表示される情報だけ見て満足してしまうことが多い。しかし翻訳を志すほどの人であれば、是非とも紙の辞書を使い、一つの言葉を調べる時にちょっと目を下方に転じて、その言葉の使用頻度の低い語義から順に見て行きなさいと。そうすることで、見慣れた単語に意外な語義が含まれていることに気づくし、そういうことの蓄積が、実際の翻訳の場で、簡単な言葉に足下を掬われることを防いでくれるのだよ、と。

 ふーむ、なるほど。なるほどね。

 しかし、河野先生が主張される「辞書は逆さに・・・」というのは、何も単語の調べ方のことだけではありません。辞書を引くこと自体も「逆さま」にやれ、とおっしゃっているんですな。

 つまり、翻訳初心者の人がやりがちなのは、まず英文の中で分からない単語を辞書で全部引いてから翻訳に取りかかる、というやり方であるが、これはよろしくない、と。先生曰く「未知の語をぜんぶ辞書で引いてから、むりやり訳語をつなぎ合わせ辻褄を合わせようとするのはまったくの邪道。よい翻訳のできるはずがありません。この文章の流れの中ではきっとこういう意味に違いないーーと、まず見当をつけておき、それから辞書で確認するのが本当です。辞書というのは<確認の書>だと思って下さい」(29頁)。

 いやあ、私、本書の冒頭近くでこの一文に出くわし、河野先生はやっぱり違うなあと感心することしきり。やっぱりこういうことをズバリと言えるというのは、それだけ経験があり、その経験に基づいた自信があるということですからね。




○「直訳」か「意訳」かの選択で言えば、直訳の方がいい。ただし、きちんとした日本語になっていれば、という条件付き。

○英語を訳す際、一見うってつけと思える日本語の常套句(「一蓮托生」とか「あぐらをかいて」など)に置き換えることは避けた方がよい。

○英語の名詞は、日本語の動詞に訳し替える(And then suddenly deliverance from daily toil had come to the girl in the most unexpected manner. → まったく思いがけない形で、娘は毎日あくせく働かなくてよいことになった)。

○英語の名詞を形容詞/副詞として訳す(stretches of the room → 「部屋の広がり」ではなく「広い部屋」)(I used the opportunity to ・・・ → 僕はこの時とばかり・・・)。

○肯定の命令形は、否定形・丁寧体で訳す(Swim at your own responsibility. → 泳ぐべからず)。

○間接話法で書かれた文章を直接話法で訳してはならない(以前読んだ安西徹雄氏の説とは逆)。 

○原文の方向を逆にしないこと(I'm not particularly fond of her. → 「あの女は嫌いだ」ではなく、「あの女が特に好きなわけではない」と訳すべき)。

○「he said/she said」の類いは、必要がない限り訳出しない。

○「Oh!」「Ah!」を「おお!/ああ!」と訳さない。

○「がつがつ」「キョロキョロ」などの擬声語・擬態語は、なるべく使わない。ただし、どうしても必要であれば、使うこと自体は構わない(The smell of sweat filled the little room. → 「汗の臭いが小さな部屋に充満していた」より「小さな部屋は汗くさい臭いでむっとした」の方が感じが出る)。

○意外なことに、誤訳の大半を占めるのは、名詞の誤訳。名詞なんて間違えるはずがないと思うのは早計で、名詞に足下を掬われないよう気をつけること。例えば議会などの場で「Question!」という発言があった場合、これは「質問があります!」という意味ではなく、「議事進行に異議あり! 本題に戻れ!」の意。



○出来上がった訳文はかならず音読して確認する。

○登場人物が田舎の黒人であったり、農夫だからといって、画一的に「だんべえ」調で訳すことは止める。

○「衝動的に」のように「的」のつく言葉を多用しない。「とっさの感情に駆られ」などとすればよい。


 といったところでしょうか。もちろんこれは私自身の心覚えであって、他の人が読めばもっと別なところを心に留めるかも知れません。それだけ沢山の情報が本書には詰まっているということであります。

 で、本書全体の傾向というか方針として、まず問題点(要注意点)を含んだ英文を提示し、読者にそれを日本語に訳させた上で、「ここが間違い易いところだけど、ちゃんと訳せましたか」という感じで、答え合わせ的に「どこに注意を払うべきか」を指摘する形式で書かれていますので、本書を通読すると、結構、沢山の英文を読むことになります。そこがまた本書の優れたところで、やっぱりそういう形で問題を出されますと、つい「よーし、俺は引っかからないぞ!」という気になって、一生懸命英文を読みますから、そのこと自体、勉強になるわけです。

 そして本書のまとめというか、応用篇として、巻末にラングストン・ヒューズの短篇があり、これについて「ありがちな訳文」と先生ご自身の訳を突き合わせ、紙上添削のような形で翻訳作業の実際を見せて下さるのですが、この短篇がなかなか良いもので、これを最後に読んで本書も読み終わるというところがまた、本書の一つの味わいになっています。

 ということで、河野一郎先生のこの本、私としては楽しんで読むことが出来ました。翻訳の勉強をしようなんて考えている方には、教授のおすすめ!です。今は絶版のようですが、古書としてアマゾンその他で入手可能ですので、興味のある方は是非!


これこれ!
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Last updated  May 5, 2012 10:00:45 AM
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Comments

釈迦楽@ Re[3]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  ああ、やっぱり。同世代…
丘の子@ Re[2]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 釈迦楽さんへ そのはしくれです。きれいな…
釈迦楽@ Re[1]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  その見栄を張るところが…
丘の子@ Re:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 知らなくても、わからなくても、無理して…
釈迦楽 @ Re[1]:京都を満喫! でも京都は終わっていた・・・(09/07) ゆりんいたりあさんへ  え、白内障手術…

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