ミス・マープル パディントン発4時50分
4.50 from Paddington
放送:1987年
主演:ジョーン・ヒクソン(ミス・マープル)
内容
セント・メアリー・ミードのミス・マープル宅に、ロンドンから旧友のマクギリカディ夫人が遊びにやってきた。しかし夫人の様子がどこかおかしい。聞けばここへ来る道中、殺人を目撃してしまったという。パディントン駅4:50発の急行列車に乗った夫人は、隣の線路を並走する列車の中で、女性が男に首を絞められ殺されるところを見たというのだ。夫人はその場ですぐに駅員に通報したらしいのだが、年寄りの戯言とばかりに全く相手されず、あげくの果てには変わり者扱いされてしまったと憤っていた。翌日ミス・マープルは州警察に顔見知りのスラック警部を訪ね、事の経緯を報告。ようやく警察が動いたものの、どこを探しても死体は見つからず、結局捜査は打ち切られてしまう。しかし「死体は必ずどこかにある」と確信するミス・マープル。友人の名誉のためにも自力で事件を調べようと動き始める。
主な登場人物
ミス・マープル(ジェーン・マープル)
- セント・メアリー・ミード村に住む推理好きのスーパーおばあちゃん。警察も一目置くほどの鋭い観察眼を持つ。
-
- ミス・マープルの友人。ミス・マープル宅へ遊びにくる途中、列車の中から殺人事件を目撃してしまう。
-
- フリーランスで活動する若きスーパー家政婦。エリート一家に育った才媛ながらあえて家政婦の道を選んだ変わり種で、完璧な仕事ぶりを武器に高報酬で仕事をする。ミス・マープルとは旧知の仲で、ミス・マープルに協力し遺体探しのためクラッケンソープ家に潜入する。好奇心旺盛。
クラッケンソープ一家および関連する人々
ルーサー・クラッケンソープ
-
- クラッケンソープ家の現在の当主。事業で成功した先代(父親)の遺した広大な屋敷「ラザフォード邸」に娘と二人で暮らしている。気難しく風変わりなじいさま。病気を抱えてる様子。
-
- クラッケンソープ家の長女。病気がちの父親の面倒を見ながらラザフォード邸で暮らしている。父親に似ず気立てが良く慎ましやかな女性。
- クラッケンソープ家の次男。画家。イギリスを離れ外国で暮している。女好き。
- クラッケンソープ家の三男。銀行家。別居中の妻がいる。
- クラッケンソープ家の四男。自称ディーラー。
- クラッケンソープ家の長男。フランスで戦死。
- クラッケンソープ家の次女。故人。
- エディスの夫で、元英国空軍の優秀なパイロット。妻亡きあと男手一つで息子を育てている。金髪の好男子。
- ブライアンとエディスの子供。人懐っこく素直な少年。
- アレクサンダーの友人。ぽっちゃり少年。
- クラッケンソープ家の主治医。エマと交際している模様。
- クラッケンソープ家の顧問弁護士。
- クラッケンソープ家に以前から仕えている、仕事ができない残念な家政婦。
- エドマンドの未亡人を名乗る正体不明の女性。家族の誰も会ったことがない。
警察関係者
スラック警部
- 州警察の警部。ミス・マープルとは以前にも他の事件で顔を合わせており密かな対抗心を燃やしている。いつも苦虫を噛み潰したような顔をしているがどこか憎めないところがある。
- ロンドン警視庁の警部。ミス・マープルとは旧知の仲で、その類まれな人間洞察力に絶大な信頼を寄せている。
- スラック警部の部下。
その他
アンナ・ストラヴィンスカ
- マルチスカ・バレエ団のフランス人ダンサー。
- マルチスカ・バレエ団の団長。
- マルチスカ・バレエ団のダンサー。アンナの友人。
- ミス・マープル宅のお手伝いさん
ひとくち感想
殺人あり、恋の三角関係あり(さりげなくじいさまも参戦で四角かも?)と盛りだくさんの一話です。ドクターXの家政婦版みたいなスゴ腕の女性が登場します。原作とは少し内容が異なるようですが、それなりに楽しめます。
細かいあらすじ
ネタバレ&長文
- 犯人が死体を列車から投げ落としたのではないかと考えたミス・マープルは、実際に同じ列車に乗ってみて、その場所が線路沿いに広がる大富豪クラッケンソープ家の豪邸、通称「ラザフォード邸」の敷地のどこかではないかと推理する。
