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源氏物語〔2帖帚木 ははきぎ28〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語2帖帚木の研鑽」を公開してます。衝撃的な事で心の悲しみに沈んでいる女を源氏は尤もだと思った。真心から慰めの言葉を発して いる。鶏の声がし家従たちも起き出し、寝坊をしてしまい、早く車の用意をと、そんな命令も下すのが聞こえていた。紀伊守は女の家へ方違えに来た場合とは違い、早く帰る必要はないじゃないかと言っている。源氏はもうこんな機会が作り出せそうでない事と、今後どうやって文のやり取りをすればよいか、それが出来ない事で胸が痛んだ。行こうとしてる女を源氏は引き留めて、連絡の方法を聞いた。冷淡なあなたへの恨みも、恋も、一通りできなく、今夜の事をただ泣いて思っている。源氏は思えば思うほど余計に女が艶やかに見えた。何度も鶏が鳴き、つれなさを恨みもはてぬしののめにとりあへぬまで驚かすらん(あなたの薄情さをまだ恨み足りていない明け方に、どうして鶏までもが慌ただしく私を起こそうとするのでしょうか)慌ただしい心持ちで源氏はささやいた。女は己を省みると、不似合いという晴がましさを感じ源氏から熱情的に誘われても、嬉しい事とは思わない。私としては愛情の持てない伊予の国が思われて、こんな夢を見ていないかと恐ろしかった。空蝉は身の憂さを歎くにあかで明くる夜はとり重ねても音ぞ泣かれける(我が身の不孝を嘆いても嘆き尽くせないうちに夜が明けてしまい、鳥が鳴いて私はかさねて泣かずにはいられません)と言った。どんどん明るくなり、奥の方の人も起き出して来たので騒がしくなり、襖を閉めて元の席へ帰って行く源氏は、一重の襖が越えがたい隔ての関のように思われた。直衣(のうし)を着て、姿を整えた源氏が縁側の高欄に寄り掛かっているのが、隣室の縁低い衝立の上の方から覗いて、源氏の美の放つ光が身の中へ沁み通るように思う女房もいる。残月の頃で落ち着いた空の明かりが物を爽やかに照らし、趣のある夏の曙である。だれも知らぬ物思いを、心に抱いた源氏なので、とても身に染む夜明けの風景と思ったが、空蝉に言づてする便宜がないと思い顧みがちに去った。
2024.06.28
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源氏物語〔2帖帚木 ははきぎ27〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語2帖帚木の研鑽」を公開してます。源氏が女を座敷へ抱いて行き下ろし襖を閉めて、朝迎えにと中将が聞けばどう思うだろうと、女はそれを聞いただけで死ぬほど恥ずかしく苦痛にも感じた。流れる汗に悩ましそうな女に同情を覚えながら、女に対し誠実な調子で、女の心が動くはずだと思われるほど口説き文句を言っても、女は人間の道徳に許されていない恋に共鳴してこない。こんな無理を許す事が現実の事だろうとは思わず、女は卑しい私ですが、軽蔑してもよいというあなたのお心持ちを私は深く恨みます。私たちの階級とあなた様たちの階級は、遠く離れ別々のものでと言って、強さで自分を征服する男を憎いと思う様子は、源氏を十分に反省さす力があった。源氏は女性に階級のある事は何も知らない。はじめての経験なので、多情な男のように思われるのを恨めしく思い、あなたの耳にも入っている事でしょうが、無分別な恋の冒険をしたこともありません。それにもかかわらず前生の因縁は大きな力があって、私をあなたに近づけて、そしてあなたからこんなに辱められています。 あなたの立場になって考えれば考えられますが、そんなことをするまでに私はこの恋に盲目になっています。真面目になって色々と源氏は口説くが、女の冷ややかな態度は変わる事はない。女は一世風靡の美男であればあるほど、その人の恋人になって安んじている自分にはなれないと思っていた。 冷血的な女だと思われて病むのが望みで、きわめて弱い人が強さをつけているのは、なよ竹のようで、さすがに折る事はできない。誠に浅ましい事だと泣く様子が可憐であり、気の毒だがこのままで別れたら後々まで後悔が自分を苦しめると源氏は思った。勝手な考え方をしても救われない過失をしたと、女の悲しんでいるのを見て、何故そんなに私を憎く思うのですかと。お嬢さんのようにあなたの悲しむ姿が恨めしいと源氏が言うと、私の運命がまだ私を人妻にしない時、娘だった時に貴方の情熱で思われたなら、心の迷いでも希望が持てると思いますが、夫のいる今は何もかもだめで恋も何も要らないので昨夜の事はなかった事にと言う。
