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「事案の概要」
破産会社Aの破産管財人Xが,建物の賃貸人であるYに対し,破産法53条に基づいて賃貸借契約を解除したとして,建物賃貸借に係る保証金(敷金)預託契約の終了に基づき,保証金の返還を求めた。A・Y間の賃貸借契約(本件賃貸借契約)には,保証金を放棄することにより即時契約を解除する旨の条項(本件放棄条項)があるところ,AはYに対し,本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をし,その5日後,破産手続き開始申立をして同日破産手続開始決定を受けたという事情があった。
Xは,Aによる本件賃貸借契約の解除が「破産者が支払停止があった後又はその前6月以内にした無償行為」(破産法160条3項)に該当するとして否認する旨主張した。これに対しYは,本件賃貸借契約には破産手続開始の申立てにより解除された場合には,AはYに対して保証金残金を請求することができない旨の条項(本件制限条項)が存在したとして無償行為該当性を争った。
また,Xは,前記の否認により無償行為前の状態に服した本件賃貸借契約に基づく法律関係につき,破産法53条1項に基づく解除を主張した。Yは,同項に基づく解除にも本件放棄条項が適用されるから,Xが即時解除するには保証金返還請求権を放棄する必要があると主張した。
「判旨」
1 AがYに対して保証金残金の返還請求権を放棄して本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした行為は,Aが支払停止等の前6か月以内にした無償行為に当たる。
2 本件放棄条項は合意に基づく解約権(約定解約権)の行使を定めたものと解され,Xによる破産法53条1項に基づく解除権の行使についての要件とは解されない上,同項は,契約の相手方に解除による不利益を受任させても破産財団の維持増殖を図るために破産管財人に法定解除権を付与し,もって破産会社の従前の契約上の地位よりも有利な法的地位を与えたものと解されることをも併せ考えると,Xによる上記の解除により,保証金残金の返還請求権が消滅するものとは解されない。
1について,本件では,破産手続開始申立てをしたAのYに対する保証金返還請求権は,実質的に価値がないから,同請求権を放棄する行為は無償行為に当たらないのではないかが問題となった。本判決は,本件制限条項につき,借地借家法28条の規定の趣旨に反して建物の賃借人に不利なものであるから,同法30条により無効であるとし,この判断を前提とすれば,保証金返還請求権は経済的価値があるから,これを放棄する行為は無償行為にあたると判示したものである。
判例時報2144号 99頁
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