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棟居刑事の絆の証明【電子書籍】[ 森村誠一 ] たしかに森村のストーリーは素晴らしい。 だがいつか何処かであったような気がしてならない話ばかりになってしまった。 それは、多作家だからだ。 いつか何処かであったことがあるストーリーもまた多作家症候群のひとつなのかもしれない。 それはともかく今回は森村の、テ、の一つ、山、だ。 そこで出会った人々の間に事件が勃発し、その中には棟居もいて、ということなんですよね。 森村は一つの覚悟を決めて小説を書いている。 それは、リアルにできるだけ近づけるというものだ。 その点はかなり意識している作家だという感じが強い。 その点は、今のミステリー作家に真似てほしいところだ。 特に話の基礎になる部分、刑事法、警察組織、は見逃してはならない。 少なくともミステリーは、リアルに花咲くフィクションだ。 だからこそ、その基礎はリアルであるべきだ。 それが私のポリシーであり、その点からの評価が私の場合は、実に大きい。 まあね、乱歩、正史以来双子を利用したそっくりさんトリックは、多くあったけれど、まさかね、森村もそのテを使うとは思いもしなかった。 もっとも、森村の場合は双生児ではなく、瓜二つな姉妹、だったけれど。 結局さ、森村が書いた本作の時期の悪は、銀行や会社絡みとか政治家と金というのが多かったんだろうね。 金と政治の問題、森村はその点を糾弾し続けていたのかもしれない。(1/8記)
2024.03.28
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棟居刑事の殺人の衣裳【電子書籍】[ 森村誠一 ] 2004年に文庫化された作品。 つまり平成16年ですね。 今から19年前。 昔なのか今なのかわからない微妙な時代だ。 それはともかく本作もライトなまるで当時大流行の2時間ドラマのノリだった。 森村は、暴力団についてはかなり粘っこく書くのだが、今回はそれほどでもなかった。 たまたま目に砂が入って助けてもらうために立ち寄った先で女性から優しいことそしてもらったというのが本作の話の骨になる。 それらがドタバタ動いていつの間にやら大団円という話だ。 本作では暴力団フロント企業の男が相次いで殺される。 そのミステリーをいかにして推理するかというのが本作のテーマだ。 途中で出てきた友達の花嫁が、いきなりね…。 ということで無事森村モノ2冊を読了。 すでに本ブログに森村モノを100冊以上アップしているが、他の作家もこれくらいKindleUnlimitedに放出してほしいものだ。 本作の場合は、これと言って登場人物に感情移入したくなるような場面はなかった。 ただただ話が流れていったという感じだ。 まあそれにしても作者の都合のよいように男女間の仲が流れていった。 これもまた森村モノの、テ、だね。(12/15記)
2024.03.05
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棟居刑事の追跡【電子書籍】[ 森村誠一 ] 田島あぐという老婆の活躍譚かな。 これが2時間ドラマの原型なのかもしれない。 暗視スコープによる覗き、スカ団地の高齢化問題。 石野という60歳の女性が殺されたのは、単純な理由だったけれど、あたしゃあ、LGBTQかなんて思ってしまった。 風呂におけるマナーの悪い若いものも、今ではたぶんアラフィフじゃないのか。 結局最後は猫。 蛍光塗料。 それを利用したお化け話。 こういうのを果たしてミステリーと呼べますか、という命題にぶち当たる。 が、2時間ドラマのプロトと考えれば、本作はミステリーでしょう。 動機あり、機会あり、方法あり、ストーリー性あり、刑事法はほぼ無関係、警察組織は、森村においては、固定化している。 本部と所轄と、そして取調官は必ず本部の那須警部と決まっている。 まあそれにしてもなぜ、棟居刑事の、という冠をつけたんでしょうねえ。 棟居は、名前が、弘一良、だということを本作で初めて知った。 読んでいて、田島あぐよ平穏なれ、と祈っていましたな。 その通りになってよかった。 とにかく森村モノが大量Kindleunlimitedに流れているので、これからも読むことになる。 焦らずゆっくり読み続けることにしよう。(12/15記)
2024.03.04
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棟居刑事の殺人の隙間【電子書籍】[ 森村誠一 ] 森村モノにしては比較的新しい作品だ。 すなわち、70過ぎてからの作品ということになろうか。 それでも彼の作品に対するポリシーは変わらない。 そのへんのブレの無さがこの作家の魅力だ。 森村が作品中よく使うのが箇条書きだ。 今回も少なくとも二箇所箇条書きが使われている。 よって、わかりやすい。 テとして動物がよく使われる。 今回は猫だ。 それから交通事故ですな。 そして複雑ながら一点に収斂される人物関係。 その人間関係を読み手が容易に理解できるのだから、その技術は素晴らしい。 それから、犯人の即自供。 これは読み手にとって煩わしさがなくて親切だ。 話が、一旦犯人やら被害者の側から表現されそののち棟居たちが後追いするものだから、ストーリーがわかりやすくなる。 棟居刑事の、なんて冠必要ないなんて向きには、その必要性をじっくり味わってほしいものだ。 作中、 だが、二人だけの世界を阻むものはない。束の間、二人の周囲には透明のバリアが張りめぐらされ、外部から切り離されてしまった。その間、バリアの外でなにが起ころうと、二人には関係ないことであった。なんていう表現を読んで、本作とは何ら関係のないことなのだけれど、達磨大師の、面壁九年、の面壁に関して考えさせられた。 そうなんだよね、達磨大師は壁に9年向かっていたのではなく、9年間自分にバリア(壁)を張っていたのだよ。 本作とはなんの関係もないけれどね。(12/5記)
2024.02.23
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新版 悪魔の飽食 日本細菌戦部隊の恐怖の実像!【電子書籍】[ 森村 誠一 ] 遠い昨日、近い昔を読んで、 森村を研究するものとしては悪魔の飽食を読まないわけにはいかない。 しかしこの731部隊というものは多分 読めば読むほど不快になるに違いない。 だから今まで忌避した部分もある。 だが私はミステリーリーダー。 ミステリーでない本作を読んでも特に害はあるまい、 なんて考えながら渋々読んだのだが、 今更ながら とんでもないことが起きていたんだなと思った 。 いずれにしても、 森村という個人を知る上では本シリーズを読まないわけにはいくまい。 悪魔の飽食がフェイクだと言われたのは1つに掲載写真が違うものだったからというのがあり 、それがどうやらとても大きな理由になったり本シリーズの真贋が問われたわけだ 。 その結果結局誰もが知らんぷりを してしまったのではないのか。 本来もっと大騒ぎすべきところ、何らかの力が入ったのかそれは分からないけれども。 少なくとも我々日本人が戦争に関して綺麗事ばかりは言っておれないのだ。 戦争には勝者も敗者もない。 被害者は国民なのだ 。 本生体実験が単なる石井四郎悪鬼の犯罪なのかそれとも昭和天皇にも及ぶ残虐な戦争犯罪と判断すべきなのかは 、 読み手の 判断になる。 森村は終盤近くになって本件を石井個人の犯罪として弾劾する立場を不明確ではあるがとっていたけれども 、 果たしてそうであろうか 。 私は大東亜戦争に関しては、国家の犯罪であったと思うし、 天皇制云々の前にすでに昭和天皇というものの戦争責任を判断しないではだめなのではないかという気持ちが強い。 まあ それにしてもとんでもない 本を読んでしまったものだ。 まさに悪魔の本だった。( 11/ 11記)
2024.01.29
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遠い昨日、近い昔【電子書籍】[ 森村 誠一 ] 森村の研究者にとっては願ってもない自伝である。 本書によって森村の概要がわかる。 とてもいい資料だと思う。 森村は先の大戦中は少年で、その時の残像を胸に向学の意思を持ち、青山学院に入学した。 半年ほど後れて大学を卒業しホテルマンになる。 ホテルマンを9年続けたが、作家への夢絶ち難く縁を得てデビューを果たす。 次は森村の矜持である。 一作でも作品を書けば作家である。 だが、それは自称作家であるにすぎず、社会的には認められていない。 作品は読者がいない限り、日記と大差ない。 読者がいて初めて作家となる。 このことは私も思っていることだし、正史も同様の意見を持っていた。 その正史に対し森村は明らかにリスペクトしているが、清張には敵意丸出しだ。 それはともかく森村は正史同様角川に救われ大作家への道を歩むことになる。 森村はデビューしたてで超売れっ子になった頃、 先輩作家は、こんな場合、気分転換と称して、デスクから離れ、夜の巷へ梯子をしたり、旅行へ出かけたりしていたようであるが、私はデスクにしがみついていた。 デスクから離れると、ますます書けなくなるような気がしたからである。 そして事実、しがみついている間に、出来具合は別として、書けるようになってきた。というような、真面目な?作家だったが後にやはりそちこちを飲み歩く作家になったようだ。 その後の彼の生活は、 起床はおおむね午前八時。 顔をブルルンと洗い、鯖のエッセンスと生ローヤルゼリーを飲んで仕事場に入る。 約二時間、その日の仕事に通路をつけておくと、午後の仕事がやりやすくなる。 朝食は十一時。 気泡のあいたフランスパンに塩味のきいたバター、ヨーグルトに黄粉と黒胡麻を混ぜ、卵半個、人参とじゃが芋のサラダ、グレープフルーツ半個、りんご、桃、玄米酵素。 これに昔の忍者丸のような梅干しのエッセンス。 デザートにチョコレートのかけら。 最後にプロポリスの原液で仕上げる。 これがおおむね私の朝食メニューである。というもののようである。 なるほどこれが齢90超の秘訣だろう。 本書の後半は政権批判めいていてあまり好きになれなかった。 だが、本ブログに森村の最初の作品としてアップした今日、何読んだ? 170817 森村誠一の写真俳句のすすめにでてくるカルメンさんのエピソードも入っており、森村の研究材料に欠かせない一冊であることは間違いのないことだ。(11/8記)
2024.01.27
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棟居刑事の凶縁【電子書籍】[ 森村誠一 ] ミステリーの要素は、動機、機会、方法の3つと言われている。 私は、この3つに、ストーリー性とトリックを付け足したい。 で、森村の場合、この時代の作品には(本作は初出2007年)トリックが不足しているというのが私の評価である。 本作は、中盤まで、Who done it?の要素が入っていた。 つまり誰が彼を殺したのか?が重大な伏線として残っていた。 ところが終盤に来てなんの前触れもなく真犯人が登場する。 後出しジャンケンである。 ここに何らかのトリックが入っていればよろしいのだが、そんなものはない。 がっかりぽん、だ。 それはともかく、人間関係の綾を書かせれば、随一の作家だ。 今回もあれよあれよというまに登場人物をつなげていった。 だが、それはお世辞にもミステリーとは言えない。 単なる人間関係の話で、私はその分野の森村モノには今いささか食傷気味だ。 もう一度本作を検証して見るに、本作では死亡ひき逃げ、死体遺棄、殺人などの事件が混在し、動機、機会、方法は存在するが、深い根拠もないまま、棟居刑事の推理のままに話が進むのだ。 ストーリー性に関しては申し分なし。 ただトリックがない。 そういうところでね、結局森村も多作家症候群に陥ってしまっったんだなと私は推測する。 それはともかく、これだけの話を紡ぐのだからさすがだ、ともいえよう。 大作家にしてミステリーの難しさを感じさせられた。 読み手は漫然と読むだけではいかん。(11/7記)
