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January 8, 2021
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カテゴリ: 教授の読書日記
私が学生だった頃、ということは、もう今から三十数年前ということになりますが、その当時の大学の英文科の教授なんてのは、その大半が翻訳に携わっていた、という印象があります。っていうか、むしろ大学教授としてより翻訳家としての方が名が売れている先生すら、あちこちにいらした。

 実際、私自身の師匠お二人も沢山の文学作品の翻訳を出されていた。それも、泣く子も黙る大手出版社から。

 また、翻訳として出版するのではなく、たとえば大学生向けの教科書として、文学作品(たいていは英米の短編作品)に注を付けるお仕事をされている先生もたーくさんいらした。で、そういう先生方は、ご自身が所属している大学でも、また非常勤として出講している大学でも、ご自身が注を付けられたその種の教科書を指定されるので、それで印税を稼いでいらっしゃる先生もたーくさんいらした。

 で、そういう状態がデフォルトだったので、私も将来、大学の先生になったら、大学で教える他に翻訳とかやったり、注を付けるだけの教科書とか作ったりして、そっちでも稼いだりするんだろうな、なんて夢見ていたわけよ。

 で、実際に大学教授になってみたら・・・そんな話、一向に来ないっていう。何なの、一体? これが出版不況? 売れるのは鬼滅だけ?


 さて、今話題の『出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記』を読了しました。これを書いた宮崎伸治さんってのは、私とまったくの同い年。著書・訳書は60冊もありながら、今は警備員をされているとのこと。本書には、なぜ売れっ子の翻訳家が、翻訳という職業から離れざるを得なかったのか、その泣くに泣けない裏事情が綴られております。

 宮崎さんってのは、翻訳家として非常に腕がいいわけですな。しかも文章も上手く、著書も相当ある。ならばなぜ天職ともいえる翻訳業から撤退せざるを得なかったかと言えば、ひとえに日本の出版社の在り方による。そして日本の出版社の翻訳家軽視の姿勢にある。

 想像するだけで明らかなように、翻訳ってのはキツイ仕事なわけですよ。しかも高度な専門技術が必要で、それを会得するために何年もの苦しい修行がいる。しかし、それにもかかわらず、大変な仕事だと思われていないところがあるんですな。しかも、それに加えて日本の出版社には、契約の概念があまりない。口約束だけで物事が動いていく悪しき伝統がある。

 だから、出版社から仕事を依頼されて、翻訳家がその仕事を一生懸命こなし、期日までにきっちり翻訳を届けても、それが最終的に出版されないこともある。あるいは、仮に出版されても、なんだかんだ理由をつけて、印税を値切られたりする。時には、翻訳者として自分の名前を出してもらえず、別な人の名前にされてしまうこともある。



 だけど宮崎さんはそこで頑張った。自分がそこで泣き寝入りをしたら、他の翻訳家も同じ扱いを受け続けるに違いないと思い、翻訳家軽視の出版業界の在り方を少しでも変えようとしたわけ。

 で、最初の約束通りに印税が支払われなかったり、せっかく訳した本が出なかったりした時、出版社に抗議をしたり、時には裁判沙汰にしたりせざるを得なかったんですな。

 で、もちろん、宮崎さんの方に理があるわけですから、すべての裁判に勝ちます。勝ちますが、そのために裁判費用が回収費用を上回ったり、心労で参ってしまったりする。

 で、その心労のあまり、宮崎さんはついに翻訳業そのもの、文筆業そのものを離れざるを得なかったと。

 まあ、読んでいて、裁判には勝つんだから痛快ではあるのですが、そのために神経をすり減らしていく宮崎さんの様子をつぶさに見ていくわけだから、しんどくもある。確かに、こんなことやっていたのでは、仕事に熱中できないよね・・・。

 結局、現時点での日本における出版社の在り方を変えるとすると、アメリカみたいに著述家の側にエージェントができて、本の出版にまつわるあれこれはすべてエージェントを通してやる、みたいにするしかないんじゃないかな。それはそれで、やっかいな感じになるかも知れないけれど。

 というわけで、この本、多少なりとも出版経験のある身としては、非常に面白く・・・というのではないかも知れないけど、非常に興味深く読むことが出来たのでした。

 これ、翻訳家を目指している人とか、必読だよね! 宮崎さんの二の轍を踏まないためにも。


これこれ!
 ↓

出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記 [ 宮崎 伸治 ]


 と、いうわけで、まあね、私も翻訳家なんかにならなくて正解だったのかもね。

 でも・・・そうは言っても、私も訳させたら相当上手いよ。窓口は開けておくんで、出版社のみなさーん、いつでもご用命を!!





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Last updated  January 9, 2021 12:11:55 AM
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釈迦楽@ Re[3]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  ああ、やっぱり。同世代…
丘の子@ Re[2]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 釈迦楽さんへ そのはしくれです。きれいな…
釈迦楽@ Re[1]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  その見栄を張るところが…
丘の子@ Re:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 知らなくても、わからなくても、無理して…
釈迦楽 @ Re[1]:京都を満喫! でも京都は終わっていた・・・(09/07) ゆりんいたりあさんへ  え、白内障手術…

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