全3件 (3件中 1-3件目)
1
和菓子のアン 坂木 司 光文社 梅本杏子、18才。高校を卒業後の進路に迷っていた。勉強が好きでもないのに、大金を払って大学に行くのはもったいない。しかし就職となると何か違う。そして向かった先はデパ地下。そこで出会った和菓子屋のみつ屋でアルバイト始める。 何しろ食べることが大好きで小太りLサイズの杏子なのだから。 店長の椿に店員の立花、アルバイトの桜井。一癖も二癖もある人たちに囲まれ、さまざまな事情を抱えた客とのやり取りをこなし、杏子は和菓子の奥深さに魅了されていくのだった。 杏子(立花にアンちゃんと呼ばれている)のキャラクターがまず魅力的。彼女の家族も良心的で、読んでいて気持ちいい。 客がなぜ和菓子を買いに来るのか。ミステリーのような謎解きが面白い。そして謎が解かれた時の爽快感。和菓子と同様、文献に残らないような市井の人たちの営みこそが尊いのではないだろうか。
2016/08/16
コメント(0)
ぼくは君たちを憎まないことにした アントワーヌ・レリス ポプラ社 2015年11月13日にパリで起こった恐ろしい事件。金曜日の夜、スタジアムや劇場やカフェ、それぞれの楽しい時間を過ごしていた人々130人が、テロの犠牲になった。アントワーヌの妻も犠牲になったひとりだった。17ヶ月の息子を寝かせつけ、本を読んでいた彼の耳に入ったのは電話のコール音。どうせたいしたことではないだろうと、放っておき、留守録になったが、聞こえてきたのは「大丈夫?」という声。何が起こったのか不安になりテレビをつけると、パリで同時多発に起こったテロ事件を報道していた。その現場の劇場には妻がいるはずだ。アントワーヌの耳からは一切の音が消えた。 最愛の妻をテロ事件で亡くした夫が、彼女の葬式までの二週間をどう過ごしたかを綴るドキュメント。 どんな悲惨な事が自分を痛めつけても、日々の暮らしは続く。幼い子どもがいる場合は、さらに規則正しく。その合間に妻が収容された場所に行き、彼女と最後の時間を過ごす。 数日は言葉を失い、感情を出すことができなかった著者が、急に言葉があふれ、自分の気持ちをFacebookにアップする。 「ぼくは君たちを憎まないことにした」 テロリストの思惑通りに、憎しみに憎しみで応えることはしないと。 「憎しみという贈り物を君たちにはあげない。怒りで応じてしまったら、君たちと同じ、まさに無知に屈することになるんだ」 その文章は世界中に広まり反響を呼んだ。 しかしこの本では、その反響への戸惑いも正直に吐露する。気持ちが変わる権利もあるだろうかと。 阪神大震災後、他の地域に住んでいた人は口々に言う。「大丈夫だった?頑張ってね」 「頑張る?これ以上?」 頑張ってねという言葉に含まれる残酷さを、アントワーヌも指摘する。 さまざまに揺れる心を綴り、妻の喪に服す。 人の心の強靭さと繊細さ、崇高さが心に沁みて本を閉じた。
2016/08/16
コメント(0)
映画を撮りながら考えたこと 是枝裕和 ミシマ社尊敬する映画監督の是枝裕和氏がいままでの作品(映画・テレビどちらも)を撮影するにあたって、もしくは撮影しながら考えたことなどをまとめたエッセイ。彼の作品のファンなら、知りたかった、知らなかった情報が満載で、まさに宝の山。彼の作品を読み解く参考にもなり、より深く作品を味わうことができること請け合い。自分自身の解釈も、もちろんあり得る。ページをめくるのがもったいないような。先に進みたいような、充実した読書時間。大切にしながらゆっくり味わいながら読んだ。
2016/08/09
コメント(0)
全3件 (3件中 1-3件目)
1
![]()