- かといって、さすがに直接死体を探しにラザフォード邸を訪ねていくわけにもいかない。そこでミス・マープルはあるアイデアを思いつく。家政婦に死体を探してもらおうと考えたのだ。ミス・マープルはクラッケンソープ家になかなか使用人が居つかず、つねに求人を出していることを知っていた。ミス・マープルはさっそく知り合いの若きスゴ腕家政婦ルーシー・アイレスバロウに話をもちかけ、潜入役を引き受けてもらうことにする。
- なんなく求人を突破し、クラッケンソープ家の住み込み家政婦となったルーシーは、聡明な人柄とその完璧な仕事ぶりでさっそく一家の信頼を得る。クラッケンソープ家はその昔、製菓業で財を築いた地元の大富豪。大事業家だった先代はすでに他界し、現在は二代目のルーサーが家を継ぎ、長女のエマと二人で暮していた。屋敷には一家の主治医であるクインパー医師が、病気がちなルーサーの健康状態を管理するため頻繁に出入りしており、エマとは目下交際中の模様。ルーサーにはエマを含め六人の子供がおり、長男と次女はすでに死亡。次男、三男、四男はそれぞれ独立しているが、近く全員が実家に帰省してくるという。エマによると、祖父(先代)の遺言により、祖父の誕生日には必ず家族全員で集まって夕食会を開くことがきまりになっているのだそうだ。奇妙な遺言だが、それが相続の条件なのだとエマは言った
- 家族の夕食会を前に、親族が続々とラザフォード邸にやってくる。先ずはエマの義弟ブライアン・イーストリーが息子のアレクサンダーとその友人を連れて屋敷に到着。ブライアンはエマの亡くなった妹エディスの夫で、妻と死別後、男手ひとつで息子を育てているシングルファザー。ブライアンは初めて会ったルーシーに恋してしまう
- 仕事の合間に広大な敷地を調べまわったルーシーは、怪しげな美術品が無数に保管されている納屋の中で、ついに死体を発見する。時を同じくして屋敷には三男ハロルド、四男アルフレッドが到着。突然の事態に一家は騒然となる。
- ラザフォード邸に警察が入った。捜査の指揮をとるのは州警察のスラック警部。遺体はクインパー医師が確認した。クインパー医師はスラック警部との会話の中で、エマ以外のクラッケンソープ家の人々にはあまり良い感情を抱いていない様子を見せる。
- 「どこかの精神異常者のしわざだろう」と楽観的なアルフレッドに対し、銀行家のハロルドは「こんなことが世間に知れたら仕事に差し障る」と落ち着かない様子。そこにエマが「マルティーヌの手紙」の話を持ち出してしまったので「仮に親族が関与しているとなればなおさらだ」とさらに激しく憤る。マルティーヌは、フランスで戦死した長男エドマンドの妻を名乗る女性だが、家族の誰も彼女に会ったことがなく、長兄が結婚していたことすら誰も知らなかった。
- スラック警部の聴取を受けたルーシーは、クラッケンソープ家で働くことになった経緯を明かす。彼女の裏でミス・マープルが糸を引いていたことを知り、またまた一杯食わされた様子のスラック警部。
- 被害者は30代半ばの白人女性で、死因は絞殺。しかし家族の誰も被害者とは面識がなく、殺人の動機も全く不明。事件のとっかかりがつかめず捜査は難航する。一方、家には外国在住の画家である次男セドリックが他の兄弟たちに遅れて帰ってきた。見るからに遊び人風の彼はさっそく新しい家政婦のルーシーに目をつける。
- ルーシーが近況報告のためミス・マープルのもとを訪れた。ミス・マープルはルーシーの身を案じるが、ルーシーは、エマが心配なのでこのまま今の仕事を続けると言った。ミス・マープルは、先代の遺した奇妙な遺言がこの事件に関係しているのではないかと考える。
- 家族がそろい踏みしたラザフォード邸では様々な人間模様が展開する。セドリックは公然とルーシーを口説き始め、思わぬ手強い恋敵の登場にブライアンは気が気でない様子。父親の恋心に気づいたアレクサンダーは、ルーシーをこっそり自室に呼び自分の父親がいかにかっこいいか話して聞かせる。ブライアンは今でこそ不本意な仕事に甘んじているものの、元々は英国空軍のエリートパイロットだった。
