「全てにこだわって究極の911を作る。」というSinger Porscheに興味を持っておられる方も多いと思います。
930モデルに対する郷愁と忘れられないFun to drive、それにアンダーからオーバーステアへの急激な荷重変化に関する恐怖感・・・。
値段はともかくとして、これらがSinger Porscheではどうなっているのでしょうか?
2024年からディーラーになったCORNES主催の試乗会に行ってきましたので、参考にしていただければ有難いです。場所はジムカーナなどでよく使われる泉大津のフェニックス。
今回紹介されたモデルは「クラシック・ターボ」と呼ばれ、1970年代の930ターボと934/5レーサーを各々オマージュした注文生産のカスタマイズド・モデルです。
両車とも日本初上陸で、前日は千葉のMAGARIKAWAで同様の試乗会を開催。
今回紹介されたモデルはあくまでも個別注文生産のベースとなる基本仕様車ですが、ざっと見た感じは、まさに1970年代にタイムスリップした印象です。
私にとっては、18年間乗っていた1987年製のRUF BTR3.4と再会したような思いでした。
フロントの「シャーク・フィン(1971年の917以来の呼び方です)」スポイラーとボンネット中央の給油口が930ターボとの違いを強調しています。
RUF BTR3.4の比較参考写真です。
当時は「京」ナンバーを継続するため、名義はイシダエンジニアリングの石田長造社長のまま、使用者だけを車庫証明用に変更して乗っていました。女房にも「買ったのではなく、ぜひ乗ってみてくれと言われて借りてきた。」と説明して・・。
RUFフロントスポイラーはかなり効果的でしたが、それでも220-230km/hを超えた当たりからステアリングが軽くなり不気味でした。
車体はドアとピラーの一部を除き、全てカーボン製です。リアフェンダーのマットガード部分は単なるデカールではなく、エアインテークに改造されています。車体のターボ・デカールが懐かしいです。
サスは聞いたところ、フロントがマクファーソン・ストラット、リアがセミトレとのことでしたので、964のままです。逆に993をベースにすると、マルチリンクになって、カスタマイズが困難になるので敬遠した可能性もあります。
ホイールは一見、16インチの純正フックス・アロイホイールに見えますが、BBSの特注品でリムの拡大でインチアップされています。
ブレーキはブレンボのキャリパーとカーボンセラミックのローターだそうですが、冷却が苦しそうです。
タイヤはさすがにピレリPZEROとは行かず、ミシュランのパイロットスポーツ4Sでサイズはフロント224/40、リア265/40でした。
リアから見ると、ウィング下のエアアウトレットやリアバンパーゴム以外は殆ど930ターボと変わりません。なお、カーボンボディは注文時に自由にタルガトップタイプや大型ウィングの選択ができるとのことです。
こちらは1976年、1977年にルマンで総合優勝したシルエットフォーミュラと呼ばれるグループ5の934と935を彷彿させる934/5ターボのレーサータイプモデルです。もちろん、個別注文でフラットノーズ化することも可能でしょう。
シルバーのマルティーニカラーにすれば、まさにジャッキー・イクスの気分になれそうです。クレーマーカラーにするのもいいかも。
カーボンボディの形状もしっかりチリが合っていて、細部へのこだわりを感じさせます。
エンジンはまだプロトタイプの段階とのことで、見せてもらえませんでした。
リアカウル、ハイマウントウィングの作りも非常にしっかりしていました。
ドアノブ後方の丸いキャップは何か聞くのを忘れました。
リアから見ると、レーサータイプとは言え、ベース車のシャーシ構造を踏襲する形で製作されているのが、よく分かります。
基本的に今回の「クラシック・ターボ」は、オーナーがベース車の964(修復歴がなければ、距離が出ていてもNA車でもPDKでも可)を日本で調達し、カリフォルニアのシンガーではシャーシ、エンジンブロック(クランクケース)、ドアのみを使ってカーボンボディに換装、パワートレインも注文製作し、完成車を日本に送り返して車検はCORNESが改造申請のうえ、取得する方法で検討中のようです。
Singerのモデルがなぜ964をベースにしているかを聞いたところ、1989-1994年に56,00台も販売され、2009年の設立時には安価で容易に調達できたからだそうです。エアコンも964から効くようになっているので、日本人としてはうれしい点です。
ただ、964と言えどもその後の「ポルシェ・バブル」で安くありません。写真のカーセンサーの広告はざっと探して最も安かった出品例です。2012年のカレラPDKで754万円という出品例がありましたので、993の方が安いくらいです。
934/5ターボのレーサータイプモデルの車内。
レーサータイプモデルとは言え、展示車は運転席のロールケージがないので、乗り降りは非常にスムースで座った感じもかなりゆとりがありました。ドアは964のオリジナル外板パネルを使っているので、軽くありません。
レーサータイプモデルですが、メーターは見慣れた5連を現代化。配置順も同じですが、クラシックタイプと2種類から選べるそうです。スピードメーターは外周がマイル表示、内周がキロ表示で220マイル、350kmまで刻まれています。
ドアも鉄板むき出しではなく、内装パネルが付いていて、ウィンドジェネレータのハンドルがなぜか新鮮に見えます。ドアグリップは赤ではなく黒のストライプでRSをオマージュしていますが、初めはポリカネイトウィンドウを落とすストライプかと勘違いしました。ウィンドウは多少薄いかも知れませんがガラスのままです。