2024.01.26
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棟居刑事の荒野の証明【電子書籍】[ 森村誠一 ] 平成18年初出であるから森村モノにしては結構新しいということになろうか。 いつも書いていることだが特に先入観念は持たずに読むので、 この作品がいつのものかということは読みながら推理することになる。 本作品を読むと古さが 感じられない。 というのはすでにOA機器が完備 されている時代の話だからだ。 平成18年 といえば今から17年ほど前の話になる。 私も現役で確かにあの時代は私自身コンピューターを駆使して仕事をしていた。 当時米沢に居住していてノートパソコンのほか デスクトップパソコンも部屋にあり本ブログのアップ などをしていたけれども今はほぼタブレットを利用している。 それはともかく本作は いわゆる ミステリーとしてのトリックにかけ残念ながら私の中ではミステリーという範疇に入れることはできないという評価である。 ただしサスペンスあるいは刑事モノということになれば、 それなりの評価はできよう。 相変わらず森村は人間関係の機微を表現するのが上手だ。 複雑な人間関係を類いまれなる文章力で読み手に理解させるその技術は他者の追随を許さない。 ストーリーは森村独特の流れになって行く。 離婚した山路が愛という娘ほど歳の違った女性と恋愛関係に落ちるのだけれども, 愛はなんと山路の共犯者でもあり、結局この2人は 別れるのであった。 本作ではもう一人の 山路を好く柚という女性も登場する。 こちらは山路を好きすぎて結局普通の見合いをして結婚に至る。 本作の始まりは山路の妻優子からの離婚話で、 これに左遷人事が絡みサスペンスが生ずる。 愛の姉の失踪事件も絡む。 私がわからないのは森村の作品に、棟居刑事の、 と冠があるシリーズものに関し、 いまだかつて棟居が 中心になる物語を読んだことがない、つまり、これは多分ネーミングの原則で、読者を釣ってるんだろうな。 まあそういう作品である。 いわゆる当時隆盛を誇った2時間サスペンスドラマの原作的な作品だった のだろうね。(11月3日記)
2024.01.22
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棟居刑事の代行人【電子書籍】[ 森村誠一 ] 中公文庫に文庫化されたのが2014年の作品。 森村モノとしては新しい作品になるか。 今問題になっているカルト宗教と政治の問題をすでに約10年前に小説化しているんだな。 まさか今問題の統一教会の先を予言していたわけではあるまい。 しかし見事にその問題を小説にした。 その前のカルト、オウムとはまた趣がちがうからね、統一教会は。 それを縦軸に、よく似た女性二人を横軸にして、動物愛護の問題も得意のテとして入れて、話としてはよくできているなと思った。 それでもいささかややこしい話にしてしまった感も否めない。 ああそれにしても邪悪の宗教になぜ人は酔いしれるのだろうか。 それは普通の宗教がだらしないからでもあろう。 というより、宗教により救われたがったり、ご利益を得るというところに力が入れば、不幸であればあるほどのめりこむもの、そういう法則だろうね。 ところで棟居刑事シリーズ、冠に、棟居刑事の、と入るわけだが、棟居がずっと活躍し続けるものではない。 つまり、本作の場合は、代行人(ジ・エージェント)だけの題名で十分なのだが、棟居刑事が探偵役をするので、冠をつけているという形だね。 本作のヒーローは、降矢という自衛隊上がりの代行人だ。 彼が山あり谷ありの冒険を頑張る。 代行の花婿がそのまま本物の花婿になるという話もサイドストーリーとしてきちんと読んでほしい。(10/6記)
2023.12.22
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棟居刑事の黙示録【電子書籍】[ 森村誠一 ] 果たしてここまでで森村の記事は100を超えたろうか(注:12/19現在、107)。 初出は平成19年、16年前の作品だ。 なので、携帯電話もテレホンカードも出てくる豪華版である。 森村ミステリーは、微物がポイントだ。 今回はヤクザのバッジでしたな。 相変わらず面白おかしく人間関係を決めていく。 少女と老人の友情がおもしろい。 写真に写ったペットホテルの犬の写真も重要な証拠だ。 Who done it?という点から読むとそんなに面白いミステリーではない。 だが、森村ファンからみれば、実に魅力的な作品だ。 九鬼の仕込みの技は、今野敏のシリーズを思わせる。 九鬼にかかっては、敵なし、泣く子も黙ってしまう、そんな魅力的な老人だ。 題名が棟居なのだが、彼は相変わらず刺し身のツマだ。 最終盤、行き詰ればいつもするように桐子に会いに行き、助言を求める。 桐子は彼にヒントを与える。 それが突破口になる。 今回は死体を運んだ車は誰の車だったか、というヒントだったけれど、これはすでに少女轢き逃げ殺人事件捜査本部で議論されていなければ嘘である。 せっかくうまいおかずを最後に取っておいたのだろうけれど、ここは少し不自然だった。(10/4記)
2023.12.19
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砂漠の喫茶店【電子書籍】[ 森村誠一 ] 2004年中公文庫というから19年前の作品になりますか。 私は和暦でないとしっくりこないので西暦をいちいち和暦に直さないといつの頃かがわからないのだ。 2004年は平成16年。 現役として脂が乗りきっていた頃だ。 それはともかく内容的に勧奨退職とか退職延長とか言う話が飛び交っていたが、60歳定年前の話なので実は昭和の時代の話なのかもしれない。 そして森村はとにかく巨悪を倒したい人で、そこに高級コールガールを配したり、テ、である動物を出したりして、そう、後だし、後だし、で登場人物を出して、最後は巨悪付近に向かうという話でしたな。 それにしても定年延長してまで追いかけることになった事件の顛末がお粗末でしたな。 本当はそれがあるからこの帯広という刑事は一旦現場を離れてからもう一度捜査に参加するなどという考えられない蛮行を取ったのだろうに…。 森村が巨悪と目する政界とかあるいは舞台が外国になるときは、本当にまとまりのない話になってしまう。 森村らしいミステリーの面白さが見られなくなるのだ。 そして登場人物の出し入れで事件をおわそうとする悪しき手口が使われる。 これじゃあ読んでいる方が面白いわけがない。 ミステリーは本来ワクワクすべきものだ。 そのワクワク感がないミステリーは、評価に値しない。 なんてか、大森村をそんなふうに評しては罰が当たるかもね。 とにかく本作はつまらなかった。(9/27記)
2023.12.07
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日本アルプス殺人事件【電子書籍】[ 森村 誠一 ] 森村得意の 山モノ。 相変わらずかなり複雑な人間関係を数少ない登場人物に背負わせている。 従って普通に考えれば偶然、偶然、また偶然 ということになるだろうか。 本作は2006年中公文庫所収ということだから、平成18年、今から17年前の 作品ということになるか。 舞台は、日本アルプスを巡る開発及びそれに関わる贈収賄容疑と思わせつつ、実は複雑な男女関係を基軸にして、憎しみ、憎しみ、また憎しみの三重奏、四重奏のような態を擁している。 しかも立派なトリック付き。 今の人なんざ本作のトリックなんて絶対理解できないだろうな。 私でさえあまりにも複雑で完璧に理解はできなかった。 ただカメラのトリック、 デジタルカメラでは絶対に考えられない、フィルムを使ったアリバイ作りトリックなのだ! これ以上書いてしまえば完全な ネタバレなので、これ以上書かないことにしよう。 齢92にして亡くなられた森村、 彼は彼で彼の匂いを作品にきちんとつけて世に出していたんだなと、 今更ながら感心する。 ミステリー リーダーになって数々のミステリーを読むと、 やはり、乱歩、正史、清張、 森村、 東野の 作品に対する圧倒的な 愛情が感じられる。 だからこそこの五祖の作品をきちんと私は読み込んでいるのだ。 そして今、東野の後継を探しているのだけれども、見つからないまま森村に戻っている。 なぜなら森村の作品が Kindle Unlimited に次から次へと登場しているからだ。 本作は結構 新しい部類に属する。 けれどもさすがにフィルム写真であるとか白黒写真などという言葉が出てくると、 今の人はついていけないだろうな。 森村は自分のフィールドで勝負するタイプの作家だ。 しかしながらそれだけの作家ではない。 ミステリー作家として必要な警察組織、 刑事法に関する知識に富んでいるから、安心してミステリーが読めるのだ。 それは森村の大きな武器である。( 8/24記)
2023.11.08
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ミッドウェイ【電子書籍】[ 森村誠一 ] 奥書に書かれた作者の言によれば、いつかはミッドウェイを書きたかった、それは戦争小説ではなく、戦争を通した実らぬ恋愛、というようなことが書いてあった。 けれども本作は明らかな戦争小説だ。 眼前を戦闘機が飛ぶのだ。 そして森村が書きたかった恋愛模様はいつの間にか戦争の彼方に消えてしまうのだ。 とにかく戦争現場それも海上の航空戦をこれほど克明に描くことができる作者がいたんだなということに私は感動した。 本作を読んで自分の思いを新たにしたことが数点ある。 その一つは,かの戦争はけっして日本が可能性のない戦争に突っ込んでいったのではない、つまり少なくとも海上戦においては米国と同等かそれ以上の力があったことが事実だ、それ故過信で敗戦に追い込まれたのだということ。 しかし海上戦は、大艦船の大艦隊による戦争から一気に空母を基地にした航空戦に変化し、しかもそれはかの戦争中に判明したこと、そのうえその萌芽が大日本帝国海軍にもあったのだということ、そのことをいち早く察知した米軍が先取りした結果がかの戦争の結果に繋がったのだということ。 だから単純に竹槍で怪物に向かった戦争では決してなかったということ。 だが戦争へのベクトルを阻止できなかった当時の日本のリーダーの責任追及はどうしても避けられないことであり、今後どのようなことがあっても戦争は肯定されないのだということ。 かの戦争時の日本の航空機の性能の素晴らしさを考えると今時の為体はやはりかの戦争にあったのだということ。 いまの日本の歴史の振幅はかの戦争より発生しているのだということ。 それらのことを意識させられながら私は最終盤本作を読みながら涙にむせんだのであった。(8/15終戦の日に記)
