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June 11, 2017
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カテゴリ: 教授の読書日記
先ごろ亡くなられた英語学者、渡部昇一さんの『渡部昇一 青春の読書』という本を読了しましたので、心覚えを付けておきましょう。

 その前に何で私がこの電話帳みたいに大部な本(614ページもある!)を読んだかと申しますと、二つ理由がありまして、一つは本書の表紙ね。渡部さんの書斎がそのまま表紙になっているのですけど、これがまあ、すごい。こんな書斎を自分でも作りたい~っていう私自身の願望が、思わず本書を手に取ってしまった第一の理由でございます。

これこれ!
 ↓

渡部昇一青春の読書 [ 渡部昇一 ]

 すごくない、これ? なお、渡部さんの書斎を写した写真は本書の中にも色々あって、これ、本当に個人の書斎? イギリスの由緒ある古書店の写真とかじゃなくて? って感じです。

 で、もう一つの理由は、渡部昇一という人が、日本における自己啓発本の出版史に深く関わってくるから。この人は数多くの英米の自己啓発本を翻訳したり紹介したりしていますし、ご自身でも自己啓発的な本を随分書かれている。翻訳に関して言えば、先日ちょっと批判的にご紹介した加藤諦三氏などとは比較にならないほどしっかりした翻訳をされていますからね。そういうこともあって、この人のことは私がこれから書く本の中でもどこかで触れなくてはならないなあと思っていて、だからこの際、この人の若き日の読書遍歴について知っておこうという下心があったわけですわ。

 で、実際に読んでみたと。

 まず全体的な感想から言いますと、うーん、一言で言いますと、渡部さんという人は、いつまでも若いなと。

 基本、今から40年程も前にあのベストセラー『知的生活の方法』を読んだ時の読後感とあまり変わらないというね。あの時の渡部さんは40代半ば、一方、本書を書いた時の渡部さんは80代半ばのはずですが、文体から何から全然変わってないの。若いわ~、いい意味でも悪い意味でも。



 で、本書『青春の読書』の方で特段にフィーチャーしているのは、鶴岡第一高等学校時代から大学時代にかけてずっと恩師であった英語の佐藤順太先生という方のこと。ま、結局、本書は、佐藤順太先生を始めとする渡部さんの数多い恩師たちに捧げる「先生とわたし」本と言えましょう。実際、渡部昇一という人は、習った先生の影響をやたらに受けまくる「素直なスチューデント」(@ユーミン)なんですな。で、素直なスチューデントだけに、人間だけでなく本の影響も受けまくる。本書はそうした、恩師・恩書へのオマージュで満たされた614ページでございます。

 だけど、そういう種類の本だけに、渡部さんが「わし、この本の影響受けたわ~」とおっしゃっている本群に対し、「私もその本、好きです~」と応対できれば、この上なく楽しい読書になると思うのですけど、そうじゃなかったら「はぁ? 何の話?」で終ってしまうかもしれません。渡部さんに興味があるか、渡部さんの好きな本に興味があるか、どっちかじゃないと、614ページは辛いかもしれない。

 じゃあ、私はどうなのか、と言いますと、先に言いましたように、職業上、その両方に興味があるので、全然OKよ~!

 だけど、あくまでも「職業上」の興味だから、私がこの本から学んだことは、箇条書き的に表せることばかり。要するに、「この情報、後で自分の本で使えるな。いただきっ!!」という感じ。著者からしたら、あんまり感じのいい読者じゃないよね。ごめんなさいね、渡部先生。

 というわけで、ここから先はしばらく、職業上のメモ書きです。つまらないかも知れないけれど、しばしご容赦を。

○スイスの哲学者、カール・ヒルティの『ヒルティ 宗教論文集(上)』に「病気治療法」なる章があり、渡部さんも影響を受けた。(なお、ヒルティは日本では有名だが、今ではスイスでもドイツでもほとんど読まれていないらしい。)

○渡部さんが尊敬している英語学者の一人が田中菊雄。『現代読書法』は、自己啓発本として渡部さんに大きな影響を与えた他、『英語研究者のために』もよく読んだとのこと。また田中氏の『私の人生探求』(『あなたはこの自助努力を怠っていないか』に改変)を復刊する際、37ページもの解説を渡部さんは付けている。

○戦前の『キング』には、人生訓の付録が付いていた。『偉人は斯く教へる』『考へよ! そして偉くなれ』など。

○デカルトは解剖学の知識を持っていて、彼は人間の精神の在り処を松果腺だと考えていた。そして、肉体とは別の精神を創造した神は、宇宙も創造したのであって、ならば宇宙には人間の理性で解明できる法則があるに違いないと考えた。この確信がヨーロッパの精神の基本にある。



○渡部氏はアレクシス・カレルの『人間、この未知なるもの』に非常に強い影響を受けている。渡部氏によれば、カトリック神父でこれを読まなかった人はいないであろうと。カレル曰く「現代はパスカルを忘れてデカルトに従った」。しかし、カレルの影響を受けた渡部氏は、後に大西巨人を巡る言論トラブルに巻き込まれることになる。

