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November 4, 2017
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カテゴリ: 教授の読書日記
フィリップ・チェスターフィールド著『わが息子よ、君はどう生きるか』という本を読了しましたので、心覚えをつけておきましょう。

 ちなみに、本書の著者は「フィリップ・チェスターフィールド」となっていますが、正式にはそうじゃない。「フィリップ・スタンホープ、第4代チェスターフィールド伯」ですね。チェスターフィールドは地名ですから。

 で、フィリップ・スタンホープという人は、1694年生れの1773年歿ですから、よほど古い人。貴族の生れにして、後には政界で活躍し、また文人としても知られた人ですね。で、生前はウィットに富んだ著作の数々で誉れ高かったようですが、死後は本書(原題は『Letters to His Son』)のみが残ったと。この本はもともと、息子に宛てた手紙であって、もちろん公開するつもりなんかなかったわけですが、結局、その非公開の手紙で後世に名を残すことになるとは、スタンホープ本人にとっては意外なことだったでございましょう。

 ちなみに「息子」に宛てた手紙と言っても、その息子ってのは、庶子だからね。スタンホープと本妻との間には子供は生まれなかったの。で、この息子は、スタンホープが仕事でハーグに滞在していた時に、現地の女に生ませちゃったもので、それでもスタンホープは彼を教育面で相当バックアップしたらしい。それなりに才能のあった息子だったようですが、やはり庶子であることのハンディキャップは大きく、また病気も災いして早死にしております。

 ま、とにかく本書は、スタンホープが庶子の息子に対し、処世術を伝授した一連の手紙でありまして、イギリス紳士たるもの、心して耳を傾けるべきマナー集として18世紀から今日に至るまで広く読まれ続けている名著ということになっているわけですな。先日ご紹介したように、明治時代に来日したバジル・ホール・チェンバレンの蔵書にもしっかり入っていましたから、この本が如何に広く読まれていたかはもって知るべし、というところでございましょう。

 ちなみに、以前このブログでも取り上げましたG・キングスレイ・ウォードの『ビジネスマンの父親より息子への30通の手紙』なんかもそうですが、自己啓発本の一つのジャンルとして「父親が息子に伝授する処世術」というのがありまして、本書『わが息子よ、君はどう生きるか』はまさにこの伝統の劈頭に立つものと言っていい。

 で、『ビジネスマンの父親より息子への30通の手紙』をご紹介した時にも書きましたが、私が思うに、このジャンルの自己啓発本は、基本的に「うざい」です。

 と言いますのは、一般論から言ってですよ、息子にとって一番、処世訓を受けたくない相手が父親だから。

 私にも経験がありますが、親父からの説教ほどうざいものはない。その意味で、父親は息子にああしろ、こうしろと言っても無駄なのよ。聞き入れないんだから。もし聞き入れるとしたら、親父が死んだ後ですよね。「ああ、昔親父がよく言っていたけれども、確かにそうだなあ」と。生きているうちなんか、親父の言うことの反対のことしかやらない。それが息子ってもんでしょう。



 で、もしこのジャンルがそれでも成立するとすれば、読者が息子の立場ではなく、赤の他人として著者の意見を承って、その上で著者の言っていることを受け入れられるかどうか、に掛かってくると思います。

 もっと端的に言うと、当該の本における父親と息子の距離が遠ければ遠いほど、成功する確率が高いということになる。その方が、より一般論になりますからね。

 で、『ビジネスマンの父親より息子への30通の手紙』の場合ですと、これは父親の会社を継ぐ二代目に向って、父親があれこれ口を出す想定ですから、親父と息子の関係は血のつながりだけでなく、社長と次期社長という仕事上のつながりもある。両者の距離はすごく近いわけ。だから、ものすごくうざい本になっております。

 一方、『わが息子よ、君はどう生きるか』における両者の関係は、社会的身分もある貴族の親父と、その庶子との関係だからね。色々な意味で遠くならざるを得ない。

 だからいいのよ! 

 私が思うに、『ビジネスマン』読むくらいなら、こっち読んだ方がよっぽどいいよ。さすが、200年以上に亘って読み継がれているだけのことはあります。

 さて、ではその内容は? ということなのですが、すごくしたたかです。イギリス的な意味で。

 それはつまり、「道徳的」というよりは、「戦略的」という意味ね。この本は、別にモラルを教えているわけじゃないの。そうじゃなくて、モラルの観点から言えばこうすべきだろうけど、実際にはこうした方が自分の得になるよ、と。そういう教えを垂れているのがこの本。