2023.10.24
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むごく静かに殺せ【電子書籍】[ 森村 誠一 ] 森村にしてはハードボイルドな作品で,男女関係以外のテは封印されていたけれど,異色感が強くて一気に読了してしまった。 昭和51年初出。 まったくね,森村を読めば読むほどあの時代を思い出してしまう。 私が就職するまでの黒歴史の時代だ。 その真っ只中にこの作品は書かれていたんだね。 9作の短編からなるが,いずれも星名という,消し屋の,殺しの手口がテーマになる。 あの時代のどろどろした人間関係が動機となって人を殺してほしいと願い出るのだ。 その仕掛けがいかにも森村だ。 最近その昭和年代やら平成のはじめの時代の作品を読むことがも多いが,そういう作品を読んだあとのあとがきに,今の時代では許せない表記もあることをご容赦ください,みたいな表記があるけれど,文学という芸術表現上,そんな断り書き本当に必要なのかね。 そういう文化があった,あるいは文化だったということでいいじゃないか。 今の時代,あまりにも言いたいことが言えなくなってしまったのだ! 逆に言えば昭和から平成にかけては言いたい放題の時代だったのかねえ。 ミステリーもどんな手を使っても良かったということなのかね。 本作は一種の復讐譚,でもあり,助け人的な話だった。 昔人はそういうシチュエーションに弱いんだよね。 だが今はそういうアンモラルな話はご法度なのだ。 最近森村の訃報に接し,彼の作品がますます時代の底に沈んで行くのを感じる。(8/13記)
2023.10.22
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反骨の思想【電子書籍】[ 森村 誠一 ] 昭和55年初出。 43年も前の書だがミステリーではない。 かといって森村の左傾的な思想の本でもない。 要するに当時のサラリーマンの風俗,習性が書かれたもの。 当時の生活やら生き様が手に取るようにわかるいわば歴史書だ。 たとえば中間管理職について ミドルマネージメントと言えば聞こえがいいが、せいぜい、課長か部長止まりの管理層である。 現実の経営活動を執行する中心的存在とされているが、実際にはなんの意志決定権も持たず、一件ごとに稟議という形でトップにお伺いを立てなければならない。 要するに、マネージメントと名はついてもまったく名前だけで、せいぜい、自分が発案した案件をトップにお伺いを立てている間、束の間のマネージメントらしい自己陶酔に耽るにすぎない。 トップが一度首を横に振れば、彼らが脳漿を絞って考え出したアイデアはたちまち層カゴ行きになってしまう。 そのつど、彼らは早くトップに昇進しなければとトップマネージメントに燃えるような憧憬を寄せつつも、結局、トップと部下の問に埋没しミドルで定年を迎える。などという情景は今の人達に理解できるのかどうか。 同様, 職場における人間関係とは、仕事を基盤としての組織化されたものにすぎない。 したがって、そこに、新入社員が、学生時代の交わりと同じような、意気と心構えで裸の人間性を相手にぶつけ、また相手にもそれを要求しようなどとするが、これが通用する世界ではない。 たとえば、同僚、先輩と一夕の酒盃を持ったとしても、酒盃を待ったとしても、そこで即発的な好意を示したり、軽々しくいかにも親友のような素ぶりや言葉は絶対につつしむべきだ。 なぜならそこで人間性をふれ合おうなどと決して相手も思ってはいない。 それよりもエチケットに即して、淡々とした事務的な接し方のほうが職場における生活はうまくゆく。などという43年前の習俗は今の人にとてもじゃないが理解して貰えそうにない。 そもそもこの昭和年代の年功序列・終身雇用制度はもうとっくの昔に崩壊しているものだし,それと並行して本書で論議されているタイプライターなどという機械もおそらく今の人には理解してもらえまい。 さらに当時のサラリーマンの情報源,週刊誌なんて,それっていったいなによ?と言われるのが落ちだ。 そんなこんなで私は本書を読了したのだが,逆に言うと私自身この森村の書いた世界にどっぷり浸かって定年退職を迎えたものだから,一種の同士意識もあれば,嫌悪感に包まれたりもする。 だから今の人よ,こんな駄文読む必要はないから,君たちは君たちでしっかり歩んでほしい。 大森村の文を駄文だなんて貴様は一体何者だといわれそうだけれど,そうしか書きようがない。 つまりこの時代そのものがまるで黒歴史になってしまうのだ,本書を素直に読んだら。 だから駄文と書かせてもらった。 ただ後年この時代を語るには十分参考になる文書ではあった。(8/12記)
2023.10.20
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ロマンの切子細工【電子書籍】[ 森村 誠一 ] 本作は森村が様々な視点から書いたエッセイ集である。 テーマが一定していないのでごった煮感が否めない。 その中で森村のミステリー作品論が興味深い。 まず, 私の作品が『腐蝕の構造』『暗黒流砂』『人間の証明』の順序でテレビ化された。 これまで拙作に関して度々テレビ化の話が持ちこまれ、その都度流れていたので、私の作品は映像化が難しいのかとほとんど諦めかけていた。作品が映画化やテレビ化される場合の原作者の心境としては、娘を嫁に出す父親のようなものであろう。 どのように料理をされても文句を言えないし、言わないことを私の主義としている。と言っているのは,大正史の意見と同一である。 ミステリー小説界の大きな節目として, 昭和三十年代における松本清張氏を中心とする社会派推理小説の台頭は、従来あまりにも現実からかけ離れた非日常の世界に構築された探偵小説に、日常性の亀裂に生ずる恐怖と、文学的香気を導入して、一挙に広汎な読者層を獲得した。 これまで文学の世界において継子扱いをされてきた探偵小説は推理小説という現代的な衣装をまとって、文学の市民権を獲得したのみならず、エンターテインメントの主座を占めたのである。 このため、在来の探偵小説は影が薄くなり、推理小説の片隅に細々と息をつないでいた。として清張作品の台頭を上げる。 この段階では森村は自己を蚊帳の外に置いている。 しかし森村が上記社会派推理小説と定義していることについて自己をそのカテゴリーに入れていないのが気にかかる。 ただ上記のアンチテーゼとしての正史の復活を書いていて,この点,私も賛同できる。 また, 私は小説は日記ではないという意識をもっている。 最初から読者に読まれるために書き、小説を書くからには大多数の読者を私の作品世界の中に招待したい。 これが映像化されると作者の想念が活字から映像に翻訳されるので、より多勢の人が私の作品世界(映像化された)の中に遊びに来てくれることになる。という感覚は,その通りだと私は思う。 書かれた小説は読み手に読まれてはじめてなんぼのものになるのだ。 つまり書き手と読み手の両方相まって一つの作品としての存在意義があるのであり、森村の上記の覚悟は実に好ましい。(8/7記)
2023.10.12
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黒い墜落機(ファントム)【電子書籍】[ 森村 誠一 ] 森村は自衛隊に関する取材を一生懸命したんだな。 それだけ話が真に迫っていた。 ただ自衛隊の矛先が国民に向けられると言う事は決してないことだ…ということにはなっている。 そういう中での本作である。 そして当然この種の小説はミステリーではない。 私は,森村のミステリーに関して,よく,テ,という言葉を使っている。 それらは,交通事故,植物片の微物,動物の毛,浮気,不倫etc. 非ミステリー作品においても森村は必ず男女間云々かんぬんを書かないではおれない作者なんだなと,本作を読んで思った。 ミステリー作家と呼ばれるには色恋沙汰も一種のアイテムにしなければならないのだろうか。 森村もまたかつて乱歩や正史がそうであったように遠慮なくずかずかと男女間の愛憎について書きまくる。 正直言ってあたしゃあ森村のこのテには食傷気味だ。 その描写は不快そのものである。 でも時代がそれを要求した,そういう事なんだろうねえ。 本当に森村という作家の悲鳴が聞こえるような作品だった。 反自衛隊,反戦主義者には小気味よい,うん?いや実に不快な作品だったことだろう。 そういうことを抜きに考えたら,近未来小説とか,SFとして読んだら面白いと言う事にもなるのかもね。 ただ設定がめちゃくちゃすぎた。 そしてその設定こそ今の日本の農村部の投影だったのだ。 恐るべし森村,なのである。(8/7記)
2023.10.11
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花刑【電子書籍】[ 森村 誠一 ] 本作品集は4作の短編 からなる。 表題作の花刑は読んでその通りいわゆる森村のテの一つである微物それも植物,が介在しているものだから 花刑なのだった。 それはともかく本作も含めて森村はこの時期かなりのスランプに陥ったのではないかと推測される。 なぜなら4作が4作ともかなり無理がかかっていて, 突っ込みどころが満載という,森村の作品にしてはかなりできの悪い作品だらけだった。 まあそれにしても人を殺し, 現場やら現場周辺にそれなりの証拠を残すという森村の書き方のテは健在だった。 この辺が森村のファンが多いという1つの理由なのかもしれない。 私は,叙述トリックを否定するものであるが,その点森村も十分に心得ている作家だなと思う。 だからたとえ短編とはいえ矛盾が出てくるのはやむを得ないのかな。 タイヤを盗みそれを車に積んで逃走,警察に追われて踏み切りに差し掛かり遮断機がおりており前車がいてそれを逃走車両が押す,その結果前車の運転手が死亡することに,殺意の偶然 など 入ってよろしいのか。 この話は特に私は無理すぎる話だったなと思った。 私自身森村の作品について本ブログにアップしたのはこの時点で100冊を超えてしまっているかもしれない(99冊でした)。 それくらい森村の作品に慣れ親しんだ私であるから森村がいかにこの時期苦しんでいたかが痛いほどわかる。 それほど作品を作るということの難しさがミステリーリーダーとして読んでいるとひしひしと身にしみて わかるのだ。 だからこそ突っ込みどころ満載の作品も大事に読みたいのである。 1つの作品というののはミステリー リーダーに読まれて初めて1つの作品になるのではなかろうか。 だからミステリー リーダーとして丁寧に 一つ一つの作品を読んでいきたいのである。(8月4日記)
2023.10.08