- あまりに捜査が進まないため、ロンドンからダッカム警部が捜査の応援にやってきた。実はダッカム警部とミス・マープルは旧知の仲。ミス・マープルの卓越した才能を知るダッカム警部からの強い要望で、はからずもミス・マープルはアドバイザーとして捜査に協力することになる。
- クラッケンソープ家の人々についてより詳しいことがわかってきた。四男アルフレッドはロンドンで商売をしているが、どこか胡散臭く、仕事もうまくいっていない様子。三男ハロルドの銀行も破綻寸前で、私生活では妻と別居中。次男セドリックは事件当時イビサ島にいたため、おそらく事件とは無関係。エマとルーサーには特別気になる点は見当たらない。スラック警部は、クラッケンソープ家の人々を改めて調べなおすことにする。
- 被害女性の検死結果が出た。身体は筋肉質でランナーを思わせる体格。衣服などは基本フランス製のものを身に着けていたが、高価なものと安物が入り混じっていた。これらの特徴から、ミス・マープルは、被害者はけして無能なわけではないけれども収入が安定しない職業、つまり芸能関係のような仕事についていた人物で、くわえて運動選手並みに筋肉が発達していたことから、ダンサーだったのではないかと推理する。
- ルーシーがミス・マープルに電話。今夜がいよいよ例の誕生日の夕食会で、会には弁護士のアーサー・ウィンボーンも列席するという。アーサーもまたミス・マープルにとっては古い顔なじみ。 ミス・マープルはさっそくアーサーに会いに行く。
- 警察にマルチスカ・バレエ団という舞踊団に所属する、アンナ・ストラヴィンスカというフランス人ダンサーが行方不明になっているという情報が入ってくる。情報を受け、スラック警部はハロルドの事件当日の行動を調べるよう指示。しかしそのハロルドが早朝、狩りに出かけたきり行方不明になってしまう
- ミス・マープルが弁護士アーサーを訪ね、先代の遺した遺言について話を聞く。アーサーによると、ルーサーは家の全財産を怪しげな美術品の収集につぎこむようになり、先代はそのことをとても憂慮していた。そこで先代は息子の異常な浪費癖を阻止するため、遺言で財産に手をつけることを禁じ、自分の遺産はすべて孫たちに残すようにした。ただし、遺産を受け取るためには孫たちは年に一度必ず祖父の誕生日に集まって食事会を開かなければならず、遺言の執行人であるアーサーは、それが毎年実行されているかどうかを見届けるお目付け役を任されているということだった。実は遺言にはもう一つ秘密があって、さすがにそれは話すわけにいかないとアーサーは言ったが、その秘密を解くカギとして「トンチン」という謎のワードをミス・マープルに教えてくれた。
- エマがスラック警部にマルティーヌの手紙を提出し、フランスで戦死した兄エドマンドの妻を名乗る女性が、最近になって突然相続の権利を要求してきたことを明かした。手紙を警察に見せることは「家の恥だ」とハロルドに反対されていたという。エマは最初こそ財産目当ての詐欺師の仕業ではないかと思ったが、エドマンドが最後の手紙で現地で知り合った女性がいると伝えてきていたことを思い出し、情熱的だった兄なら、知らぬ間に妻子がいてもあり得ない話ではないと思い直したという。エマから一通りマルティーヌに関する話を聞いたスラック警部は、行方不明のアンナ・ストラヴィンスカがもしやマルティーヌなのではないかと考える。
- ダッカム警部がマルチスカ・バレエ団の公演先へ。遺体の女性はやはりアンナ・ストラヴィンスカだった。「年は食っていたけど真面目で良いダンサーだった」と団長はその死を悲しんだ。練習熱心だったが信心深いところがあり、日曜の練習だけは教会に行けなくなるという理由で嫌っていたという。さらにスラック警部がにらんだとおり、アンナ・ストラヴィンスカというのは芸名で、彼女の本当の名前は”マルティーヌ・イザベル・ペロウ”だったこと、イギリス人との結婚歴があったこと、そして、近くロンドンに移住し、夫の家族と一緒に住む予定だと親しい友人に打ち明けていたことなども判明する。
