「私に任せてくれる?」
「…えっ、ええ」
突然の申し出に、一瞬躊躇するが、ここは、よく通う彼女の舌を信じよう。
彼女が手を上げると、ウェイターが静かに控える。
彼女がメニュを指しながら、いくつかのものを二つずつオーダーする。
ウェイターが、メニュを受け取り、畏まってさがる。
ワタシより結構年上のはずだが、そんな素振りは微塵もみせない。
年下のワタシに対等に接する。
しばらくして、スープカップが運ばれてくる。
辺りに漂うトマトベースの香り。
一匙掬う。
ゆっくり舌の上に広げる。
絶品というほどではないが、なかなかいける味わい。
時々ワタシの反応を確認するように、彼女がワタシを伺う。
「どう?このテのレストランにしては悪くないでしょ」
「ええ、おいしいですね」
スープを終えると、小さなサラダが運ばれてくる。
一口運んで、思わぬドレッシングの旨さに舌をまく。
ともすると、ただの添え物になってしまう一品。
こういうところの丁寧さが、その店の品格を現す。
今度は訊かれることもなく、素直に口に出る。
「なかなかおいしいですね」
彼女が、にっこり笑ってサラダを頬張る。
そこにパスタが運ばれてくる。
トマトソースのシンプルなパスタ。
彼女が言う。
「会期中はよくいただくの、腹もちもいいし、トマトのリコピンは美容にもいいから」
後半は、少し笑いながら話す彼女。
彼女の自然な笑顔と気安さに、いつのまにか自然と受け答えするワタシ。
「ワタシも、トマトは好きです、自分でピクルスにするくらい」
パスタをいただく合間に、彼女が訊いてくる。
「あなた、自炊するの?」
「ええ、たいていは自分で作っていただきます」
「今の若いヒトは皆コンビニ弁当で、自炊なんかしないのかと思ってたわ」
「珍しいのかもしれませんが、出来合いのものは滅多に買いません、何がどう使われているか分からないので」
「そう、でもあなたのような仕事をするヒトは、自然にそうなるのかも知れないわね」
言われて気づく今まで考えてもみなかったこと。
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