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雲海の鯱【電子書籍】[ 森村 誠一 ] 森村のテ,ヤマモノですな。 なんのトリックもないからミステリーではない。 しかし面白い。 つまりこのストーリーテラーの魅力でしょうなあ。 森村のテの一つに偶然の組み合わせがある。 本作はそれが見事に機能している。 ホテル風山小屋を軸にして,暴力団やら何やらが跋扈する物語なのだが,こんな話実話じゃないかと思うほど臨場感がみなぎる。 何より序盤の山小屋売上金3000万円強奪事件ですな,これが中盤まで森村は知らん顔をするわけだ。 一人1000万円を手にした3人がそれぞれの人生を歩むが彼らがまたある暴力団をもとにしてまた結束する。 そういう話なのだが実に小気味よい。 小気味良すぎてまるで西京のようだ。 私はミステリーリーダーとして西京をミステリー作家と認めていないので,あしからず。 結局かの三人は長生きできなかったのだ。 そういう悪いことをしたからね。 相変わらず複雑な人言関係が森村のテにかかると実にわかりやすい。 それは森村の文章力によるのである。 本作のようなミステリー作家が書いた非ミステリーをミステリー風とでも呼ぼうかね。 清張にもこの手の作品は多かったけれど,それゆえあたしゃあ清張をミステリー作家と認めたくないのだ。 まあいずれにしろ人がいっぱい死んだから,それもまたミステリー風と呼べるんだろうね。 全くすごい作家だったんだな,森村は。(8/3記)
2023.10.07
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青の魔性【電子書籍】[ 森村 誠一 ] 昭和53年初刊というから今から45年前の刊行と言う事になる。 それだけの年月が経ってもその情景がわかるのは言葉というもののなせる業だろう。 つまり言葉はある程度の賞味期限が保てると言う事なのかもしれない。 これが映像と言う事になると,とたんに古臭さが際立つのだ。 それはともかく本作は9作からなる短編集だ。 どこかで読んだことのある作品もあったが,案外森村モノとしては珠玉ともいえる短編がそろったと私は思う。 猫婆の話は一つのサイコホラーだね。 でもしっかり森村のテが入っている。 動植物の絡みがそれだ。 団地の住民の無関心は結局エンドレスなんだろうな。 橋の爆破による人殺しは一回どこかで読んだけれど,刑事の智略がやりすぎなのかどうかは評価のわかれるところだろう。 今なら任意性がないとでもなるか。 その智略による犠牲者も出ているしね。 表題作も一種のサイコホラーで,根底にいじめが潜んでいるところはなんと現代的かと思われる部分である。 サギカンパニーもまた小学生時代のいじめのシーンが入る。 小気味よい詐欺がよろしいけれど,人殺しであることのばれ方がテレビのドッキリからではね。 ここのところは古いのか新しいのかわからないが,究極の現代人はテレビなど観ていないからそのからくりを理解する事が出来ないのかもしれない。 小学校の同窓会がらみの話が数話あった。 殺人の真相は…。 殺人の公訴時効がまだ15年だった頃の話である。(8/2記)
2023.10.06
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マリッジ【電子書籍】[ 森村 誠一 ] 平成17年初出なので森村モノとしては比較的新しい作品になる。 森村の結婚に対する見解が余すところなく披露されている。 双子モノといえば正史だが,正史の双子モノはやりすぎの感が否めないところ,本作における双子に関することはミステリー作品としてしっくり来る出来上がりになっている。 私は森村モノとしてはこの作品は少なくとも十指に入る佳品だと思う。 ただね,最終盤さすが森村と言うべきなのかそれともこの天邪鬼めと糾弾すべきなのかまようところ,私はミステリーリーダーであるとともに朝ドラ理論崇拝者なので,実は終盤の落ち着きにホッとしていたのだ。 なのに森村最後の最後まで手を緩めず主人公山上の行く末の暗雲を示唆する。 あーあ,なんちゅうこった。 本作には森村のあらゆるテがてんこ盛り。 交通事故,猫,ブラック企業等々。 これらのテが出るとやはり森村,そのテできたかと拍手喝采になるのだ。 平成17年のこの森村の結婚観は当時の人々のスタンダードだったのではなかろうか。 それが今令和5年平成にすれば35年,18年経って大きな転換期に入ったような時代で、いわゆるLGBTQ問題を抜きにしては語れないようになった。 結婚観やらLGBTQ問題は決して今日の少子化と無関係ではない。 むしろ大きな原因とも考えられる。 そのことを抜きにしてただただ金で解決しようとしている為政者のなんと浅脳なことよ。 馬鹿じゃねえの…。 といいたくなる。 もう本作で述べている森村のようなスタンダードな結婚観には日本人は戻れないんだろうな。(7/29記)
2023.09.29
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星のふる里【電子書籍】[ 森村 誠一 ] 昭和52年作。 なんと46年前の作品だ。 私が,自動車運転免許を取った年でもある。 森村は,このころ多作家症候群に入っていたらしい。 それほどいそがしかったんだろうな。 それでもミステリー作家の矜持としてトリックを何本か入れてほしかった。 何しろ本作は,トリックなしなんでっせ。 密室もアリバイもなし。 強いて言えば犯人の意外性か。 つまりWho done it?はあった? でもミステリーリーダーにとっては,それは全部みろっとめろっとお見通し状態だった。 そもそも言い寄る男は怪しい。 最終盤2つの旅程は,必要だったのか。 もっといえば夫の失踪を妻が中盤まで引っ張る必要性があったのか。 ブローカーの存在は,一体何のためだったのか。 このころ森村は,欧州旅行をしていたんだろうな。 とにかく欧州のことを書きたくて書きたくてしょうがなかったことが,わかる。 でもそんなことガイドブックを読めばよろしい。 ということで本作は,森村モノとして数少ない駄作だった。 とはいえ森村,こういう作品もあるのだということがわかっただけでも読んでよかったのかもしれない。 多作家症候群を患ったこその四祖なのだ。(7/17記)
2023.09.18
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シンデレラスター殺人事件【電子書籍】[ 森村 誠一 ] 本作は短編集で,腐った山脈,殺意の交差路,歪んだ構図,シンデレラスター殺人事件,雪の湖殺人事件,545M列車の乗客の8本からなる。 腐った山脈は山におけるアリバイ山小屋の密室殺人検視においての殺人の判断と8作中一番ミステリーっぽい話だった。 山を早く降りるのに草を滑るとか密室にスポンジを使うとかそれはそれはさすが多作家症候群,なにしろ昭和60年の作品ですから,売れっ子森村渾身のトリックだったんでしょうなあ,それにしても無理が多すぎる。 そしていずれも推理の域を出ていないのに逮捕状が出るなんてことは考えられないことだ。 犯人性はあるけれど。 殺意の交差路は,少年探偵団的な語り口なのだがなんと欧州に飛ぶ。 森村のテ交通事故が出ますな。 犯人性については全部みろっとめろっとお見通し状態だった。 歪んだ構図はさすが昭和,壊れたカメラのせいでちゃんと映らないのがミソだった。 シンデレラスター殺人事件は店番の少女が2回も襲われる話。 まとまりがない。 雪の湖殺人事件は結局Who done it? まとまりがない。 545M列車の乗客は列車アリバイに自転車を使うという奇策に出た。 これまたまとまりがない。 森村の作品に外れはないと思っていたけれど彼は一体いつ頃まで書いていたんだろうな。 この昭和60年ころが華だったんじゃないのかな。 いずれにしろ本短編集は残念な作品だった。(7/15記)
2023.09.16
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棟居刑事 悪の山【電子書籍】[ 森村 誠一 ] 山も森村のテ。 山が舞台だと多作家症候群罹患中の森村作品であっても少しは見映えする。 だが結局人間模様に頼っている。 登場人物の引き算で犯人が決まる。 犯人が遅くに登場する。 それは一種の叙述トリックだ。 森村もここに来てついに叙述トリックに頼らざるを得ない状況に追い込まれているんだなと思った。 つまり売れっ子ミステリー作家の場合,叙述トリックに手を染め始めた段階で多作家症候群だという診断ができるのではなかろうか。 そういう意味で叙述トリックというのはいかにも簡便な手法である。 そもそも叙述トリック+登場人物の複雑な組み合わせにより一作ができてしまうのだものね。 ただ山に関する森村の深い取材力それから深い洞察は称賛に値する。 特に山小屋に対する森村の考えは本作が世紀末の作品であってもなお現代の廃れゆく現実の核心をついていた。 今日観た火野正平のチャリオ君の番組で,かつては栄えた日鉱の集落の廃れた場面が描かれていた。 あれなんざあまさに一生懸命築き上げた山小屋と登山道が交通の発達や商業化で廃れてしまった山小屋と登山道のごとく経済やら経営やら鉱物資源の枯渇やらで長い年月の風化により痛ましいことになり,ただただ50年前の4番打者と野球場だけが残っていたというもので,口だけ現在問題になっている少子高齢化人口減問題の根幹が隠されていたように感じる。 ミステリーに思想を練り込むのは容易なことではないけれど,本作における森村の山小屋と登山道と交通機関の発達と商業化の考察はけだし名論だった。(5/6記)
2023.08.02
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棟居刑事の推理【電子書籍】[ 森村 誠一 ] 解説で有栖川有栖が森村の棟居刑事シリーズは他の作家に比べて登場が遅かった旨書いていた。 棟居を出すまでもなく森村はせっせと作品を生み出してきたが,他の作家同様彼の分身たる名探偵の必要性に迫られてきたということだろうか。 棟居だけでなくドラマでは森村原作で,片岡鶴太郎演ずる牛尾刑事モノもある。 棟居と牛尾は作品ではときどきコンビを組んだりする。 さて本作である。 森村のテのひとつ暴力団モノだ。 それに正義感の非常に強い青年が絡む。 ミステリーと言うよりは人間模様で解釈はいかようにも成り立つ部類のいわゆる多作家症候群に罹患した状態だ。 つまり森村の場合シリーズにしたことが彼の限界だったとも考えられる。 様々なテはあってよろしい。 それがだんだん森村の傾向がわかるに連れああ今回はこのテだからこんな仕掛けになるんだなということが全部みろっとめろっとお見通し状態になってしまう。 読み手がライトに感じてしまうんだな。 登場人物の織りなす模様だけではミステリーリーダーとしては,たとえ大森村サマだとしても納得いかない。 単なる時間つぶしの読み物では,それはミステリーとは呼べない。 トリックが見いだせなくなった時ミステリー作家はどのようにすべきか。 多作家症候群に罹患したままとにかく商業ベースを歩くのか。 それとも静かに筆を置くのか。 そこが思案のしどころだろう。 同様の作品が続くと心に残らない。(5/6記)
2023.08.01