- 行方不明になっていたハロルドが、草地の中で足を動物用の罠にはさまれた状態でなくなっているのが発見された。警察は狩猟中の事故死の可能性が高いと判断する。一方、ダッカム警部は、アンナ・ストラヴィンスカことマルティーヌ・ペロウの下宿先へと急ぎ向かったが、部屋はすでに何者かに荒らされており、マルティーヌの身元を示すものは何も残っていなかった。
- ダッカム警部とスラック警部がミス・マープルに相談。警察は犯人はハロルドではないかと見ていた。ハロルドには動機があった。遺産の取り分を抵当に借金をしていた彼にとって、相続人が増えて一人頭の分配金が減ることは、貸主に虚偽申請したことになるため一大事なのだ。そこで慌てた彼は、今になって唐突に義姉を名乗って相続の権利を主張してきたマルティーヌを探し出し殺害。同時に兄の妻だという証拠も消し去った。しかし遺体が見つかってしまい、いずれ自分の犯行がバレると観念したハロルドは、自己の罪を清算するため自ら命を絶った。わざわざ事故死を装ったのは、別居中の妻に保険金を残そうとしたため(自殺では保険金がおりない)ではないか?と。しかしミス・マープルは、別居するほど不仲な妻に、わざわざそこまでして生命保険を残そうとするだろうかと疑問を呈す。このままでは第三の殺人が起きるかもしれないと危惧するミス・マープルは、弁護士のアーサーに会って「トンチン」が何か聞いてみるよう二人に助言する。
- ダッカム警部が弁護士のアーサーを訪問。「トンチン」は年金の方式で、受領者の一人が亡くなるとその権利が残りの人に移って各人の受取額が増えていくしくみ。極端にいえば、一人を残して全員が亡くなれば、残った一人が全額を受け取れるという、いわばバトルロイヤル的な方式。アーサーによると、クラッケンソープ氏の遺産相続にはこのトンチン方式に似た方法がとられているという。
- 恒例の夕食会が開かれた。しかし兄弟たちは互いに疑心暗鬼になり、終始会は不穏なムード。夕食後、セドリックと二人きりになったルーシーは、ついに彼の粗野でセクシーな魅力に陥落しそうになるが、すんでのところでブライアンに阻止される。ルーシーはブライアンが嫌いなわけではないようだが、彼のあまり男らしくない優柔不断な性格が気にかかる様子。
- ダッカム警部がミス・マープル宅を訪問。ミス・マープルは、マルティーヌの殺害は入念に計画された犯行。ハロルドが殺されたのは何かを知っているか、もしくは知っているように見えたからだろうと話す。警察はマルティーヌの身元について思うように調べが進まないことに頭を悩ませていた。ミス・マープルは、エドマンドの軍隊仲間を当たってみてはどうかと警部にアドバイスする。ミス・マープルは、自分はある女性を訪ねてみると言う。
- セドリックに腹をたてたブライアンの爆弾証言で、セドリックがイビサ島ではなくパリから帰国したことが発覚する。警察の追求にセドリックもその事実を認めた。ロンドン到着後、ホテルで人妻と密会していたため、都合が悪くだまっていたという。思わぬかたちでとんでもない浮気性がバレてしまったセドリックは、ショックを受けたルーシーにふられてしまう。(ルーシーはセドリックが本気で好きだった様子)
- エマがクインパー医師と婚約したことをアルフレッドに打ち明けた。かといって、今は父を一人にするわけにいかないので、いずれ時が来てから一緒になるつもりだという。一方、アルフレッドは自分が病魔に侵されていることを明かした。クインパーが見落とし、すでに手遅れの状態だという。予期せぬ兄の告白に動揺するエマを、アルフレッドは「医者だって間違うことはある」と明るく励まし、彼女の婚約を祝福する。
