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posted by fanblog

2018年02月06日

ヒッチコックの「鳥」

Amazonプライムの会員特典で、ヒッチコックの「 」を観た。



昔からいつかは観たいと思いつつ、ついつい後回しになっていた映画だった。
思いがけず無料で観れて、ちょっと得した気分である。

鳥がある日突然、狂ったように人間たちを襲い始めるという怖ろしい映画だが、
コワい前に、なかなかおしゃれな印象の映画だった。
ファッション、小物、色使いなど、総じて趣味良い感じで目を引く。
まずもって、主人公の女優さんが、とってもお綺麗である。

ティッピ・ヘドレン さん

グレース・ケリーばりのクール・ビューティー。クラシカルファッションをばっちり着こなし、ひと目で、ヒッチコックの好みのタイプなのだろうことがわかるが、かなりご執心だったようで、近年になって、ヘドレン氏が、当時のあれやこれやを告白なさった模様。ヒッチコック、お前もか!MeToo系事案ですね。( T・ヘドレン氏 BBCインタビュー映像
御年88歳とのことだが、それにしても若いし、お美しい。びっくり。

さてさて、肝心の映画の方だが、
鳥が原因不明の異常行動をとりはじめ、人間たちを恐怖に陥れる物語なのだけれども
徐々にエスカレートしていく鳥の凶行が、登場する人間たちの深層心理とリンクしているかのようで、なかなか興味深いものがあった。一口に言えば「鳥も怖いが、人間はもっと怖い」という感じである。

そもそもこの話は、サンフランシスコの小鳥店で、メラニーという社長令嬢と、ラブバード(ぼたんインコ)を探しに来たミッチという男性が出会うことから始まる。あまり多くは語られないが、メラニーはどうも今で言う、パリス・ヒルトンのような、街の有名お騒がせセレブ的存在のようで、ミッチは初対面ながら、そんな彼女を皮肉るような言動をとるだけとって、鳥探しもそこそこに店を出ていく。当然、見も知らない男にいきなり恥をかかされた格好のメラニーは面白くない。そこでいたずら心から、車のナンバーを手がかりにミッチの住所を調べ上げ、自宅にこっそりラブバードのつがいを届け、彼を驚かすことを思いつく。しかしなんだかんだあって、市内の自宅に届けるつもりが、サンフランシスコから遠く離れた田舎町のミッチの実家まで小鳥を届けに行かねばならないはめになる。一見、どたばたラブコメディーのような雰囲気で始まった物語が、ここから徐々に恐怖の物語にシフトしていく。

北カリフォルニア沿岸の町、ボデガベイ。実在する町のようだが、ここが物語の舞台になる。
閉鎖的なムード漂うさびれた田舎町に、シャネル風スーツに毛皮のコートという、バリバリのセレブファッションで降り立つメラニーは、どう見ても場違いで、さしずめ招かれざる客といった雰囲気だ。ここで一発、メラニーは、手荒い歓迎のようなカモメの一撃を頭に喰らう。まるで「よそ者お断わり」と牽制されているかのように。

しかしこのときの傷の手当をきっかけに、ミッチとメラニーは急速に距離を縮めていく。ありふれたラブストーリーを見ているような気にもなるけれど、ここで二人の恋路を阻む最恐の人物が登場する。

ジェシカ・タンディ 演じる、ミッチの母親・リディアである。
怖い・・・。見るからにオカルト顔である。
私がリアルタイムで知っている頃の彼女は、もうすっかりおばあちゃんになっていたが、今思えばたしかに目力は強かったような・・・。「 ドライビング Miss デイジー 」とか思い出す。たしかとってもいい映画だった。

話が思わずそれてしまったが、息子にメラニーを紹介されたリディアは、嫉妬とか猜疑心とか様々な負の感情を入り混じらせたような、実に冷えた視線をメラニーに浴びせる。リディアは子離れできない、過干渉な母親だったのである。ワガママお嬢サマらしく、あちこちでうらやましいぐらいの華麗なる図々しさをふりまいていたメラニーも、さすがにこのモンスターママの前ではカタなしという感じで、家に招待したいというミッチの申し出をそれとなく何度も断り、サンフランシスコに戻ろうとする。しかし、どうしてもメラニーと別れ難いミッチは、これまたすっかりメラニーのことを気に入ったらしい幼い妹とともに、怒涛の引き留め攻勢をかけ、断り切れなくなったメラニーは、ミッチの思惑どおり、ボデガベイにしばし滞在することになる。息子の思わぬメラニーへの入れ込みように、リディアは気が気でない。

物語には、もう一人、重要なキーパーソンが登場する。アニーという女性である。メラニーは、町でミッチ一家の情報集めをしている過程で偶然このアニーに出会い、懇意になるが、後に彼女がミッチの元カノであったことを知る。さらに、破局の一因が、リディアの嫉妬であったことも知らされる。もう終わったことだという一方で、ミッチへの未練ものぞかせるアニー。思慮深く人の好い彼女は、表向き決してメラニーを拒むようなことはしないが、やはり思いがけない恋敵の登場に、心中穏やかではないといった感じである。

ぎりぎりのところで色々なことの均衡が保たれているような小さな田舎町は、メラニーという異物が混ざりこんだことで、明らかに動揺し始める。リディアが、アニーが、町の人々が、皆が心をざわつかせ、その人間たちの心の動きに呼応するかのように、鳥の異常行動もますます顕著なものになっていく。角度を変えてみれば、ミッチとメラニーが仲を深めていくにつれ、鳥の行動もエスカレートしていくようにも見える。逆に、そんな七面倒なことはいっさい抜きに、純粋なパニック映画として楽しめる感じもあるし、いかようにも捉えることができるからおもしろい。

なぜ、鳥が人間を襲ったか、その真相は結局判然としない。
ラストもハッピーなのか、バッドなのか、どうにも釈然としない尻切れトンボのようなかたちで幕を閉じる。まるで置いてけぼりを喰らったような気持ちになるが、この不穏な後味がこれまたたまらない。

観終わった後もまだいろんな疑問が残る。ラブバードは結局何の象徴だったのだろうとか、物語終盤で、鳥との死闘で傷ついたメラニーを胸に抱きながら一瞬だけ見せる、リディアの母のような慈愛に満ちた微笑みは、はたして額面通りに受け取ってよいものなのだろうかとか…。あと、変なところで一番気になったのは、ミッチの家族関係である。どう見ても四十前後のおっさんという雰囲気のミッチに、11歳の妹がいるという設定がどうにも腑におちないのである。ほんとに妹なのか?まあでも、この時代のアメリカ映画の二枚目は、実年齢よりも老成した雰囲気の人が多いから、ミッチは実は20代ぐらいの設定なのかもと思ったり。

いずれにせよ、なんだか不思議な映画だ。もう一度観てみよっと。

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