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棟居刑事の情熱【電子書籍】[ 森村 誠一 ] さて本作は, 平成 1桁の最後のあたりの話, 四半世紀前の作品である。 本作でもいよいよ DNA 鑑定について書かれていて科学捜査の推進が本格的になりつつあった時代ということができようか。 ただしその精密度は,その当時はまだまだ初歩的で数々の冤罪 も巻き起こしたという事実は否めない。 本作を読めばその科学捜査, 現代にあてはめれば切歯扼腕, 例えばガムの残滓から個人情報が次々と明らかになるだろうから, 犯人はあっという間にあげられることだろう。 さらに凶器であるライフルもあっという間に特定されるに違いない。 それが現代の捜査である。 残念ながら四半世紀前はそこまで予測はできなかった。 したがって捜査は困難だった。 それにもめげず森村モノの登場人物は地道に捜査を進めていく。 そして証拠が揃った時点で任意同行を求めその結果, 犯人が自供するというのが 森村 モノのパターンである。 そのような森村の傾向を私はテと呼んでいる。 犯人の自供, 微物, 交通事故, 複雑な人間関係, ただし, 登場人物 中で完結させる。 森村の場合, 登場人物は, フェアに出てくるのだけれども今回だけは, 作品中後半に 犯人が出てくる 仕掛けでいよいよ苦し紛れに書いたか ,つまり 多作家 症候群に森村も入ったかと思われるような書きっぷりであった。(5/2記)
2023.07.29
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異型の白昼【電子書籍】[ 森村 誠一 ] 一丁の拳銃が絡んでその拳銃を所持したものの周辺に様々な事件が発生するという形式の話である。 話が多すぎる。 残念ながら最初の話については忘れてしまう。 けれども, 最後の話は鮮烈に脳内に焼きつく。 森村もその辺を計算して書いたものと思われる。 最後の話は森村の文学論が語られている。 ミステリー リーダーとしてはそのような難しい文学の話は抜きにしたい。 だがざっと読むと, なるほどな と思う部分もあった。 500ページ超えの長い小説で, それぞれの話が, コルト拳銃を通じて, つながりを見せてはいるけれども, 一つ一つの話が短編のように独立しているのだ。 トリックそのものが, この拳銃を駅のロッカーに隠匿するところから始まり, そのコインロッカーのキーを誰か知らないものにそっとポケットなどに忍ばせてやることで, 人間関係のつながりはないと思われるものの読み手はあの話とこの話の人が繋がっているのかなどというちょっと分かりにくいところもあって, 森村としては今までにない不親切な作品となってしまった。 JRの東京の電車を国電 などと言っている時代の話, つまり昭和の末期の話だ。 何よりも森村の作品が古臭く感じるのは科学捜査の発展特に DNA 鑑定の進歩にあるのだ。 そもそも 血液型だけで個人識別 なんてできるわけがないじゃないかというのが現代の科学捜査の考え方である。(4/27記)
2023.07.27
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棟居刑事の復讐【電子書籍】[ 森村誠一 ] 森村にしては新しい方の作品なのだがそれでも平成1桁の時代の作品だ。 この作品の特徴はミステリーの書き方のお手本のような感じがする ということだ。 ということはつまり, そんなに面白いミステリーではないということにもなる。 それはともかく, いきなり刑事の殉職話から始まってその刑事の家族は不幸 続き ,娘が水上バイクに 接触されてみたり悲鳴を聞いて駆けつければ犯人から 逆に刃物で突き刺されて死ぬという話だ。 本作のヒーローである棟居もまた妻子を殺害されたが犯人がまだ見つからない という 不幸な男で,その捜査にあたりなくなった刑事と一緒に仕事をしていたことから棟居刑事の復讐という題名になった。 人間関係の複雑さは 森村の最も得意とするところだ。 しかもその人間関係は叙述トリックを使うことなく, 本作に登場している人物のみを持っておりなすのだ。 実にフェアである こういうところを 若いミステリーライターには書いて欲しいのだけれども…。 それでは本作におけるトリックは一体何なのか。 それは ポピュラーではないもののよく使われる,テ,で戸籍買いとでも言えようか。 森村は戸籍上の人物像を刑事の聞込みによって明らかにし, 現在その戸籍上の人物になっているものとの対比を試みる。 読み手は, はっきり戸籍買いが行われていることを意識する。 それなら 一体彼は誰なのか 孤児院上がりの人物がどうもそれらしい。 本作では棟居の家族の件は解明されないけれども,冒頭の殉職者の娘のジェットスキー轢き逃げ事件まで解明し, さらには議員の不逮捕特権にまで言及して終わる。 森村の型といえようか。 同様の話が続くとどれがどれやらわからなくなる。 こういうのも多作家症候群と言えようか。(4/26記)※ 追記 謹んで森村誠一先生の死をお悔やみ申し上げます。(7/26)
2023.07.26
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殺人の赴任【電子書籍】[ 森村誠一 ] 森村節炸裂! と思って読んだ。 この作品は平成の作品と言いつつ,平成3年のものである。 30年以上も前の話ということになる。 森村が華やかなりしころのテーマが散りばめてある。 政治家の汚職,デートクラブ,単身赴任などなど。 そして森村のテである交通事故。 猫の毛やら猫忌避剤の微物鑑識。 森村自身警察に深く入り込んで精密に取材をしたことがよくわかる作品でもあった。 テといえば,複雑な人間関係を苦も無くつなげる頭の良さもある。 複雑な人間関係を読み手にわかりやすく伝える術を森村は知っている。 それが彼の魅力である。 本作が一気に読了できたのはこの森村の類まれなる技術があったからだ。 これは森村にしかできない技術だ。 乱歩にも正史にも清張にもできないし,東野にもない。 さて本当に東野後をどうしようか。 今二宮を読み継いでいるが,この作家には二面性があって,まだまだ後継者たり得るとは私には思えない。 しかしそれにしても世の中には数多の作家がいるもんだなと毎日毎日本を読んで思っている。 そして本の読み方も耳読などという新たな分野も登場して読書の在り方が変化している。(4/12記)
2023.07.08
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明日なき者への供花【電子書籍】[ 森村誠一 ] 1990年の作品。 すなわち33年前のものですな。 平成2年,なるほどあの頃は暴対法施行前で暴力団抗争も華やかだった。 森村はそこに目をつけて本作を書いたんでしょうな。 暴力団について詳しく取材をしている。 そのヤクザのしきたりなどについては資料になりうる本でもある。 けれども森村の本質から言って,トリックのないミステリーというよりもヤクザモノを書いたということは,これは,ひとつの多作家症候群でしょうなあ。 小手先のトリックとして名前間違い,それから,森村のテとしての轢き逃げ(今回はなんと犬被害)・偶然・毒殺が次から次へと現れるが,森村モノを読み込んだミステリーリーダーにとっては全部みろっとめろっとお見通し状態になったのだった。 女子大生が暴力団の二代目になるというシチュエーションは,あの薬師丸ひろ子の映画にもあったね。 あの時代のトレンドだったのだろうか。 森村はヤクザの正業化をこの二代目に語らせているけれど,反社というのはそんな甘いものではない。 さて二代目,首を狙われること数度,それでも少数精鋭の仲間に守られてなんとか息をつく。 毅然として裏切り者を斬り,リスペクトされる二代目にのし上がる話。 トリックが枯渇するとこのようにスリルとサスペンスに作家は移っていくんだね。 これもまた多作家症候群の症状だ。 それでもkindle unlimitedに森村モノが数多あるのでこれからも読み続けることになるだろう。(4/7記)
2023.07.01
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砂の碑銘【電子書籍】[ 森村 誠一 ] 本作は,砂の碑銘,と,殺意の航跡,の2作品からなる。 表題作は長編,殺意の航跡は短編である。 そのどちらも不快極まりない作品であった。 まず砂の碑銘であるが, だれもその事実に気がついていない。 しかしこの悲惨な結果の原因に、まぎれもなく自分がなっている。 志鶴子は、ようやく探し当てた姉を自分が死に到らせる破目となった残酷な事実に呆然となった。 志鶴子の行く所、必ず死者が出る。 まず露木捨吉が殺され、次いで永川老人が死に、そしていま多鶴子が息を引き取った。 考えてみれば、永川老人の死も志鶴子が原因になっていた。 彼女が東屋敷へ行こうとしなければ、老人は崖から墜ちずにすんだのだ。とヒロインの身勝手な行動が次から次へと人の死を招く。 そもそも人質のいる逮捕監禁事件でしかもアメリカという現場に関係者がしゃしゃり出るなどということがあるわけないじゃないか。 本作においてはまるで正史のようなおどろおどろした舞台も用意されていた。 しかしそれだけの話。 その舞台が展開することはなかった。 ただとにかくヒロインの暴走が不快感の原因だったということ。 森村もここにきてついに多作家症候群に罹患してしまったんだなあということが十分に感じられる作品だった。 殺意の航跡もまた不快極まる話だった。 森村は本作において, しかし人が人を殺す原因は、情痴とか、復讐とか、利欲目的とかの単純な言葉ではいいつくせないもっと大きな、複雑な、混沌としたものが心の深奥で攪拌され、醱酵し、沸騰して、ついに殺意に高められ、行動に噴射するものである。などと書いているが,こんなこと独りよがりに過ぎず,簡単に文章にできるようなものじゃない。 相変わらず森村は偶然というテを使い,先の砂の碑銘同様強引な方法を使って話をまとめたけれど,今回も警察の不具合を書いてストーリー性をもたせた点,そして何らトリックが存在しない点,本書に載った2作は残念ながら森村モノとしては下に沈殿してしまった作品群だと言わざるを得ない。(4/2記)
2023.06.25
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凶通項【電子書籍】[ 森村誠一 ] 森村モノがどんどんKindleUnlimited化しているのだけれど,もう50年ほど前の作品が多くて,当時の景色が思い浮かばない人には,この人何を書いているんだろう,なんて思うことだろねえ。 ホーム&アウエーという言葉があるがまさに本作はその言葉通り,ホームたるホテルとアウエーであるやくざ世界のせめぎあいだったね。 やくざの世界に深入りはできないだろうから一部森村の空想という感じが色濃かった。 しかしさあ,ホテル内部の人間がやくざを導いて部屋に入れるかねえ。 それが原因で死ぬことになる女の夫の復讐譚でもある。 それにやくざの首を取ったやくざと不良刑事と悪徳大企業幹部が入れ代わり立ち代わり出たり入ったりするのだけれど,森村モノにしては実に分かりにくい話になってしまった。 他人の空似とは言うけれどそんなにそんなにそっくりさんがこの世にいるわけがない。 本作を読んでいるうちそのそっくりさんやくざは多分本作の早いうちに殺されているんじゃないかと読んだが,その通りでしたな。 森村の西京化とでもいうべき作品だ。 まさに森村にしては数少ない多作家症候群に陥った作品。 読むのは実につらかったでっせ。 ただしっかり読ませていただいた。 そしてミステリーを読むにあたって何が問題があるのかとかなぜ多作家症候群に陥るのかなどを考えさせられた。 多作家症候群に陥らないコツは吟味に継ぐ吟味ということだろうね。(3/28記)
