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2020.10.10
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第43話「新たな皇后」

胡善祥(コゼンショウ)は漢(カン)王・朱高煦(シュコウク)と通じていたことが発覚、皇后を廃され、まだ赤子の息子・朱祁鈺(シュキギョク)を連れて三清(サンセイ)観に出家した。
道観では北斗経を1日100遍、沖虚感応篇を50遍、唱えるよう命じられ、食事の前には皇帝と皇后の幸福を願うよう釘を刺される。
その頃、皇宮では新たな皇后として孫若微(ソンジャクビ)が冊立された。

宣徳(セントク)帝・朱瞻基(シュセンキ)は新皇后冊封の儀を衝立の後ろで揺り椅子に腰掛けながら聞いていた。
その夜、若微は皇后として皇帝に謁見、すると朱瞻基は朱祁鎮(シュキチン)を皇太子にすると伝え、ある聖旨を渡す。
「読んでみよ」
それは先々帝が北伐の前に記した遺詔で、今まで皇太后がずっと手元に保管していた。

…常に用心深く、忍耐力もあり、人柄もおおらかである
…万一、悪事を成せば災禍となろう
…すなわち、わが朱家の仇敵だ
…子をなし、朱瞻基が早世すれば急ぎ誅殺し、帝位簒奪(サンダツ)を阻止せよ
…朕はこの遺詔を皇太子妃に預ける、後代は必ずやそれを行うように
…背いたものは宗廟には入れぬと覚悟せよ、ちんつー
すると朱瞻基は若薇に聞いた。
「朕が死んだら殉葬を望むか?」



生涯禁足の身となった趙(チョウ)王・朱高燧(シュコウスイ)は四方を高い塀で囲まれた小さな屋敷で老いていた。
皇帝から命じられた通り誰と言葉を交わすこともなく、壁に小さな穴を掘っては自分が知っている秘密を打ち明け、布切れを詰めて蓋をする。
すでに壁には無数の朱高燧の秘密が埋まっていた。

…私は″袋″の生まれ変わりだと
…一度、秘密を入れると出すのは難しい
…私は決して死なないのだ
…刃物で斬られても、水や火で責められても、死ぬことはない
…私は″袋″の生まれ変わりだから


朱瞻基は自らの死期を悟り、ある夜、母を呼んだ。
のん気にこおろぎ遊びをしている息子を見た張妍(チョウケン)は、涙ながらに自分より先に逝くなど耐えられないと訴える。
「こんな事になると事前に分かっていたら、絶対あなたを送り出さなかった!うわ~ん」
「予測などできません、もしできたとしても私はあの戦に行きました
 あの戦なくして百官を臣服させ、辺境の安寧を守れたでしょうか?
 あの戦なくして軍内のいざこざを収められたでしょうか…生かされたことにむしろ感謝せねば」
朱瞻基は母を呼んだのは念を押したかったからだと言った。
皇后がこの数日、殉葬について思い悩んでいるため、折を見て助言してやって欲しいという。
しかし張妍(チョウケン)は皇后の悩みは祁鎮のことだと教えた。
実は朱祁鎮は2歳になっても歩けず床を這うばかり、口も利けなかった。
国中の総督や巡撫(ジュンブ)、藩王たちまで名医を探してくれたが、無駄だったという。
朱瞻基は頭を抱えると、張妍は祁鈺を皇太子に立てるつもりはないのか確認した。
ただし自分たちを傷つけた胡善祥には生涯、会いたくないという。
「祁鎮が治らなければ祁鈺を立ててもいい…ですが
 祁鈺の人となりを見てふさわしくないと思えば、藩王の息子の中から善良な者を養子とし、
 後継者にしましょう」
するとそこへ楊士奇(ヨウシキ)たちが山のような奏状を抱えてやって来た。
そこで朱瞻基は最後に母の耳元でこう告げる。
「摂政の立場を差し上げます、国の大事に関与してください
 これは私事ではありません、君主が若いと危険なのです」
朱瞻基は母に苦労をかけることになり、誠に親不孝だと嘆いた。

朱瞻基は密かに三清観を訪ねた。
ちょうど房間で食事を取ろうとしていた胡善祥はひょっこり顔を出した皇帝に度肝を抜かれる。
しかし皇帝は自分に見向きもせず、息子を探した。
「鈺児?おいで」
母から呼ばれた祁鈺は物陰から姿を見せると、皇帝を見るなり父だと分かる。
「ディエ」
「なぜ私が父親だと?」
「母上が父上には髭があると…」
朱瞻基は賢い子だと褒め、胡善祥に似ていると言った。
そこで自分と一緒に来れば美味しい物が食べられると懐柔したが、祁鈺は母の背中の後ろに隠れてしまう。
祁鈺を迎えに来た朱贍基だったが無理に母親と引き離すこともできず、黙って帰って行った。
「あの時、私が引き取っておけばよかった…」