Singerの正式社名は「シンガー・ヴィークル・デザイン社」で、ポルシェAGとの資本関係や技術提携はなく、完全な受注生産型によりポルシェ911の「レストアとリイマジン」を行っており、オーナーとの「コラボレーション」を盛んに強調しています。
2009年にカリフォルニアで設立されて以来、2024年2月には延べ300台の販売実績を達成したそうです。
2022年のGoodwood Speed Festivalに参加して一躍有名になり、この2年間で売上は倍増し、ファクトリーを新設したようです。写真は恐らく新ファクトリーでの集合写真でしょう。
開発生産は全てを車内で賄うのではなく、エンジンはMezger社、電子制御はBOSH社というように専門メーカーの協力を得ています。
日本にSingerが知られたのは、2023年11月にニュースリリースされたこの911ナロータイプ(クラシック・スタディというモデル名で450台の限定販売車)が最初でした。964カレラベースなので、車幅は若干広いはずですが、ほとんど違和感がありません。現車はコレクターのオーナーが永三(ユンサン) MOTORS社経由で発注したもので、納期2年、価格8,000万円とのことで話題になりました。
すでに完売し、現在は同ナロータイプの受注は受けていないそうです。
おなじみの5連メーターと言いたいところですが、全てリメイクされたメーターです。電球色の古臭さはありません。
車内もシフトやキックボードを除いてそれほど、目立った違いはなく、ナローの雰囲気を強く残しています。ラジオのように見えるのも真ん中がモニタースクリーンで、ナビやエンタテイメント系を充実させたレストモットが施されています。
964のエンジンをベースにモディファイされた4L NAエンジン。日本の改造車検に適合するため、エアファンネルではなく、独自形状のインダクションボックスとエアフィルターを装着し、フラットシックスの形状がより洗練された形で楽しめます。
いよいよ、クラシック・ターボの試乗です。
当日11:30からの予約でしたが、CORNESのご厚意で10時過ぎから一番目に乗せてもらいました。約400mほどのストレートとジムカーナ的なパイロン設置のコースを最初はSingerのテストドライバーの運転で同乗し、次に一人2周運転することになっていましたが、特別に3周走らせてもらいました。
エンジン音はノーマルより非常に野太い音色で、吹き上がりもターボを感じさせないシャープさがあり、ポルシェ好きにはたまりません。
マニュアルシフトは6速で、RUFの5速、930ターボの当初4速より、進化が見られます。と言うか、走らせてみていきなり2回連続でストールさせてしまい、高回転型でパワーバンドが各々3,000rpm幅くらいでとても狭いのにびっくりしました。RUFも930ターボに比べ、高回転型にチューニングされていましたが、低速トルクも太く街中でも乗りやすかったですが、シンガーはさらに尖らせてあり、6速の理由が分かりました。1-2速ではスロットルを踏んでもすぐ頭打ちしてしまい、加速しません。3-4速に入れて初めてそれらしくダッシュします。
あのじゃじゃ馬バイク、カワサキのマッハⅢを思い出しました。
私は試乗1番目だったのでインストラクション通り、コース上の所定の停車位置2か所で一旦停止していましたが、後続の試乗者の方々は停止せずに3-4速のまま、周回していました。当然ですね。私はおまけの3周目でやっと強いクセに慣れてリズムに乗ってきた次第で、本当はあと2周くらい走りたかったです。ともかく、低速のトルクがないので、市街地走行はシフトチェンジに忙しく、結構大変かと感じました。
それに反し、トラクションコントロールはかなり高次元で制御されており、パイロンを廻る時もかなりスロットルを踏み込みましたが、ブレークする気配はなく、電子デフによる左右ドライブへのトルク配分が完璧な感じでした。ロールも殆どなく、ニュートラルステアのまま、ゴーカートのように旋回する安定した挙動には非常に驚きました。時代の違いもありますが、操安性ではRUFを完全に凌駕しています。今回の試乗で確認できた最大の成果と思います。
エンジンは964のブロックを使って(エンジン番号を継承して)、ボア、ストロークとも修正した3.8Lツインターボで、934/5ターボのレースモデルタイプでは吸気を左右のリアサイドガラスに設けたエアインテークから行います。
934/5ターボのレースモデルタイプのエアインテークです。
最後に価格のお話です。
余りに高いので、聞き間違いかとSingerのテストドライバー、CORNESの営業責任者の両方に確認しました。
「クラシック・ターボ」のうち、 9
30ターボ風のツーリングモデル
は注文仕様にもよりますが、ベース車の964を別にして「100万ドルから」で、円でもドルでも支払い可能だそうですが、964の調達コストや税金、運賃、車検などを入れると 2億円
にはなるそうです。
また、 934/5風のレーシングモデル
は注文仕様にもよりますが、ベース車の964を別にして、「300万ドルから」で、同じく円でもドルでも支払い可能だそうですが、964の調達コストや税金、運賃、車検などを入れると 5億円
にはなるそうです。
外観と性能をにらみながら、この価格を高いとみるか、妥当とみるか、個人の好みと財力で分かれるところですが、今回はいい勉強をさせていただいたというのが率直な印象です。
991.2のGT2RSやGT3RS、RUFのCTR3も何だか安く感じてきました
(笑)。
皆さんはいかがですか。
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