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March 2, 2019
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カテゴリ: 教授の読書日記
鈴木良雄さんの書かれた『人生が変わる 55のジャズ名盤入門』という本を読みましたので、心覚えをつけておきましょう。

 授業で「アメリカ・ロック史」なんて講義を担当したもので、このところずっとロックの方に気が向いておりまして、ジャズの方が大分お留守になっていたんですわ。それで大須あたりの中古CD屋さんなんかに行っても、ジャズ方面で何を買えばいいのか、その辺りの勘が鈍ってしまいましてね。で、これじゃいかんというので、ちょっと前に仕入れておいたこの本を引っぱり出し、改めて読んでみたという次第。

 寡聞にして知らなかったのですが、この本の著者である鈴木良雄さんというのは、ヴァイオリンの指導法として名高い「スズキ・メソード」を考案した鈴木鎮一さんの甥御さんなんですってね。早稲田のジャズ研を出てプロのミュージシャンとなり、ニューヨークに渡ってアート・ブレイキーのバンドに在籍して腕を磨いたベーシストだそうですから、これは本格的。

 で、この本は、そんな鈴木さんがジャズ仲間50人にアンケートをとって、ジャズ初心者に薦めるアルバムを20枚挙げてもらい、それらを総計して上からベスト55を決め、その55枚のアルバムについて鈴木さんがコメントすると、そういう作りになっているんです。

 だから、ここに挙がっているジャズのアルバムは、確かにどれをとってもいいモノばかりだし、逆に、通好みの穿ったものはほぼない。実際、55枚のうち、50枚くらいは私自身、既に持っているものでした。

 だから、そういう意味では「そんなの知ってるよ」的なモノばかりなんですが、そういう有名なアルバムに対しての鈴木良雄さんのコメントがものすごく面白くて、それがこの本と魅力的なものにしているんですな。

 ジャズ評論家というのは沢山いるんだけれども、そういう凡百の評論家と鈴木さんが違うところは、鈴木さんが本場の、超一流のジャズマンたちを直接知っているばかりか、彼らと一緒に演奏をしたことがある、というところ。これに尽きる。

 例えば、鈴木さんはピアニストのマル・ウォルドロンのアルバムを評価しつつ、彼の演奏は古い、というのですが、それはマル・ウォルドロン本人と一緒に演奏した経験があり、マルが本来ベースが奏でるべき音をピアノで弾いてしまうため、すごくセッションがしにくい、という実体験を元に言っているわけ。そういうのは、評論家がひっくりかえったって言えない発言ですよね。そういうところが実に面白い。マイルス・デイヴィスが部屋に入ってきた途端、あまりのオーラに他のプレーヤーたちが露骨に緊張し、部屋の空気が一変してしまう。それを肌身で感じたことがある人のマイルス評って、読みたいじゃないですか。

 チェット・ベイカーと演奏したら、当時クスリ漬けだったチェットがあまりにも暗く、雑談もしないので、セッションもあまりうまく行かず、ありゃ、音楽のセンスはあっても人間としてダメだ、ジャズは音楽の才能と人格と、両方ないと、なんてコメントを読むと、ふうむ、そうなのか~と思うし。ジョー・ヘンダーソンは優しい人で、鈴木さんが盲腸の手術をした時も、復帰直後に「大丈夫か?」と気遣ってくれたとか。そういう話を聞くと、ヘンダーソン、いい奴じゃないか!と思う。そういう逸話がこの本にはたーくさん出てきて、読んでいて面白くて仕方がない。



 それから鈴木さんがロン・カーターからベースの個人レッスンを受けた、という話の中で、ロンのようにベースを弾くにはどうすればいいかを研究した結果、鈴木さんの導き出した結論というのがものすごく面白かった。鈴木さん曰く:

 あるとき、真理を見つけたんです。そして、今もそうやって弾いています。生徒にもずいぶん教えているんだけど、誰も完全には習得できない(笑)。要するに、力を抜くということなんですよ。筋肉でぐっと弾いてもいい音はしないので、ボールを投げるようにスナップを効かせる、ということなんです。力を抜いて弦を重力にまかせて引っ張ってもらうような。それは別にジャズのピチカートのベースだけでなく、全部のあらゆる楽器に言えることなんです。「脱力すること」が大事。ところが、口で言うのは簡単なんだけど、脱力するって難しいんですよ。歩いている時、腕や手に力を入れていないでしょう。それと同じ状態です。脱力するとすごく手自体が重いので、その重みで弾けばいいんです。それで弾くってことは、力が全然入らずに弾けるということなんです。弾く瞬間だけスナップを効かせるというのかな。習得してしまえばいくら長く弾いていても疲れないんですよ。(74-75頁)

 これね、まさに八光流柔術の極意とまったく同じ。私なんかも、この脱力を10年勉強して、まだ全然習得できませんから。手の重みだけで技を掛けるということの難しさ。それが、楽器演奏すべてに言えることだと知って、まさに目からウロコでしたね。

 あと、鈴木さんはボーカルもののジャズ・アルバムが苦手であったり、フリー・ジャズがあまりお好きでなかったり、その辺の好みも私とまったく同じ。そういうアルバムの価値は認めるけれども、個人的にはイマイチ苦手、というのをはっきりおっしゃられるので、そこも実に共感できる。

 そういうことも含め、この本、私としてはすっごく面白かったんですわ。この手の本の中で一番面白かったかも。

 ってなわけで、この本、教授の熱烈おすすめ!です。ジャズ好きの方、これからジャズを聴いてみようかなという方、是非この本を道しるべとして手に取られてはいかがでしょうか。



人生が変わる55のジャズ名盤入門 (竹書房新書) [ 鈴木良雄 ]





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Last updated  March 2, 2019 07:05:10 PM
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釈迦楽@ Re[3]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  ああ、やっぱり。同世代…
丘の子@ Re[2]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 釈迦楽さんへ そのはしくれです。きれいな…
釈迦楽@ Re[1]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  その見栄を張るところが…
丘の子@ Re:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 知らなくても、わからなくても、無理して…
釈迦楽 @ Re[1]:京都を満喫! でも京都は終わっていた・・・(09/07) ゆりんいたりあさんへ  え、白内障手術…

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