- スラック、ダッカム両警部とミス・マープルが再び情報交換。 ミス・マープルは、ハロルドの未亡人を訪ね、ハロルドが無類のバレエ好きだったことを知った。部屋にはマルチスカ・バレエ団のポスターもあったという。一方、エドマンドの昔の仲間をあたった警部たちは、エドマンドに妻らしき女性がいたことまでは突き止めたが、その女性についての詳細まではつかめなかった。スラック警部は、その女性こそが殺されたマルティーヌ・ペロウだと思いこんでいたが、ミス・マープルはそれを否定し「でもその通り、マルティーヌ・ペロウをエドマンドの妻だと周りに思いこませることが犯人のねらいだったの」と返す。「だから犯人はマルティーヌ・ペロウの本当の素性を誰にも知られるわけにはいかなかった。でもハロルドには知られてしまったと思い、彼を殺した」と。しかもミス・マープルは、すでにマルティーヌ・ペロウの素性も、犯人が誰なのかもおおよそ見当がついていて、後は証拠をつかむだけだと言った。ミス・マープルは、週末、ラザフォード邸で開かれるお茶会の席で全てをはっきりさせると話す。
- 週末、ラザフォード邸でお茶会が開かれた。会には警部たちの他、ミス・マープルたっての希望で、事件の目撃者であるマクギリカディ夫人も招待される。談笑中、フィッシュペーストのサンドイッチに舌鼓を打っていたミス・マープルは、誤って魚の骨をのどにつかえさせてしまい、喉の状態をクインパー医師に診てもらうことになる。明るい場所の方が良いと二人で窓辺に立ち、クインパーが、ミス・マープルの首に手を当て喉の中を覗き込んでいるところに、ちょうど手洗いに立って席を外していたマクギリカディ夫人が戻ってきた。そして窓辺の二人見て叫ぶ。「あの人だわ!列車の中の男よ!」と。犯人はクインパー医師だった。
事件のまとめ
犯人は、ジョン・クインパー医師
動機は、クラッケンソープ家の財産を我が物にするため
殺されたマルティーヌ・イザベル・ペロウは、クインパー医師の妻だった。(証拠としてミス・マープルが、クインパーに結婚証明書を突きつける)
彼はエマと結婚するためにマルティーヌと離婚しようとしたが、敬虔なカトリック教徒であるマルティーヌは、離婚に応じようとしなかった。なので、邪魔になったマルティーヌを殺害。
ハロルドにはマルティーヌのことを知られてしまったと思い、殺害した。(ハロルドは大のバレエ好き)
しかしハロルドだけでなく、クインパーの最終目的は、クラッケンソープ一家の全員を殺すこと。
そうすれば、先代の遺した奇妙な遺言のとおり、彼はクラッケンソープ家の莫大な遺産を独り占めすることができる。彼が、実は大した病気でもないのに必要以上にルーサーの健康状態を気づかっていたのは、いずれ病気にかこつけて殺すためのカモフラージュ。おそらくアルフレッドの病気のこともわざと見逃し、手遅れの状態になるまで放っておいたのだろう。
「マルティーヌの手紙」も、クインパーによる偽装。エドマンドとマルティーヌ・イザベル・ペロウは実際には全くの無関係。しかし、エマからエドマンドの戦時中のロマンスを聞かされていたクインパーは、万が一死体が発見されても家族に疑いがかかるよう、自分の妻と同じ名前の架空の人物を仕立て一芝居打った。
ルーシーたちのその後
何をするにも人の意見を聞いて行動するブライアンに不甲斐なさを感じていたルーシーは、銃を持った犯人相手に大立ち回りを演じ、犯人逮捕に一役買ったブライアンの勇ましい一面を見て、ようやく彼を男性として受け入れる気持ちが芽生える。しかしルーシーが実のところはまだ、ブライアンよりも危険な香りプンプンのセドリックの方に惹かれていることはミス・マープルにはお見通し。「でもこれからブライアンと結婚することで、彼を夫として教育しながら、彼を愛するようになっていくでしょう」とミス・マープルは、まだ新しい一歩を踏み出したばかりの若いカップルの背中をそっと見守る。
気の毒なのはエマ。本気で好きだった人に裏切られ落ち込むエマに、ミス・マープルは「あなたはここにいてはいけない」と、エマを実家から解放してあげようとする。そして「私はどうなる?」と駄々をこねるルーサーには「大丈夫。職業紹介所にいけばいくらでも若くて良いナースが見つかる」と言い「人に甘えてばかりいちゃダメ。幸い病気も大したことがなかったのだし、これからはお医者さまに禁じられていたことを何でもして、前向きに生きていきましょう」と優しく諭す。
事件解決に、人生のカウンセリングにと、今回も大活躍のミス・マープルでした。
おしまい
【このカテゴリーの最新記事】