2023.06.18
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銀の虚城【電子書籍】[ 森村 誠一 ] かなりの長編でしかもミステリーに非ず。 森村の前半生たるホテルマンの内情を余すところなく伝える超長編小説であった。 3時間もかけて本を読んだなんて実に久しぶりのことだ。 それだけ面白い話だったのは間違いない。 時代は1964年の東京オリンピックあたりから昭和40年代にかけての話。 高度経済成長中の日本におけるホテル業界のつぶしあいというテーマのもとある一人のホテルマンが間者に仕立てられ敵のホテルに送り出される。 工作は一つ一つ成功していくのだが…。 最終盤送別会後敵地を離れる際その敵の王女様と最後のひと泳ぎをするわけだがあのシーンは多分森村は主人公高村に水死してもらうつもりだったんじゃないのか。 だがそれを引きずって結局天邪鬼たるミステリーリーダーの思い通りに話は終わる。 というより多分誰でも予測したんじゃないか,裏切られることは。 それがなんとも歯がゆいけれどそうならざるを得ないだろうな。 そもそもアンフェアな作業だから本作のような結末は容易に予測できるのだ。 森村の非ミステリー作品は私の記憶では初めてですな。 清張にはよくあったけどね。 まあでもトリックぽい所もあったけどね。 赤痢菌ばらまきなんて731部隊ってところかな。 とにかく森村はkindle unlimitedに貢献している。(3/27記)
2023.06.15
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新・オリエント急行殺人事件【電子書籍】[ 森村 誠一 ] 明らかなネーミング効果狙いだ。 だからオリエント急行が出てきたのは冒頭ほんの少しだけ。 というのはオリエント急行に乗った日本人ツアーの成員が複雑に絡み合った話だからだ。 つぎに森村お得意のテとしての交通事故が相変わらず大手を振る。 いっぽうミステリーとしてのトリックはこん棒のような石器の存在。 または大学がらみ,欲得がらみの話もあるがトリックには程遠い…。 というのは彼すなわち森村がいよいよ多作家症候群に陥って商業主義にどっぷりつかってしまったということでしょうなあ。 売るためには複雑な人間関係を構築しなければならない。 そもそもミステリーというのは,動機,機会,方法を骨格にして肉付けしていく文学である。 ようするに複雑だがわかりやすい今まで誰も使ったことのないトリックが必要になるのだ。 いわばなぞなぞ作りだ。 とりわけ探偵小説にそれが求められる。 さて本作はそういう意味で言うと果たしてミステリーと言っていいのかどうか。 以上のように登場人物の複雑な絡みだけでは読者は納得すまい。 たしかに森村は第四祖だけれど,本作に関しては多作家症候群に陥ってしまったといえよう。 誠に残念である。(3/14記)
2023.06.09
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解体死書【電子書籍】[ 森村 誠一 ] まずもって読書の新方法から論ずる。 そもそも読書とは目で追うものだとばかり考えていた。 しかし最近立て続けに耳読書関係の本を読んだら,小説を読むのだったらこの方法に如くはないと思えるようになってきた。 たしかに速読という観点から考えると耳読書の速度は格段に落ちる。 ようするに早回ししても目でゆっくり読んだ場合の速度と変わりない。 もっとも最速にすれば少しはスピード感が増すけれど。 それにしても脳への定着率が違いすぎる。 それはともかく本作は短編集,印をつけたり目で読んだり耳で読んだり様々試しながら読了した。 さてその結果は,目で見る映画に似た立体感があることに気づいた。 これはあーた,これからはこの耳読書によることが多くなりそうで,そうなると実はまたまた紙の本vs.電子書籍の問題に関わるのだ。 なぜなら,kindle unlimited版を読み上げ機能を使うことによって耳読書が可能になるからなのだ。 耳読書は紙の本では味わえない豊かな感性の世界に浸れるということがわかった。 この年にしてまた新たな文明に関われるなんてさ,なんと得な人生なんだろう。 考えてみればさらにそれ以上の感覚的な発展というのはあるんだろうね。 本作は相変わらず森村のテである交通事故が多いし、犬が出てくる話も複数,ホラー的終わりもあっていかにも森村でしたな。 ここまでをまとめるとこうだ。 森村モノは耳読がよろしい。(3/11記)
2023.06.05
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螺旋状の垂訓【電子書籍】[ 森村 誠一 ] しかしそれにしても森村の作品を読んで飽きるということはない。 そもそも,テ,あるいは,抽斗,が多いんだろうな。 さて本作は複雑な人間関係がテであり抽斗でありさらには森村式ストーリーであった。 それはともかく森村は本書の奥書に自分のポリシーを書いているけれど,本作にはトリックがないのである。 したがって本作をミステリーと言っていいのかどうかわからない。 さらに偶然の連発のような過去の関係者が現代でまた関係していくという、だからそれが小説といえばそれまでなんだろうけれど、私にはそういうのが気に食わない。 すなわちミステリー作家と称される人が書いたのがミステリーだなんて口が腐ってもいいたくないし思いたくもないのだ。 しかし本作はストーリーだけの人と人との綾だけが問題の作品で,そこには微塵もミステリーは存在しない。 それでまたここで大きな課題が出現したというわけだ。 つまり,ミステリー作家の書いた作品がミステリーかと言う問題だ。 そこで思い出すのは清張だ。 彼の書いた小説にはミステリー性のない作品がかなり混在する。 それでも彼はあくまでミステリー作家だというのであれば,今度は森村が,清張症候群に罹患したと考えるべきなのだろう。 トリックが枯渇してストーリー性で食っていいこうとするのは,結局それも多作家症候群だと思う。 ここまでをまとめるとこうだ。 森村ですら多作家症候群と清張症候群に罹る。(3/11記)
2023.06.04
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肉食の食客【電子書籍】[ 森村誠一 ] 本作は11の作品からなる短編集である。 最初の3作がホラーであった。 幽霊の足音が聞こえたり化け猫が出たりいじめの被害者の骨を食べたり…。 他の短編集で読んだ作品も2つあった。 一つはアパートの火事現場で家族を助けに戻って焼け死んだ話。 もう一つはシロアリのような叔父から食い荒らされた家庭の話。 森村に関しては私は長編作家だと最初思っていて,そのことを論じたりもしていたのだけれど,実は短編も非常に多く世に出していることが分かり,その評価についてはまだ一定していないというところだ。 本短編集における作品は多作家症候群のようなスカな話はなかったので,ほっとしたところである。 苦し紛れに書いたつまらない作品を読まされた読み手にしてみればそれくらい悲しいことはない。 いい加減に…と言っていいのかな,速読をしてその話の真髄に触れることなくただのあらすじをなぞるだけの読書ならば書き手はそれでもいいのだろうけれど,本当の読書,小説読み,ミステリー読みというのは,読み手側も吟味して読んでいるわけで,そうなると, かなり時間をかけて読むことになり,少なくともいい加減な作品を読まされたその時間的なロスは書き手から返してもらわなければならないと考えるがどうだろうか。 私はこの頃タブレットの読み上げ機能を利用して耳読をしている。 最初から最後まで耳読をするとなるとかなりの時間がかかる。 従って速読をして熟読しなければならない箇所を耳読することになるのだが,これが実に脳内スパークをするのだ。 従ってミステリーリーダーとしてはこのアイテムをこれからも使うことになるだろう。 その結果およその時間経過であるけれど,300ページ90分という感じである。 本一冊映画一本分と言う感じだな。 当分の間この耳読,逆聴(逆聴とは最速の AI 音声とともに活字を読むこと)を利用することになるだろう。(3/4記)
2023.05.26
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人間の十字架【電子書籍】[ 森村誠一 ] 一回読んだような気がするが本ブログにはアップされていなかった。 本作は森村節炸裂!の感が実に強い作品だった。 町野と由紀子の恋路は年の差20。 40と20としてその差は,2.0,10年後1.67,20年後1.5だと由紀子が言う。 これはまた森村の心の奥の希望だったのかもしれない。 テ,である。 交通事故,男女関係,遺留物,人間関係の綾,ホテル。 読み過ごすと大変なことになるのだが,そうさせない森村の上手な文章力が本作にはある。 あたりまえのことだが,小説とは文章力である。 ところで本作はミステリーと言えるのだろうか。 殺人事件はたしかに起きるのだが,トリックはない。 そこが論点だよね,ミステリーかそうでないかということの。 まあ,殺人事件がある以上ぎりぎりでミステリーと認定しようか。 多作家症候群の兆しか,すでに症例ありなのか,森村も苦しみながら作品を紡いでいたんだなあ。 冒頭の家庭内暴力とわが子に対する殺意,その我が子被害のひき逃げ死亡事故,そして生きる意思を失った妻の自殺。 これにホテルにおける殺人が入り,染色ボールもあったりして,これらのアイテムを羅列していたら,なにやら忙しい寄席話かななんて思えてしまうけれど,森村ファンには森村ワールド満載の本当に素晴らしい作品だったのだ。 Kindle Unlimitedに数多の作品を置いてくれる森村に感謝である。(3/2記)
2023.05.22
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生前情交痕跡あり【電子書籍】[ 森村誠一 ] 本作は平成3年初出である。 さまざまなツッコミどころかあったけれども,結果的にはホンボシと思われる国会議員の落選で話が終わる。 大変分かりやすい話であり,殺人事件は一件だけ,犯人が国会議員なのかそれともその秘書であったのかどうかわからないものの余計なことをしなければ単なる腹上死で終わった案件であった。 まず私がこの表題から考えたことは,犯人は女性の可能性もあるということだった。 これはミステリーリーダーの深読みのなせる業で,ネタバレにはなるけれども,その線はなかったということをここで明らかにしておく。 森村ほどの作者が彼のテの一つと言うか, もう本当にこのホテルが舞台の作品が多い中,鑑識の微物採取が終わる前に掃除をするホテルなど一体どこにあるのか,そんなこと知っているはずなのになあとまずは第一のツッコミ。 あなたは自分の無実を証明したかったらそのひろみという女性を探し出すことです,などと言うセリフを刑事にさせるなんて…。 その挙証責任は明らかに捜査機関にありますよ。 本作では宮沢ひろみという19歳の女性が,登場人物の一人野々村にとって天使のような振る舞いをして,それが大きな伏線になって最後伏線回収に至る話なのだけれども,先ほど書いたミステリーリーダーの深い業病によってこのひろみもきっとこの犯罪の仕掛けの一つなんじゃないかなって考えてしまっていた。 今回の構図は 国会議員の秘書が全件をかぶって 刑に服するという形になったが,その証拠収集の際に,この秘書の指紋と適合した部分,これは任意性にかける方法であり証拠としては採用されない。 この辺の粗さは森村の多作家 症候群が出たあたりだと思う。 森村は多作家症候群の少ない作家だったから,この点とても残念だ。 しかしストーリーとしては非常に良く出来ており,またホテルのことをよく知っている作者でなければ書けない腹上死後非常階段を使って下の階に持っていくあたりの話は,立派なミステリーのトリックとも言えその意味で,動機,機会,方法そしてトリック,ストーリー性十分な佳作の一つだったと私は評価したい。(3/25記)