朱祁鎮は相変わらず歩くことも話すこともできなかった。
侍医たちは皇子が眠っている間に灸で経穴を刺激していたが、若微は怒って侍医たちを追い返してしまう。
「やめなさい!水疱(スイホウ)ができるだけだわ!」
追い詰められる若微、すると急に皇帝からのお達しが届いた。
「雪が降っているので外で皇后と少し歩きたいと…」

朱瞻基は若微を連れて雪の舞う中、広場を歩いた。
「私の身体からはぬくもりが消えかかっている、数日も持たぬだろう…
 近頃、頻繁に黒衣姿の師父が夢に出てくる…私は38歳までしか生きられぬと占った
 今年で朕は38歳だ…あの者の言う通りだ」
「国師・姚広孝(ヨウコウコウ)は世の全てを知っていると豪語していましたが、
 座禅による修行を嫌い、向こう見ずだった…天下一の怪人でしたね、最期も実に奇妙でした
 占いを信じてはなりません、皇帝はまだお若いのですから…」
「…知っているぞ、君が殺したのだ」
2人は広場を抜けて門に入った。
「皇帝、何を聞きたいのです?」
「君は自分の一生を後悔しているか?あの者と共に行けば良かったと?」
「…後悔したことなど一度もありません、殉葬されたとしても満足です
 両親に会えたらこう言います、今の私の両手は空虚ではない
 皇帝は家庭をくれた、愛すべき息子を授けてくれたのです…
 皇帝、あなたは?後悔していますか?」
しかし朱瞻基は何も言わなかった。

その夜、楊士奇、楊栄(ヨウエイ)、楊溥(ヨウフ)、于謙(ウケン)が皇帝に謁見した。
国中の死刑査定を朝廷内で行いたいという皇帝の希望は宣徳3年から議論を始めたものの、やはり困難だという。
しかし朱瞻基は朝廷が無実の者を罰することがないという鉄則を残したいと訴え、冤罪を防ぐために下官に処罰はさせず、刑部の審査を通したいと望んだ。
次に于謙がなぜ交趾(コウシ)の兵を今になって撤収するのかと上奏する。
すると楊溥が交趾の件なら後回しで良いと口を挟み、国王を冊封したため謀反の徒を鎮圧できそうだと説明した。
「交趾の国王が朕の冊封を受け入れることは悪いことではなかろう…
 隣国として大明の度量を見せつけてやるのだ」
すると息が切れてきた朱瞻基は大臣たちを下げた。

楊士奇たちは一旦、下がろうとしたが、やはり思い直して引き返した。
「皇上、言うべきかどうか分かりませんが…」
大臣たちの懸念はやはり皇太子の問題だった。
朱瞻基はあっさり祁鎮の治療が不可能なら別の者を選び直すと告げ、4人の大臣が信頼に値する者を選んで補佐して欲しいという。
「ただし″太后″の意見を良く聞くように…」
すると楊栄が大殿は冷えるので身体に障ると諫言した。
しかし皇帝はむしろ冷えるので気持ちがいいという。
「天も私を十二分に苦しめておき、死を恐れぬようにしているのかと…
 目覚めぬ日が来たら私は幸せだと言える
 …于謙、お前は今まで朱家3代に尽くしてくれたが重用しなかった、私を恨んでいるか?」
「俗に″赤い官服は民の血に染まっている″と言われています、私は青い官服で満足です」
「お前という奴は…傲慢な上、考えすぎだぞ、お前が思っているのは朱家ではなく天下だ
 ″もし高い地位を与えたら、ろくな死に方はしないだろう″
 この爺爺の言葉を私が今、伝えてやる」
「言い得て妙です、太宗こそが私を知る者でした…」
楊溥はこらえきれず、思わず泣き出した。
そこで朱瞻基はもう休みたいと伝え、楊士奇たちは拝礼して大殿を後にする。
その時、急に皇帝の大きな声が聞こえ、4人は足を止めた。
「日月と山河は永遠なり!嘆かずに…ゆっくり行こう」

