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突然の別れの日に 谷川俊太郎 が編集している、 岩波文庫版 の 「辻征夫詩集」 を読みました。 高橋源一郎 の小説 「日本文学盛衰史」(講談社文庫) を読んでいて、 「きみがむこうから」 という、作中に引用されていた詩が気になりました。あれこれ探しているのですが、今のところ見つかりません。
知らない子が
うちにきて
玄関にたっている
ははが出てきて
いいまごろまでどこで遊んでいたのかと
叱っている
おかあさん
その子はぼくじゃないんだよ
ぼくはここだよといいたいけれど
こういうときは
声が出ないものなんだ
その子は
ははといっしょに奥へ行く
宿題は?
手を洗いなさい!
ごはんまだ?
いろんなことばが
いちどきにきこえる
ああ今日がその日だなんて
知らなかった
ぼくはもう
このうちを出て
思い出がみんな消える遠い場所まで
歩いて行かなくちゃならない
そうしてある日
別の子供になって
どこかよそのうちの玄関に立っているんだ
あの子みたいに
ただいまって
「辻征夫詩集」岩波文庫
突然訪れた天使の余白に この詩も、引っかかりました。ぼくは 66歳 なのですが、 「そのまま66歳になったような」 気がするわけです。 「おとなになった」 のかどうか、仕事をやめて 「大人になっていない」 自分に、あらためて気づいて辟易するのですが、そういえば、我が家の子供たちは 古田足日(ふるたたるひ) という人の 「押入れのぼうけん」 という絵本が好きでしたね。
だれもいない(ぼくもいない)世界
(世界中でそこしかいたい場所はないのに
別の場所にいなくてはならない
そんな日ってあるよね)
十歳くらいのときかな
ひとりで留守番をしていた午後
そおっと押し入れにはいって
戸を閉めたんだ。
それからすこうし隙間を開けて
のぞいてみた
だれもいない
(ぼくもいない)部屋を!
なぜだかずうっと見ていて
変なはなしだけど
そのままおとなになったような気がするよ。
「辻征夫詩集」岩波文庫
きみがむこうから……六十代 になって、 コタツに向かい 酒をのむ 。で、静かに 目を閉じたまま 眠りこんだりしている。 生きる姿勢 といえるようなものは何もない。でも、 きみがむこうからくる ことは心待ちにしている。
きみがむこうから 歩いてきて
ぼくが こっちから
歩いていって
やあ
と言ってそのままわかれる
そんなものか 出会いなんて!
田舎へ行くと いちごばたけに
いちごがあり
野菜ばたけに 野菜がある
百姓の友だちが ひとりいて
ぼくは 百姓の友だちの
百姓ではない友だちの ひとり
なあ おれたち
こうしてうろついてばかりいて
きっとこのままとしとるな
二十代の次には 三十代がくる
その次は たぶん 四十代だな
うん とおい国には 動乱があり
きのう 百人殺された 今日も
百人殺されるだろう それとも
殺すのだろうか……
宿に帰って ひとりで
酒をのむ
腕をくむ あるいは
頭をかしげ
なにもみえない 外の
くらやみをみつめたり
眼を 閉じたりする これが
生きる姿勢なのだろうか
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