2023.05.20
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鍵のかかる棺【上下 合本版】【電子書籍】[ 森村 誠一 ] さて本作は上下巻の2冊モノだ。 それにしてもよくもまあここまでてんこ盛りにしたもんだな,登場人物も複雑なうえ,実行犯が米国に高跳びしてはまた舞い戻ってきたり,うーむ,森村モノとしては異色中の異色だ。 ようするに冗長すぎる。 いわば多作家症候群の最たるもの。 というのは今まで書いてきた通り話が冗長でありしかもミステリー作家にしてはトリックがなく,てんこ盛りのエピソードがまとまらずひたすら男女関係が入る。 だから読んでいて楽しくなくて,立花隆流に言えば小説を読むひまがあったらほかの本を読もうということになる。 または速読したら中身がわからん状態になる。 しかしだからといって森村の書いた本,粗末にはできない。 また別の本をよむことになりつぎに失望する。 いっぽう今継続中の東野は勢いがよくて,そもそも乱歩,正史,清張,森村,東野研究は比較論,とりわけ東野の作品が光って見える以上本作により森村の評価が坂道を下るかのように見えるのは仕方ないことなのかもしれない。 たしかにミステリーを書くことは難しい。 他方では東野のように堅実に着実に精緻に書き紡ぐ作家もいるのだから,多作家症候群に罹患することだけは避けてほしいものだ。(2/28記)
2023.05.14
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虹への旅券【電子書籍】[ 森村 誠一 ] まずもって本作はミステリーではない。 そもそも本作には明らかなトリックがないのだ。 しかしつまらない作品でもない。 たしかに森村が苦し紛れに書いたことに違いない。 ようするに多作家症候群だ。 つまりトリックが枯渇したもののとにかく書かなければならなかったんだろうな。 もっともミステリーを求める向きには特に本作をおすすすめはしない。 それにしても作家も商業主義にどっぷり浸かると大変だ。 そのことを正史がわかってほしいというわけだ。 それはともかく森村が実際行ってきたであろうヨーロッパの風景やら森村得意の人間関係の綾はミステリーの属性にこだわらなければとても面白い小説に仕上がっていた。 さて森村齢90,作品がkindle unlimitedでたくさん読める作者の一人。 私自身一体どこまで彼の作品を読むことになるのだろうか。 とても楽しみだ。 乱歩,正史,清張,森村ときて今東野を読破中。 その東野の後釜が見つからない。 そのレベルに達している作家がいないのだ。 そこで様々な作家を読むことになる。 ところが面白いなと思える作家は今のところほとんどが東野と同世代なのだ。 ここまでをまとめるとこうだ。 飽きずにひたすらミステリーを読むより他に東野の後釜を見つけることはできない。(2/25記)
2023.05.12
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野性の証明 (角川文庫) [ 森村 誠一 ] 先日野性の証明の映画を観て(夕顔絵夢二郎の江戸ハブ日記 230214)これは森村モノではないと直感したのだった。 それでこいつぁ絶対原作を読まなければなるまいと思ったわけだ。 正解でしたな,映画は原作とは似ても似つかぬものになってしまっていた。 そもそも自衛隊が国民を撃ってはいけない。 そんな自明の理が映画では全く無視されていましたな。 さて原作であるが,これはちゃんと私の本棚に陳列されていました。 中身の記憶などとおに忘れしまっていた。 映画を観ても何も思い出せない。 しかし原作を読んだら,ああそうだったというほのかな記憶と本当に質の良いミステリーに私は酔ってしまっていた。 なるほど原作はこういう作りであったか。 納得。 そういえば本作に出てきた羽代市とは山形県山形市をモデルにしたということをなにかで読んだ覚えがあるし本作でその羽代市を牛耳っていた大場一族の話はまた別の作品にもあったような気がするけれど,それは本作とは何も関係ないので置いといて,映画がラストあまりにも酷いつまり頼子が死んでいくシーンなんてあって参ってしまったけれど本作では頼子がきちんと犯人を指さして終わりという点,どう考えても原作の勝ち! 原作の流れと作りはどれも合理的で,映画のハチャメチャさの酷さが浮き出ましたな。 まあ,映画評論ではないので映画のことは置いといて,主人公味沢の出自が最終盤になされるという点,実を言うと本作は映画化すべき作品ではなかったんじゃないか。 そんなこと考えながら500ページ弱の本作を一気に読了した。 いやあ,ミステリーって本当に素晴らしい!(1/18記)
2023.04.11
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残酷な視界【電子書籍】[ 森村誠一 ] 本短編集は,雪の絶唱,死を運ぶ天敵,異常の太陽,殺意開発公社,殺意中毒症,赤い蜂は帰った,魔少年,残酷な視界,空白の凶相の9作からなる。 何もかつて読んだことのある作品だ。 ここ最近読んだ森村の傑作短編集所収のものが多かった。 つまり森村作品というのは短編がそっちこっちに切り売りされているということだろう。 あるいは傑作短編集に再編集されたものなのかもしれないけれども,読み手にとっては迷惑この上ない。 残念ながら題名を見ただけでどのような作品だったかなどはすぐに思い出せない。 というよりも,ほぼ絶望的な私の記憶である。 ただ何も読み進んでいくうちに,森村ワールドが展開することは間違いなかったな。 結局ミステリーライターというのは自らの荒野を読み手にいかに脳内スパークさせるかということに尽きるのだと思う。 乱歩なら乱歩の,正史なら正史の,清張なら清張の荒野が読み手の脳裏に明らかに展開される。 同様に本短編集所収の9作品は,読み進んでいくうちに,森村の癖が遺憾なく発揮され,間違いなく森村だと断定できるほどの舞台である。 森村が乱歩,正史,清張と明らかに違うのは, クルマの介在があるかないかである。 とにかく森村作品では,それが癖であろうか,交通事故が異常に多いのである。 それらの癖を私は,テ, と表現しているけれども,これらのテは,本短編集にも出てくる昆虫類,動物類,植物類にかかる微物とか今話した交通事故,そして証拠が出てくると一気に自供してしまう被疑者など,その特徴は独特のものがある。 それがまた森村の魅力ではなかろうか。
2023.02.17
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完全犯罪の座標 傑作短編集(七)【電子書籍】[ 森村誠一 ] ふむ,ここ数編つまらん作品が続いていたけれど,本集は確かに傑作集である。 さて本集は表題作である完全犯罪の座標,妖獣の債務,魔犬,風媒の死,盗めなかった切り札,致死鳥,断罪喫茶店,飼い主のない孤独,盗まれた密室の9作からなる。 しかし何作か他の短編集にも入っている作品もあって,あーまたかなどとも思ってしまうのだけれど,そういう作品に限って優れた作品なのである。 それにしても,私は森村モノに関して,テ,という言葉を使って表現しているけれども,特に目立つのは動植物の毛とか実,花粉などの微物,交通事故にまつわるエピソード,登山,完全犯罪に対するこだわりなどで,そのようなストーリーが始まるとあーまた始まったかと思ってしまうのだ。 そもそもそれが森村モノだから仕方ないけれど…。 それはともかく完全犯罪の座標は,置き去りにした被害者の上にホテルから飛び降りた人がぶつかる偶然の話。 たしかにそういう偶然がないわけではなかろうが,ようするに偶然を使うのはやはり私はミステリーリーダーとしてその作家が,多作家症候群に陥っているのではないかと疑ってしまうのだ。 まずもって作家は偶然ではない知恵絞りによってミステリーリーダーの鼻を明かして欲しい。 もっともその点順序が変わってしまうけれども,9番目の盗まれた密室は,実によく出来た作品で,モーテルにおけるマジックミラーが密室を砕いてしまうのであった。 なおこの作品における密室は,ほぼほとんどの人が不可能な軟体人間のなせる業であった。 幼虫の債務は教誨師の話。 魔犬は,サー・アーサー・コナン・ドイルの バスカヴィル家の犬を彷彿とさせるデカと言う犬の燃えた犬の話。 風媒の花は花粉の話,つまり微物ですね,今は科捜研辺りの鑑定力がこの時代よりもずっと進歩していることに着目しなければなるまい。 盗めなかった切り札は殺人事件のない泥棒話,こういう話もたまにはいいですね。 致死鳥はほとんど未消化の小さな赤い実,ピラカンサ,これが解決のタネになる。 断罪喫茶店は喫茶店の持ち物間違いからはじまるミステリーだ。 飼い主のない孤独は猫の排泄物から犯人を割る話。 本傑作短編集7は森村の短編としてはまさに傑作にあたる9作が載せられていたと思う。 最近森村モノを読んで,不快感に苛まれていたけれども,今回はミステリーをじっくり楽しませてもらった。
2023.02.08
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影の分岐 傑作短編集(六)【電子書籍】[ 森村誠一 ] さて本集は,文学賞殺人事件,暗渠の狼群,中禅寺湖心中事件,企業人非人,無能の情熱,殺人花壇の6作からなる。 まずもって今回も私的には不快な話ばかり,朝ドラ理論はもはや効かなくなった。 もっともストーリー性は高い。 しかし多作家症候群か,ミステリー性が薄まってきている。 それにしても文学賞殺人事件なんて一回別の短編集で読んでいるのだけれど,記憶は朧気,恐ろしいものだね。 そもそも小説については,知の巨人立花隆が言っていたとおり,知のためにはなりません,と思っていたのに,あえてまた読み始めたのは現役引退後,日本のミステリーの系譜を研究するためのテーマの元今日まで読みついできたわけだ。 たしかに乱歩・正史・清張の系譜は森村に続いていると自信を持ってその通りと言える。 それほどこの4者の作品を読み込んだ。 それはともかくいつの間にか森村にのめり込んでしまった。 ようするにKindle Unlimitedに森村モノが多く入っていたことの裏返しでもある。 そして読みついでるうち,口飽きし,朝ドラ理論に反することに反発し,不快感ばかりが残滓となった。 暗渠の狼群では,森村はかなり注意深く法律も表現してきたんだが,この作品においてついに,24時間の留置時間などという,西京ばりのつまらない法理を出してしまった。 中禅寺湖心中事件では,心中を巡る男女の駆け引きの話が,企業人非人では,そもそもの差別用語人非人が使われ,女性蔑視も甚だしい,男女の愛をシーソーゲームのように書き綴るなど,男女間の愛憎を書きまくっているけれど,それがまた実に不快感を増幅しているのだ。 無能の情熱は,しなくてもいい殺人,このことは森村の作品に度々出てくるようになっていますな。 殺人花壇は,同じようなシチュエーションでまたか感が募る。(11/18記)
