ある女性議員のボディガード。
対面の約束は、今日のお昼。
会期中の今、何かと忙しいらしく、昼食時に偶にしか時間がとれないらしい。
約束の議場近くのホテル、ロビーのカフェ。
その女性は、秘書らしい男女と書類を見ながら、なにやら打ち合わせしている。
少し離れて控えていると、彼女がワタシに目を留める。
秘書達に何か言うと、男女二人がソファから立ち上がって、その場を離れる。
遠目から軽く会釈して、彼女の座るソファに近づく。
彼女が立ち上がって、右手を差し出す。
「今日からよろしくね」
微笑む彼女にこたえる。
「よろしくお願いします」
彼女の手を握り返す。
手を放して、彼女が言う。
「ところで、あなた、お昼まだでしょ?」
「えっ、ええ」
「じゃ、つきあって」
「あっ、はい」
先に歩きはじめる彼女を追うようにして、エレヴェータに向かう。
ワタシたちに気づいたポーターが、先導するようにエレヴェータのボタンを押す。
扉が開く。
「ありがとう」
彼女がポーターに言って、乗り込む。
ポーターに会釈して、後に続くワタシ。
エレヴェータの中で彼女が、展望レストランのフロアのボタンを押す。
扉が閉まると、静かに箱が上昇する。
並んで立つ彼女が切り出す。
「ここ割といけるのよ、あなた、好き嫌いはない?」
「ええ、好きなものはありますが、基本的に何でもいただきます」
扉が開いて、レストランに向かう。
レストランに入ると、ウェイターが誘導して、奥の一角に案内する。
ウェイターに椅子を引かれて、彼女が座る。
「ありがとう」
彼女が、微笑みながらウェイターに言う。
会って間もないが、既に何度か耳にする彼女の言葉。
自然に言える政治家は少ないかも知れない。
ワタシも座りながら言う。
「ありがとう」
メニュを置いてさがるウェイター。
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