○パスカルもまたカレル同様、自分の姪の眼病が信仰によって完治する奇跡を見て、それが『パンセ』執筆のスプリングボードとなった。

○ヒルティの『幸福論』には、「最上の時間消費法は常に仕事である」として人間の懶惰をたしなめるところがあり、一種の自己啓発本と言える。

○『週刊朝日』の名編集長・扇谷正造はデール・カーネギーの『人を動かす』の信奉者だった。彼がこれを読んだのは昭和45年頃のこと。渡部さんもその20年前、英文科2年の時に「Public Speaking」の授業でカーネギーのこの本を読み、影響を受けることに。もっとも、当時日本の英文学会などでこの本が話題になることはなく、アカデミックな世界では通俗書扱いだった。なおカーネギーには『有名人秘話集』や『五分で読める伝記集』など短い伝記物がある。

○渡部氏は、ドイツ語の訓練法として、スマイルズの『Self-Help』の英語版とドイツ語版を併読した。そしてその成果があって、ドイツへの留学が決まった。



○露伴も、スマイルズを必読書として挙げている。

○渡部は1835年刊のトッドの『Student's Manual』の影響も受け、後に翻訳している。

○新潮社の創設者・佐藤義亮の自己実体験型自己啓発本『生きる力』とその続篇『向上の道』は、ともにベストセラーとなった。

○渡部さんとハマトンの『知的生活』の縁は、英作文の参考となるくせのない英文の例として、恩師から推薦されたことから生れた。しかし、実際にハマトンの何たるかを理解したのは、その25年後。そしてこれをきっかけとして、『知的生活の方法』執筆の動機が生まれた。

○『知的生活の方法』がベストセラーになったことで、渡部氏は金銭的な余裕が生まれた。8ケタの額の本を、妻に相談なく買えるほどに・・・。

○スマイルズの『自助論』がイギリスの労働者階級・中流下層階級の人たちにアピールしたのと異なり、ハマトンの本は中流上層階級や知識階級の間でよく読まれた。

○その他、渡部氏にとって有益な自己啓発本であったのは、本多静六の『私の財産告白』、及び高柳米翁の『家を富ます道』。 


 まあ、ざっとこんなところかな。

 それにしても『知的生活の方法』が売れに売れたくだり、すごいね。8ケタのお金って、要するにウン千万ってことでしょ。その額の本を、奥さんに無断で買えたというのだから・・・。

 あと、アレクシス・カレルの本の影響というくだりで、悪名高い「神聖な義務」論争の顛末に触れてあるのですけど、本書の中で渡部氏は、「なーんも間違ったこと言ってないから、謝る必要なんかないもんねー!」という趣旨のことを書いておられるものの、これはさすがに、個人の見解というのにとどめておくべきもので、雑誌記事として公表したら、そりゃ炎上するだろうな、と私も思います。渡部さんとしては確信があってのことでしょうけど、何もこの本にまで書かなくてもいいんじゃないのと。

 というわけで、「ん?」と思うような点も多々ありましたけど、少なくとも自己啓発本研究の観点から言えば、面白くなくはない本ではありましたね。


追加:

 そうそう、この本を読んでいて、一つ気になることがありました。

 田中菊雄さんの『英語研究者のために』という本に言及したくだり(189ページ)で、本書には「・・・その風潮に反対して、田中菊雄は『一外国語を暁得するは一新天地を発見するなり』、また『外国語を知らざるものは、自国語をも知らざるなり」という二つのゲーテの言葉を巻頭に掲げて、この本を出版したのである。『英語研究者のために』と題する本でありながら、ドイツ人のゲーテの言葉だけを巻頭に出したのは、当時のドイツは日本の同盟国なので、出版の際の検閲のことも考慮したのではなかろうか。」とある。

 ところが、このブログにも書きましたけれども、私も最近、田中菊雄さんのこの本を読んだばかりでありまして、私が読んだ講談社学術文庫版のこの本の巻頭には、ゲーテの「外国語を知らざるものは」という文と、もう一つエマソンの文が載っているんです。ゲーテの文章二つじゃないわけ。

 うーん、これはどういうことなんだろう? どの時点かで、ゲーテの文が一つ削られて、代わりにエマソンのになったのだろうか? これはちょっと調べてみないといけませんな・・・。





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Last updated  June 11, 2017 05:58:22 PM
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Comments

釈迦楽@ Re[3]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  ああ、やっぱり。同世代…
丘の子@ Re[2]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 釈迦楽さんへ そのはしくれです。きれいな…
釈迦楽@ Re[1]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  その見栄を張るところが…
丘の子@ Re:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 知らなくても、わからなくても、無理して…
釈迦楽 @ Re[1]:京都を満喫! でも京都は終わっていた・・・(09/07) ゆりんいたりあさんへ  え、白内障手術…

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