2023.02.07
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終身不能囚 傑作短編集(五)【電子書籍】[ 森村誠一 ] まずもって森村の傑作短編集も第5集まで読み込んだ。 もっともだからといってどうということもないのだけれど。 さて本集は紺碧からの音信,虫の土葬,孤独の密葬,無能の真実,無限暗界,行きずりの殺意,喪われた夕日,終身不能囚の8作からなる。 しかしそれにしてもいくら森村モノとはいえこれだけ連続して短編を読むと,いい加減口あきしてきますね。 そもそも森村は私の中では今までつまりこの傑作短編集を読む前までは先入観念で長編作家だとばかり思い込んでいたから,今回の短編をばかりを読むのはかなりきつい所業なのである。 それはともかく読み始めた以上は読了をしなければなるまい。 たしかに面白いものはあるけれどそうでないものもあるし,今まで森村は手を抜かない作家だとばかり思っていて,ミステリー作家の矜持として必ずトリックを中に入れるものと思っていたけれど,結局ストーリーやプロットで小説そのものをごまかしにかかっている面もあることは否めない。 ようするに森村も多作家症候群に罹患していたのだ! 紺碧からの音信は戦争が夫を奪ったはずなのに…。 この小説には大東亜戦争の特攻隊の真実も盛られている。 虫の土葬は1回読んだことがあるもので,穴の中が一番だったという男の話だ。 孤独の密葬は私は女性であったと言う意外性で,この女性がいろいろ動いて殺される。 無能の真実は,無能ではあったが温かみのある男の話,彼が殺される。 無限暗界はサイコスリラーっで,切断された手首とか仮死で火葬されてしまう話。 行きずりの殺意は強盗をうまくあしらったのにね,殺されてしまう主婦の話。 喪われた夕日は嘘つき同士の恋人の話。 終身不能囚は,(浮気相手は)私よ,という点,私は全部みろっとめろっとお見通しでした。 なんかここに来て,私は森村モノに不快感を覚え始めましたな。 それは朝ドラ理論からずっと大きく外れてしまっているからに違いない。 短編という性質上例えば牛尾刑事とか棟居刑事のような語り部も出てこないし,森村得意の精緻なストーリーも紡がれず,ただストレートに傷害部分が露出されたようなそんな表現に終始していることから,私は森村の短編は好きになれない。 従って本短編集7番までいったら一旦森村を休もうかなあなどとも考えている。
2023.02.06
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空洞の怨恨 傑作短編集(四)【電子書籍】[ 森村誠一 ] まずもっていよいよ森村は短編作家だったか,と私の,森村は長編作家という思い込みも修正しければならないな。 だからといって長編が面白くないというわけではなくて,最近森村の長編に出会っていないということなのである。 もっとも私のフィールドがKindle Unlimitedである以上,体系づけて順序よく読めるものでもないし,現在読み込んでいる傑作短編集は,7番まで揃えているので,ここ数日は短編集に関する書評になる。 さて本集は,二重死肉,鈴蘭の死臭,集合凶音,密閉島,崩落した不倫,空洞の怨恨の6作からなる。 二重死肉は他の短編集にも入っている鼠に赤ん坊が食べられる話。 鈴蘭の死臭は,鈴蘭の香りの謎解き。 集合凶音は騒音とひまわりの種の謎解き。 密閉島は海に落ちた子供を助けた心臓病の男が犯人に仕立て上げられたが…。 崩落した不倫は,不倫の二人は全く殺す必要のない殺人を行った。 空洞の怨恨は幼い時からの怨恨で刑事になった男の話。 しかしそれにしても一つ一つの話が独立していて,読み手を飽きさせることがない。 そもそもそれは森村の特技と言えよう。 それはともかくこれだけの話を考えることができた当時の森村という作家の凄さを感じずにはおれない。 たしかに70年代あるいは昭和50年代の旗手だった。 ようするに森村はミステリー界に一時代を築いた大作家だということだ。 まあそれにしても次の作家に入りたいのだが…。 これは本屋に行かなければならないのかな。
2023.02.05
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魔少年 傑作短編集(三)【電子書籍】[ 森村誠一 ] まずもって森村についてここでしっかり修正して置かなければならない。 すなわち彼は長編作家であり短編作家ではないという私の思い込みが必ずしも正しくないということである。 つまり本短編集もすでに3番まで来ており,しかも今私は昔の記事を読んでいるのだけれど,森村モノは私がはじめのうち読んでいたのが長編ばかりと思っていたけれど,実は短編集もかなりあったということがわかり,森村は長編とか短編とかで論ずる作家にはあらず,ということなのだ。 もっともそれはどんな作家にも言えるのかもしれないけれど,短編より長編のほうがより精緻であることは確かだ。 さて本短編集は,魔少年,空白の凶相,燃えつきたろうそく,雪の絶唱,死を運ぶ天敵,殺意開発公社,殺意中毒症の7作からなる。 うち最初の2作が少年犯罪モノである。 しかしそれにしても森村は引き出しに自身のネタをきちんと揃えておく。 そのことを私は,テ,と表現してきた。 そもそも,テ,とは,手,手口あるいは得意技と言ったらいいのかな。 今回も,不倫やら虫やら交通事故やら汚職やら,と森村の得意技が炸裂するのだs. それはともかく魔少年は,裏にとんでもなく頭のいい少年がいて実行犯を操っていたというもの,空白の凶相は少年時代の犯行を思い出すサイコモノ,燃えつきたろうそくは焼死者は前途ある若者,雪の絶唱は浮気相手が写真のトリックを使って自殺した話,死を運んだ虫は害虫の天敵を大発見した科学者の犯罪がその天的である虫により暴かれる話,殺意開発公社はやられるまえにやっちまった話,殺意中毒症は社長室で不倫をしていた同級生が気づかれたワーカホリックを青酸カリで殺す話だが,その青酸カリを混ぜた薬瓶がすり替えられていて,殺されるはずのないものが殺されたという話。 たしかに話しそのものは面白いのだが,奇しくも著者が死を運ぶ天敵において, 田能倉は、最初、一般の小説を書いていたのだが、いつの間にか推理小説の方へ傾いてきて、最近発表する作品のほとんどすべては推理である。 推理も謎に重きを置く本格推理から手をそめたのだが、このごろは注文に追われてあまりに量産したために、いちいちトリックに工夫を凝らすことに疲れてきた。 それにトリック中心に書くと、どうしても小説としての構成に無理が生じやすい。 登場人物もうすでになるので、最近はプロットの面白味で読ませるような方向へ変ってきている。と書いているのはどうも著者の告白のように思えてならない。 ようするにこの告白は,多作家症候群の症状そのものと言えるのではあるまいか。
2023.02.04
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姦の毒 傑作短編集(二)【電子書籍】[ 森村誠一 ] 森村モノの読み始め私は森村は短編を書かない作家だと誤解してしまったのだが,実はかなりきめ細かい短編も書き綴っているということがわかってきた。 そもそも森村が長編作家だと誤認した訳は,読み始めの頃の作品がほとんど長編だったからだ。 それはともかく本書は50年前の作品が6品載っている作品集である。 表題作姦の毒は,淋病罹患の謎を探るもの。 森村のテには,男女関係の複雑さもある。 黒い合併は,会社合併に関わる人事戦争。 森村は誰かからこんな企業内の人事戦争を取材していたんだろうな。 殺意の逆流は,銀行内査察とその上を行く上司の駆け引き,正義感の強い若い査察係が殺される。 暗合殺人事件は,ヤクザの赤ん坊に網棚の荷物を過って落とし殺したことに端を発する話。 他人の空似も利用する。 この話は以前別の短編集に載っていたのを読んだことがある。 ステレオ殺人事件は,これまた複雑な不倫関係を小説化したもの。 テである登山の懸垂下降という方法で犯人は逃走している。 情熱の断罪は,清原典子と言う女性の嘘話にまんまと乗せられた余命幾ばくもない男が殺人してしまうという話。 髑髏のように窪んだ眼窩の底の目の色なんていう表現があって,まるで正史のよう,なんて私は思ってしまった。 まあそれにしてもなぜ読んだ小説を次から次へと忘れてしまうんだろうな。 ばかりか,小説以外の本でも,今私は本ブログをゆっくり読み直しているんだけれど,よくもまあこれだけ私は本を読んだものだと自分に感心するし,その記事を読んで,はあ,とまた感動し(自分の記事に感動もないだろうにね)読んだときにはこれほどきちんと分析していたんだなと思いながら,なぜこんなにも頭に入っていないのだと愕然としたのだった。(11/11記)
2023.02.01
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死媒蝶【電子書籍】[ 森村 誠一 ] なんともにぎやかな話でしたな。 エスピオナージ,大学の不正,企業内の権力闘争,夜の蝶,そしてカンアオイ,ギフチョウでfine。 偽装心中は清張の点と線を彷彿とさせる。 行方不明になった出稼ぎ者は北k国のエージェントだった。 窓から人間がバスの屋根に落ち,姿を消す。 それに大学の権力闘争,これなんざあ,昨今の日大騒動を思い出させる。 これらが次から次へとテンポ良く出てくるから,読み手はのんびりしていられない。 つまり,読み手もしっかり読み込まなければならないのだ。 ここに来て森村モノは本ブログのカテゴリー上今野敏を抜き30本をこえた。 おそらく次に清張を抜き乱歩を抜き正史を抜くことになろう。 いつぞや読んだ私と同じ生業の人の書いた森村論は歯牙にもかけずという酷いものだったけれど,私にとって森村はNO1である。 しかしそれにしても何をそんなに嫌っているんだろうねえ,その評論家。 私には理解できないのだ。 それはともかく,森村はとにかく何らかのトリックを弄する。 今回の巧緻なトリックは,なんといっても窓から落ちた死体の行方,最終盤の殺人事件解決編における犯人に行き着いた,刑事の推理にある,カンアオイという植物の話にあった。 いかにも,森村!という作品であった。 まあ、管轄外ということもあろうが,エスピオナージには少し無理があったかな。 エスピオナージの挿話など必要ないのにね,森村の力量からすれば。 などと思いつつまた森村を読了した。(11/9記)
2023.01.31
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