 でも、処世訓って、そういうことだから。

 例えばチェスターフィールド伯が息子に与えた処世訓の一つに「お世辞を言えること」というのがある。



 ・・・的なことが書いてある。無論、「おべっかを使う」というのは、モラル的にはあまり褒められたものではないわけですが、「賢くおべっかを使う術を身に付けている」ことは、良好な人間関係を築き、自分の身を守るためにも非常に有効な手段だから、覚えておけと。

 要するにこれがチェスターフィールド伯スタンホープの処世訓なわけ。単なるモラル集とは格が違う。人間学ですよ、人間学。人間通になれと、彼は息子に教えているわけ。

 その他、私が「ほう」と思ったこの種の処世訓を羅列していきますと・・・

○自分の長所に気を付けろ。短所というのは、それ自体醜いものだから、誰しも避けようとするが、長所は一見素晴らしいものに見えるので、誰もそれを抑制しようとしない。しかし、長所をそのまま増長させると、ひどいことになる。例えば学識は素晴らしい長所だが、ほうっておくと鼻持ちならない衒学になってしまう。長所が長所であり続けるために、よくよく意識して見張っておかなければならない。

○他人の些細な欠点には、目をつぶった方がいい。そんなところまで注意して、相手に嫌われるより、その相手の無邪気な欠点に目をつぶって友だちで居た方がよほどいい。



○人間は普段よく話をしている人間の雰囲気、態度、長所・短所、ものの考え方まで無意識のうちに取り入れてしまう。だから、付き合う人間を選べ。しかし、もしそういう優れた人が廻りに居なかったのなら、やはり周囲の人間をよく観察して、この人のこういうところがいい、ということがあれば、それを真似よ。

○服装や髪形、清潔感など、外見は非常に重要であるので、よくよく気を付けて自分の外見を整えよ。ただし、一旦整えたら、その日一日、自分の外見には一切気を取られるな。

○どんな話題にせよ、「その話、知っている」ということを言ったり態度に示したりするな。とにかく、何も知らないという風を通して、相手にとことん語らせよ。そうすれば、案外、自分の知らなかったことまで語ってくれるかもしれないから。

○人生最大の教訓は、「物腰はやわらかく、意志は強固に」ということ。仮に譲歩しなければならないことがあったとしても、全面譲歩ではなく、一歩一歩、少しずつ譲歩せよ。柔軟であることは、必ずしも良い結果をもたらさない。譲らない一線を保て。ただし、あくまでも物腰柔らかく。


 ・・・ってな感じ。どうよ、なかなかタメになるでしょうが。少なくとも私には大いにタメになりましたね。特に最後の奴とか。私の場合、意志は強固だけど、態度も強固になりがち。そこが私のダメなところで、敵を作っちゃうところなのよね。反省。

 ちなみにこういう処世訓を快く思わない人というのは居るのであって、例えばかの有名な文人、ドクター・ジョンソンなんか、チェスターフィールド伯のことはクソミソで、「この本は売春婦のモラルを教える本、ダンスの先生向けのマナー集であって、そういう輩を、うわべだけは紳士として通用させるためのものだ」なんて憎まれ口を叩いております。もっとも、ドクター・ジョンソンは例の英語辞書を編纂する際、チェスターフィールド伯に経済的援助を懇請したものの、体よく断られたことを根に持っていたので、彼の罵詈雑言は、若干割り引いて考えないといけないのかも知れません。

 あとね、歴代チェスターフィールド伯はファッションとかインテリアの分野にも名を残していて、例えば「チェスター(フィールド)コート」とか、重厚な皮と沢山の鋲で出来たイギリスっぽい「チェスターフィールドソファ」とか、そういうのみんなここ発信だから。そういう意味でも、チェスターフィールド伯って、面白い存在なのよ。

 というわけで、この本、教授のおすすめ!です。



わが息子よ、君はどう生きるか (単行本) [ フィリップ・チェスターフィールド ]


 それにしても、この本、物理学者で『ニュートン』の創刊者としても知られる竹内均訳なんですけど、竹内均って、一体、何なんだろうね? この人、日本の自己啓発本出版史にやたらと登場する人なんですけど。『ニュートン』誌の創刊自体もそうだけど、無知な日本人を啓蒙したい、っていうアレが強い人だったんですかね。





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Last updated  November 4, 2017 05:58:30 PM
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Comments

釈迦楽@ Re[3]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  ああ、やっぱり。同世代…
丘の子@ Re[2]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 釈迦楽さんへ そのはしくれです。きれいな…
釈迦楽@ Re[1]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  その見栄を張るところが…
丘の子@ Re:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 知らなくても、わからなくても、無理して…
釈迦楽 @ Re[1]:京都を満喫! でも京都は終わっていた・・・(09/07) ゆりんいたりあさんへ  え、白内障手術…

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