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December 6, 2021
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カテゴリ: 教授の読書日記
クセノポンが書いた『アナバシス』を読了したので、心覚えを漬けておきましょう。

 とりあえずクセノポンって誰? ってことですが、この人はプラトンと同世代のギリシャ人で、プラトン同様、ソクラテスの弟子ですな。だけどプラトンとは異なり、武闘派で、傭兵になると。

 で、当時はアケメネス朝ペルシャが大帝国を築いていた時代だったんですけど、そのダレイオス2世が死んで、長子のアルタクセルクセスが王位を継ぐ。で、アルタクセルクセスにはキュロスという弟が居て、二人の母親はキュロスを応援していたと。ま、そういうこともあって、兄と弟は仲たがいするようになり、兄が弟を謀反者として罰しようとしたのに対し、弟のキュロスは、いっそ兄の王位を簒奪してやろうと画策するようになる。

 で、キュロスは、兄殺害の意図を隠し、ペルシャ周辺の敵国を征伐するんだよ~とか言いながらギリシャ人傭兵を集め、実のところ兄のいるバビロニアを目指して長征を始めるわけ。で、この傭兵としてキュロス軍に参加したのが、クセノポンだったと。

 で、クセノポンはキュロスに心酔してたので、ちょっと割り引かないといけないかもしれませんが、キュロスというのは実に魅力的な男であったと。凡庸な兄とは比べ物にならんと。

 っつーわけで、キュロス率いる大軍団はバビロニアを目指し(その途中、傭兵たちは「あれ? ちょっとおかしくね? 一体キュロスは我々をどこに引っ張っていこうとしているの??」と不審に思ったりもしたようですが)、アナバシス(上京)するんですな。で、いよいよ兄の率いる大ペルシャ軍と一戦を交え、キュロスは兄に一太刀くれるのですが、結局、兄の親衛隊に殺されてしまう。つまり、謀反は未遂に終わるわけ。

 で、困ったのは傭兵ですよ。目の前には頭に来ているペルシャ軍がいて、彼らはキュロス麾下の軍隊を敵軍とみなしているわけですから。だから、とにかくギリシャ人傭兵軍としては故郷に逃げ帰りたいのですが、その道すがらに、必ずしもギリシャ軍をよく思っていない国や部族の土地を通過しなくてはならない。

 だから行きはよいよい、帰りは怖いで、1万数千のギリシャ傭兵軍の帰路は、もう大変なことになるわけ。

 で、キュロスという偉大な指揮官を失ったギリシャ軍は、とりあえずクレアルコスをリーダーにして帰路に就くのですが、そのクレアルコスもまたペルシャ方の奸計にあって殺されてしまう。で、そこでギリシャ軍が新たに指揮官に指名したのが、弱冠20代後半くらいのクセノポンであったと。



 で、実際、苦労の連続で、もちろん敵対する国や部族からの攻撃も大変なんですけど、1万人からの兵隊たちだって、戦に買って報奨金をたんまりもらえると思って傭兵に参加したのに、命からがら逃げかえることになって不満たらたらで、そういう兵士の不満や謀反もまた、指揮官たるクセノポンを悩ませることになる。もちろん、味方の裏切りや脱走もあり。

 で、そういう苦難の連続を、クセノポンはソクラテスゆずりの「対話術」によって切り抜ける。問題が起こった時には、大勢の敵対する者たちを前に大演説をかまし、ことの経緯を明らかにし、自分の立場、なぜ自分がこういう行動をとったかを説明して、反論があるならばそれも聞き、さらにその反論にも自分の立場で反論を加えるなどして、正々堂々、大衆の判断を仰ぐという。そしてそういう形で、解くべき誤解を解き、暴くべき悪事を暴き、身の潔白と、取るべき正しい道は何かを明らかにしながら、クセノポンは上手に大軍団をギリシャへの帰還へ導くんですな。

 驚くべきは、その民主的な軍の運営方法ね。上意下達とか、そういうのではなく、大衆の前で言葉で思想を戦わせ、反論するものがあれば自由に反論させ、そうした話し合いの果てに、取るべき道を全員一致の賛同を得るまで繰り返すという。これが民主主義のゆりかご、ギリシャの軍隊の在り方か!というのは、本当に感動します。もちろんその一方で、撤収するギリシャ軍は、仕方のないこととはいえ、帰路の道すがら、通る町々を襲って食べ物を奪ったり、家を焼いたりして、非道なことをするわけですから、全体としてはとんでもない話ではあるんですけれども。

 ま、そういうとんでもない部分は棚に上げるとして、ペルシャ帝国のお家争いに巻き込まれたギリシャ大傭兵軍のドタバタ撤収のドラマは、やっぱり面白いんだなあ。

 そもそも私がこんな本を読んでいるのは、前に読んだ『ヘンリ・ライクロフトの私記』の中で、ヘンリ・ライクロフトが『アナバシス』を絶賛し、晩年、心静かに田舎に引きこもって、こういう古の物語に胸を熱くすることの楽しさよ、みたいなことを書いていたので、どんなものかな?と思ったためなんですけど、まあ、ライクロフト氏の言うことが、これでようやく理解できたって感じ。

 というわけで、『アナバシス』、超面白いので、興味のある方は是非。

これこれ!
 ↓

アナバシス 敵中横断6000キロ (岩波文庫) [ クセノフォン ]





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Last updated  December 6, 2021 04:30:09 PM
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釈迦楽@ Re[3]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  ああ、やっぱり。同世代…
丘の子@ Re[2]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 釈迦楽さんへ そのはしくれです。きれいな…
釈迦楽@ Re[1]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  その見栄を張るところが…
丘の子@ Re:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 知らなくても、わからなくても、無理して…
釈迦楽 @ Re[1]:京都を満喫! でも京都は終わっていた・・・(09/07) ゆりんいたりあさんへ  え、白内障手術…

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