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2006/06/14
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カテゴリ: 読んだ本(時代)
長くなりましたが,

森谷明子の「七姫幻想」(2006)

について, その1 その2 の続きです。

梶葉襲 (「朝顔」と同時期)
梶葉姫…七夕祭りのとき,七枚の梶の葉に詩歌などを書いて供え,芸能の向上や恋の思いが遂げられることなどを祈る風習があったことから織女の異称となった。

「朝顔」の娟子が年下の又従弟と人の禁じる恋に走った(「朝顔」(1052)の5年ほど後と思われる)翌年の話。

先帝は後朱雀天皇,新帝は後冷泉天皇で,「朝顔」と同じ。

生子(せいし,梅壺女御)…「朝顔」の娟子の父である後朱雀天皇の女御であり,娟子の母より1歳年下。彼女の立后をどうしても許さなかった意地悪な関白は頼通で,その弟で彼女の父は藤原教通。

瀧瀬…梅壺の女房。ミステリ部分に大きく関係するが,ここでは,もとの名が「稚葉(みづは)」であることがポイント。「里」から出て外で暮らしたいとの願望は「ささがに」の大后に通じるものがあるし,本人も「古き皇女の血筋」といっている。
里に伝わる「上流から流れてきた白絹」は,「秋去衣」も連想させる。上総が親しくしている少納言(「朝顔」と同一人物)が稚葉を見て「同じ一族の血をひく者か」という場面も出てきた。

止利彦(とりひこ)…稚葉と同じ里から出てきた少年。生子は彼が殺したと考えているが……

衣,雨のモチーフもあるが,「里」が都に干渉することがメインか?

百子淵
百子姫…なぜこれが織女の異称なのかはわからなかった。

時代の特定はできなかった。流れからいって,平安時代以降,江戸時代より前のいつか,ということになる。

場所は吉野地方の葛城川周辺。「不二原(ふじはら)」は「ささがに」の「藤原の地」に通じる。

これまで出てきた「里」の風習が語られるが,すでに伝説となっている鳥比古命(とりひこのみこと)は「梶葉」の止利彦から,祭の名である「水都刃(みづは)」は,彼が守れなかった稚葉にちなんで自分の娘につけた名前からきている。

ここでは「里」の滅びと,それにもかかわらず,「里が永続していくこと」が書かれていると思うのだが……。

隼太は里から出て行く人間の初めての「男」パターン。

糸織草子 (江戸時代,天明・寛政期)
糸織姫…文字通り織女。

志乃…京都奉行所妻。内職が機織。

百池…蕪村の実在の弟子であることまでしかわからなかったので,俳句でごまかすことにする(笑)
     花守は野守に劣る今日の月 蕪村
     西と見て日は入りにけり春の海 百池
「幻想」では,名前を「先祖のおりました土地にちなんだもの」といっているのと,その場所が吉野の奥ということから,「里」の出身である。
「百子渕」の隼太の子孫であるとしたら読みすぎだろうか?

勢多在直・和泉姫…三代前の帝(桃園天皇,1741~62)のご落胤。和泉姫は「里の血」をひいていそうな雰囲気だが,百池自身はそれに確信をもつことはなかったようだ。
吉野の地で,姫に安住いただけるゆかりの地を見つけることができなかったのも,白紙の束から姫の心の片鱗さえ窺うことができなかったのも,百池がすでに「里の人間」でなくなってしまったことを示しているような気がする。

機織,白糸による結界,糸織草子,兄と妹の悲恋などのモチーフが盛りだくさんだったが,「物語を綴る」というのが最も大きなモチーフのようだ。

ところで,ここで物語を綴っている女は,和泉姫なのか? それとも森谷明子なのか? 
そして,「一人はいる」物語を読む者とは,それを綴っている女なのか? それとも本を手にして今読んでいる,この自分なのか?

気になるところであるが,こういう終わり方って好きだなあ。

章末の歌
和歌,催馬楽,俳句が各章末に配されているが,順に

待つ女のもとに男がくる予感 → 女が男をあきらめる → 男が女を待つ → 女が男を呼ぶ → 天の川に祈る → ない道をつくる → 織姫が悲恋の行方を見守る

とうまく配置されていて,余韻を残している。

 読了本(日本)  (森谷明子)からごらんください。

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Last updated  2006/06/14 12:28:35 AM
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