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November 3, 2021
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カテゴリ: 教授の読書日記
非常に売れていると評判の北村紗衣著『批評の教室 チョウのように読み、ハチのように書く』という本を読了しました。

 批評を書くための入門書、ということで、そもそも「批評」とは一体何をすることなのか、感想文とどう違うのか、というような初歩的な解説から始めて、実際に批評を書いてみよう、書いたならば、それをシェアして合評してみよう、という試みをした本ですな。

 で、読み始めたんですけど、「批評というのは、こういうことをするんだよ」という解説した第1章、第2章あたりはとてもよく書けていて、なかなか要領よく、批評というものの在り様を解説している。そうそう、そういうことなんだよな、と頷きながら面白く読み進めることができます。

 で、なるほど、これは確かに売れるはずだわと思いながら読んでいたんですけど、では実際に批評を書いてみましょう、という、いわば「実践編」ともいうべき第3章に入ってから、おやおや? という感じになってくる。

 具体的に言いますと、実地に批評を書く作業をするに先立ってまずは先生のお手本を、ということで、著者の北村さん自身が新見南吉の傑作童話『ごんぎつね』を素材に批評の手本を示すのですが、これがあまり面白くない。

 もちろん、これは見本ですから、実験的なことをやってみようとした心意気は理解できます。批評をするには「切り口」というものが必要だ、ということを示すために、仮にこの童話を「うなぎ」という切り口から分析したらどうなるか、ということを例示しようとしたわけですな。だけど、結果的にはやはりその切り口は良くなかったようで、北村さんのお手本が全然面白くない。少なくとも「うなぎ」という切り口では『ごんぎつね』の面白さが全然伝わってこないので、凝ったところを狙いすぎて大きく的を外してしまった、という感じが否めないわけ。

 だけど、さらに良くないのが第4章で、この章では北村さんともう一人、北村さんのお弟子さんなのかな? 飯島さんという別の著者が登場して、『あの夜、マイアミで』と『華麗なるギャッツビー』という二つの映画をそれぞれが「批評」し、その後、その批評文をめぐって二人で合評形式で紙上討論するという趣向なんですけど、お二人の映画評が予想外に面白くない。これを読んだら、「えー、批評って、こんなことを書くことなの~??」ってなってしまうのではないかと。

 いやあ。手本を出すなら、もっといいものを出さなくては。

 ということで、この本、前半部分はとても面白かったのですが、後半はやや失速、という感じでしたね、少なくとも私にとっては。




 だって、批評を書く作業って、普通の人はしないですよね? 批評を書くのは、プロの物書きか、あるいは大学の研究者のどちらかで、どちらにしてもそれで飯を食っているという意味ではプロということになる(もちろん、同じプロでも、ピンからキリまであるけど)。で、そういう、批評で飯を食っていこうという人にとって、この本が解説しているようなことは知っていて当然なことなのであって、あらためて解説するほどのことはないわけですよ。プロのレーシングドライバー、およびその予備軍に「半クラッチというのはね・・・」なんて解説したって意味がないのと同じで。

 となると、この本は、将来批評で食っていこうとまでは思っていないけど、とりあえず今、批評を書かなくてはいけない立場にある人向け、ということになるのか??

 それって、要するに、文学部とかそれに近い学部で学んでいる大学生、ということでしょ。授業の中で、あるいは卒論として、文学批評ないし映画批評・音楽批評的なものを書かなくてはならない立場に置かれた学生。とりあえずレポート書いたら、指導教授に「お前の書いているのは、単なる感想文じゃないか」とか言われて、「えーーー、感想文じゃダメなの―――。じゃあ何をどう書けばいいのーーーー」って悩んでいる学生。

 で、そうなんだろうな、と思ってあらためて振り返ると、この本の内容は、そういう、感想文と批評の区別もつかない学生を想定読者とするには、ちょっと高度過ぎるところがある。

 だから、実際にこの本を読んでその内容を楽しんでいるのは、批評家の卵ではなく、かといって宿題として批評を書くことを課せられている学生でもなく、その中間層、すなわち「自分で批評を書くつもりはないけれど、プロの書いた批評を読むのは割と好き」といった文学・映画・文化論好きの人たちだろうと想像される。ま、実際にそういう人たちが読んでいるんでしょう。そういう人たちの数はそこそこいるからね。

 この本は『批評の教室』と言いながら、むしろ教室外の人たちに読まれているんだろうと思います。そうでなきゃ、この本がそんなに売れるはずないもん。

 その意味で、この本は、結局、批評のノウハウを教えているのではなく、批評を書く人に興味を抱いている一般読者に、「批評家と呼ばれている私たちって、実は日々、こういうことをやっているんですよ~」的なことをほのめかしている本、ということになるのではないだろうか。

 ・・・なんて言うと、何だか批判しているみたいに聴こえるかもしれないけれど、無論、私はそれでもいいと思う。どんなものであれ、売れる本を書くというのはすごいことだからね。余程の才能、余程の嗅覚がないと、売れる本なんて書けないですよ。私も一度くらい、売れる本を書いてみたい。

 だから、この本は駄目だなんて全然思っていないんですけど、でもね、望むらくは後半の「著者のお手本」部分をもうちょい面白くしてもらいたかったなあ、とは思います。

 ということで、やっかみ半分であれこれ書いて来ましたが、少なくとも前半はとても面白かったし、今、こういう本が売れるんだ、ということを勉強させていただいたという点でも、読んだ甲斐があった本だったのでした。



これこれ!


批評の教室 チョウのように読み、ハチのように書く (ちくま新書 1600) [ 北村 紗衣 ]





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Last updated  November 3, 2021 11:08:14 PM
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釈迦楽@ Re[3]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  ああ、やっぱり。同世代…
丘の子@ Re[2]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 釈迦楽さんへ そのはしくれです。きれいな…
釈迦楽@ Re[1]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  その見栄を張るところが…
丘の子@ Re:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 知らなくても、わからなくても、無理して…
釈迦楽 @ Re[1]:京都を満喫! でも京都は終わっていた・・・(09/07) ゆりんいたりあさんへ  え、白内障手術…

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