大臣たちが帰ると、大殿に正装した皇后が現れた。
若微は死んで殉葬されるのが本分だが、祁鎮がまだ幼すぎるため数年、待って欲しいと嘆願する。
すると朱瞻基は殉葬が怖いのかと聞いた。
若微は両親と子が別れる辛さを身をもって体験したことから、将来、我が子に恨まれたくないという。
「爺爺の罪を責めるのか?…この過ちは私の代で終わらせるつもりだ、後人には背負わせない」
朱瞻基は玉座を立つと、ゆっくり歩き出した。
「朕は繰り返し殉葬者の名簿を検討した…君の名を7回も書いては消したのだ
 …君の命を君に返すことにしよう!だが誓ってくれ、私を安心させよ」
「私のこの命は皇帝から賜ったものです、子が即位したら私が死ぬまで補佐をします
 子が夭折したら、それも運命です、皇帝のあとを追い、殉葬されることを誓います」
朱瞻基は叩頭した若微の手を握りしめて立つよう告げた。
その時、ふと幼少の頃、絵師になりたかったことを思い出し、今では後悔しているとうっすら笑みを浮かべる。
「我らの子が帝位につきたいと望むのなら就かせろ、嫌なら良い
 己の生きざまを己で決めてこそ、最高の人生だと言えるのだ…この話を息子に伝えよ」

若微は朱瞻基を寝殿まで送ると言った。
しかし朱瞻基は首を横に振り、玉座へ戻ることにする…
すると二叔父が嬉しそうに玉座に座っていた
『あっはははは~夢の中でも皇帝の衣をまといたいのか?実現したな
 あなたを恐れはしない、私はもうあなたを恐れていた己と和解した』
…若微、10年の月日を君と共に過ごした、今後も共に過ごしたい
…君のいない世など私には耐えられぬ、あの世にも君と共に行きたい
…だが君と子を離したら恨まれる
…ゆえにこの手を離し、君の命を君に返そう
…慈悲心を起こした私を天も見捨てぬだろう、地獄へは落とさぬはずだ
…私は君を忘れない
…来世でまた会おう
朱瞻基は若微のひざまくらで眠りについた。
「私はあなたと共にいます、初めて会ったあの頃と同じように…あなたを待ってる
 馬車に乗せて連れ帰ってちょうだい」



公元1435年1月31日、宣徳10年、朱瞻基が崩御、37歳であった。
宣徳の10年間は国が栄え、まさに大明の黄金期となる…。

宣徳帝の死後、胡善祥と朱祁鈺は宮中に呼び戻された。
すると寝宮に太監が現れ、皇太后の命で宣徳帝の遺詔が伝えられる。
「″朕はそなたに太妃の位を与え、朱祁鈺を郕(セイ)王に封じ、以前の罪は問わぬ
 死後は皇后と共に朕の陵墓に入るがよい″」
胡善祥は拝礼して立ち上がると、太監は早速、皇太子が口も利けず、歩けないと吹き込んでおいた。
「将来、皇帝になった暁には私の功労をお忘れなく」
「分かったわ…」
胡善祥はその意味を悟り、我が子に釘を刺した。
「この日を覚えていなさい、生きていれば勝てるのよ」



明日は六部九卿(リクブキュウケイ)の協議により帝位継承者が決まる日だった。
若微は慈寧宮を訪ね、寝所にこもっている皇太后に出席して欲しいと訴える。
しかし張妍は朱祁鎮の様子が相変わらずだと知り、行かないと声を荒げた。
「大臣たちは冗談交じりに血族を殺した報いだと…あくどい顔で言うのよ!」
「侍医が言うには祁鎮は…ゥッ…先天的な病ではないゆえ治せると…
 あの子の名は宣徳帝が付けたもの、宣徳帝も祁鎮を愛していた、どうか太子はこのままで…」
「このままで?どこの誰があの女を連れ戻したの?」
「私が情けを求めました、でも宣徳帝も承諾して…」
「宣徳帝はあなたちを許して1人ですべてを背負い、若くして逝ってしまった!
 死ぬべきだったのはあなたたちの方よ!」
すると取り乱していた若微が急に冷静になった。
「太宗の遺詔によると、私が道を間違えば路頭で死を迎え、亡骸は埋められるはず
 覚悟はできています」
「…忘れていたわ、太后はあなたなのね」

いよいよ後継者が決定する大事な日、大殿には皇太后孫氏と皇太妃胡氏が揃った。
朝臣たちの協議が困難を極める中、祁鎮は相変わらず口も利かず、大殿の床を這いつくばっている。
苛立ちを隠せない若微は思わず怒号を響かせた。
「もうたくさん!この子は宣徳帝の血族なのよ?この私から生まれたの!
 確かに話すのは少し遅い、でも嫡出で長男よ!
 最後の瞬間までこの子の継承者の地位は奪わせないわ!」
胡善祥はそんな姉の姿を冷ややかに見ていたが…。

つづく


( ゚д゚)ぽかーん
(つд⊂)ゴシゴシ…
(;゚д゚)え?
(つд⊂)ゴシゴシ…
何だか色々とあれ?な展開です





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最終更新日  2020.10.10 20:05:39
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