森田理論学習のすすめ

森田理論学習のすすめ

2020.04.16
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​森田療法の専門家の中には、「人のために尽くす」ことを神経症の治療の一つとして患者に勧めている人がいる。これはNPO法人生活の発見会の中で、共通認識となっているわけではない。
それに関心を持たない人は、森田先生は「人のために尽くせ」という言葉を、理論的にきちんと説明されていないという。
森田先生が説明されていないことを、実践目標として掲げることは如何なものかといわれる。

一方では、以前の学習の要点の中に、「人のために尽くす」ことが堂々と記載されていた。
それで「人のために尽くす」ことは神経症の克服には大切なものだと考えている人もいるのである。そして既成の事実のごとく頻繁にこの言葉を使われている。
この矛盾をどのように考えればよいのか考えてみましょう。

いい悪いにかかわらず、人間はもともと自己中心的な生き物です。
生まれたときからその本来性に従って生きています。
その目的から外れた生き方は、かなりやっかいなことになります。
自分の命をいい加減に扱ってしまうようになる。
自分の命を粗末に扱っている。自分の命の性を尽くしていない人になります。
自分の本来性を押しのけてまで「他人のために尽くす」という考え方、生き方は、元々人間には備わっていないといっても過言ではない。

この前提に立つと、「人のために尽くす」ということは、付け焼刃的に自分を奮い立たせないとなかなか意欲的には取り組めないと思う。自分が心から願っていることではない。
それでもあえて、この言葉を持ちだすのは、神経症の克服に役立つと考えられているからだと思う。

それは、一つには神経症に陥ると、注意や意識が自分の症状ばかりに向いています。
「人のために尽くす」ことは全く眼中にはありません。
それは周りから見るとあまりにも自己中心的に見えます。
ここでいう自己中心的というのは、注意や意識が自分や症状に向いていることを言います。
この自己中心的な内向性を外向に転換させないと神経症は治りません。
その手段としては、第一に、症状は横に置いて、目の前のなすべきをなすことに取り組むのがよいのは分かっています。
さらに「人のために尽くす」を入れると、転換を早める効果が期待できると考えられたのではないか。このように考えて、神経症の治療の一環として「人のために尽くす」を提案されているのではないか。これは理屈で考えると「なるほど」と納得できます。

しかし元々そのように考えていない人にとっては、「人のために尽くす」ということが、他人から強要された「かくあるべし」になってしまいます。
そんなことを考えてもみなかった人に、それを押し付けると、症状を治すための手段として使うことになります。
症状を治すための実践や行動は、症状を治すのではなく、ますます症状を悪化させるといわれます。安易に「人のために尽くす」という言葉を標榜することは、症状を治すのではなく、症状を強めてしまうと考えるのが無難です。
それが「人のために尽くす」と書いて「偽」(にせもの)といわれる所以だと思います。
もっと拡大して考えれば、あえて意識して「人のために尽くす」という人は、何か魂胆があるのではないかとも受け取れます。

私は、「人のために尽くす」というのは目指すべきものではなく、結果としてそこに存在しているものだと考えています。
森田理論でいうところの「生の欲望の発揮」に邁進していたら、いつのまにか、世のため人のためになっていた。人から役に立ったと感謝されるようになった。

つまりことさら「人のために尽くす」というのではなく、日常茶飯事、課題や問題点、夢や希望に向かって行動しているうちに、気がついたら、 ​結果として​ 「人のために尽くしていた」と考えるのが無理のない妥当な考え方ではないのか。
最初から意気込んで「人のために尽くそう」としているのではないのです。
不安というブレーキを使いながら、「生の欲望」に一心不乱に取り組んでいたら、周りの人から評価され、感謝された。
つまり結果として人のために尽くしていたというのが実際のところです。

「人のために尽くす」というのを目標として掲げて意気込んでいると、それが「かくあるべし」になって、事実として人のためになっていないことがあります。
むしろ他人に多大な迷惑をかけているというケースが出てくるのではないか。
人に親切心でした行為が、 「小さな親切、大きなお世話」 と言って煙たがられることがあります。
それは相手が望んでいないのに、自己満足的なおせっかいの押し付け行為になっているのです。
ことさら意識していなくても、森田実践を積み重ねることで、結果として、人びとの役に立っていたという状態を作り上げてゆきたいものです。
無理のない自然体の森田実践によって、他人に生活の刺激や生きざまで、感動のおすそ分けを与えられるような人間になりたいものです。





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Last updated  2020.04.16 07:47:14
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森田生涯 @ Re[3]:強情と盲従の弊害について(02/27) ststさんへ 今の生活は日中のほとんどが…
stst@ Re[2]:強情と盲従の弊害について(02/27) 森田生涯様、返信アドバイスをしていただ…
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