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October 7, 2017
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カテゴリ: 教授の読書日記
私、海外出張中に必ず1冊か2冊、日本語の本を持って行って、現地で読むことにしているのですが、今回、玉村豊男さんの『パンとワインとおしゃべりと』と共に持参したのがサミュエル・スマイルズ著・中村正直訳『西国立志編』でございます。

 まあ、明治初期に日本でこの本が出て一大立身出世ブームとなり、明治維新の意義が達成された的なところがあるわけでね。この時代の二大自己啓発本が福沢諭吉の『学問のすすめ』とこの本で、前者が日本人の知的成長を、後者が日本人の道徳的向上を、それぞれ促したと言われております。

 そんな重要な本を、どうして今まで実際に読まなかったかというと、単純に分厚いから! 日本に居る時は、なんだかんだ忙し過ぎて、こんな分厚い本,読んでいられないんだもーん! 

 だけど、アメリカでなら読み切れそう。そういう思いで持って来たわけですよ。

 で、ようやくそれを読み終わったので、心覚えをつけておきましょう。

 まあね、一口に言いまして、この本、超面白いです。言っちゃ悪いけど、色々なタイプの偉人たちのエピソード集ですから、俗っぽい意味で面白くないわけがない。

 むしろ、こんな俗っぽく面白いものを、江戸幕府の期待を両肩に背負った超弩級の秀才・中村正直が、大感激して翻訳しちゃったというところがね。イギリスの大文字の文学ではなく、ベストセラーの方に惹かれちゃったというところがさらに面白い。

 丸山真男と加藤周一の共著となる『翻訳と日本の近代』っていう本の中に、明治初期の日本において、欧米の高級な学術書と大衆向け啓発書が、同レベルのものとして翻訳されてしまったことで、日本の近代化の方向性に影響が出た、ってな事が書いてありますが、『西国立志編』がまさにその例。



翻訳と日本の近代 (岩波新書) [ 丸山眞男 ]


 あともう一つ、この本に対する日本人著者による解説書の中で、『西国立志編』というのは、基本、理系の発明家(ワットやスティーヴンソンなど)の伝記が中心、みたいなことが書いてあるのを読んだことがありますが、そんなの嘘、嘘。理系の人の話なんてむしろ少数派で、文系の学者、芸術家、文人、政治家、軍人、市井の人の話の方が多いです。解説書なんてものは、いい加減なもので、そういうのを頭から信じちゃいけませんな。

 で、この超面白エピソード集たるこの本、たとえばどんな感じかと言いますと、「真のジェントルマンとはどんなものか」という辺りの話で、ある貴族がある村を通りかかったら、大雨の後の川の氾濫である家が流されそうになっていて、しかもその家にまだ人が取り残されていたと。で、その窮地を見た貴族が村人を呼ばわって、「あの人を助けたものには報奨金を出そう」と言ったんですな。そしたら一人の若者が名乗り出るや、勇敢にも荒れる川に舟を漕ぎ出していって、見事、救出に成功したと。で、これを見た貴族がたいそう喜んで、褒美をこの若者にとらせようとしたところ、その若者曰く「私は自分の命を金で売るようなことはしない。むしろこの苦境にあって困っているのは、家を流された人の方なのだから、その金はその人に渡してくれ」。で、サミュエル・スマイルズ曰く、卑しい身分の人間の中にも、こういう気概を持っている人がいる。これこそ、君子と言うべきではないのかと。

 納得〜! でしょ?

 あるいは、フランスの将軍ネーのエピソードはこんな感じ。ネー将軍がイギリスとの戦いの中で捕虜を得たんですが、イギリス軍から、その捕虜が無事かどうか、問い合わせが来た。そこでネー将軍は、「捕虜本人に、「無事だし、フランス軍の捕虜の扱いも良い」と答えさせろと命じたんですな。ところが、その件を報告にきた下士官が、まだモジモジしている。そこでネーが「他にも何かあるのか?」と問うと、「実はその捕虜には、年老いた目の不自由なおっ母さんがいまして、息子の無事を国で心配しておるそうなのですが・・・」と。それを聞いたネー将軍、静かに微笑みながら「そうか、老母が心配しておるのか。それならば、その捕虜に、母親のところに直接行かせて、無事だと告げさせよ」と。

 ネー将軍は捕虜を解放しちゃったのよ。それも、総大将・ナポレオンの許可を取らずに。

 つまり、ネー将軍は、場合によってはナポレオンから大叱責をくらう(否、それどころか、首を切られる)のを承知で、その処分を下したんですな。

 で、この一件を後で聞いたナポレオンはどうしたかというと、ネー将軍、よくやった、と褒めた。

 ネー将軍もネー将軍、ナポレオンもナポレオン、共にあっぱれであると。

 イギリスの人・スマイルズが、敵軍たる仏軍のステキなエピソードを、自著で紹介しちゃう。それが『西国立志編』というものなのであります。

 ま、とにかく、こんな感じで、胸躍るエピソード満載よ。

 で、全体の趣旨としては、長い人生、結局、持って生まれた才能ではなく、地道な努力を習慣づけることによって道をひらいて行けば、必ずや偉業は達成できますよと。たとえ達成できなかったとしても、それはそれで素晴らしいことだし、その名も無い人の知られざる偉業ですら、必ずどこかで見ている人がいて、後世に語り継がれるのだから、人間として生まれたら,心してそういう人生を送らなきゃダメよと。



 この本、明治初期の大ベストセラーですけど、その価値は21世紀の今でも少しも減じてはおりません。少し日本語が古いので、読みにくいと思う人もいるかも知れませんが、読み始めると,結構すらすら読めるようになります。この程度の日本語が読み下せないようじゃ、それも日本人として寂しいしね。

 ということで、この本、現代語訳なんかじゃなくて、オリジナルに近い形で読んだ方が良いと思います。教授のおすすめ! です。



【新品】【本】西国立志編 サミュエル・スマイルズ/著 中村正直/訳





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Last updated  October 7, 2017 04:12:10 AM
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Comments

釈迦楽@ Re[3]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  ああ、やっぱり。同世代…
丘の子@ Re[2]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 釈迦楽さんへ そのはしくれです。きれいな…
釈迦楽@ Re[1]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  その見栄を張るところが…
丘の子@ Re:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 知らなくても、わからなくても、無理して…
釈迦楽 @ Re[1]:京都を満喫! でも京都は終わっていた・・・(09/07) ゆりんいたりあさんへ  え、白内障手術…

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