2024.06.27
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源氏物語〔2帖帚木 ははきぎ26〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語2帖帚木の研鑽」を公開してます。微かな灯の明りで衣服箱などが雑然と置いてあるのが見える。源氏はその中を両手で分けるように歩いて行った。女が一人寝ており、顔をおおった着物を源氏が手で除けたが、女は先ほど呼んだ女房の中将が来たのだと思っていた。あなたが中将を呼んでたから、思いが通じたのだと思ってと源氏の宰相中将は言いかけたが、女の顔に夜着がさわって源氏が触れても声にはならなかった。女にあなたは私が出来心のように思うでしょうと言い訳がましく話す、以前からあなたを思っていたので、こんな機会を待っていたのです。すべて前生の縁が導くのだと思って下さいと柔らかい調子である。神様でもこの人には寛大であらねばならぬと思われる美しさで近づいているのであるから、露骨に、知らぬ人がこんな所へと罵る事もできないし、女は情けない思いもあり、人違いをしているのではと、息よりも低い声で言った。困惑しきった様子が可憐でもあっ た。人違いをしてませんよ。恋する人の直観で貴女だと思って来たのに、知らぬ顔とはと源氏の声。好色家がするような失礼な事はしません。少しだけ貴女への気持ちを聞いて頂ければと言って、小柄な人なので片手で抱いて以前の襖子の所へ出て来ると、先ほど呼ば れていた中将らしい女房が向こうから来た。源氏が言葉を掛けたので、不思議がって探り寄って来る時に、香を薫き込めた源氏の衣服の香りが顔に漂って来た。中将は、これが誰であるか分かった。情けなくて、どう なる事かと心配でならないが、異論のはさみようがない。並みの男であったら出来るだけの抵抗もしてみる筈であるが、荒だてて多数の人に知らせる事は夫人の不名誉になり、人に知らせない方がよいだろうと、思いながら従ってきたが、源氏の中将はこの中将を無視し、初めの座敷へ抱いて行き女を下ろし襖を閉めて、夜明けにお迎えに来てと言い、この夜契られた。
2024.06.26
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源氏物語〔2帖帚木 ははきぎ25〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語2帖帚木の研鑽」を公開してます。似合わない母を持ったものだが、その人の事は陛下にも伝わっており、宮仕えに出したいと衛門府の長官が話していた。その娘はどうなったのだろうと言葉があり、人生は誰がどうなるか分からないと、熟練らしい口ぶりである。思いがけずにそうなってしまい、人というものは昔も今も意外なふうにも変わってゆくものだが、その中でも女の運命ほど儚いものはないと紀伊守は話した。後妻に入った空蝉の主人の伊予介は大事にするだろう。私生活の主君で、好色すぎると私はじめ兄弟は不愉快に思っており、今風の格好をした男の伊予介には譲ってくれないだろう。皆下屋の方へやってしまったのですが一部分だけは残っているやもと紀伊守は言った。深く酔った家従たちは皆、夏の夜を板敷で仮寝したが、源氏は眠れないでいる。空蝉は一人寝ていると思うと目が覚めがちで、この部屋の北側の襖子の向こうに人がいるような音のする所は紀伊守の話した女の部屋だろうと源氏は思った。可哀そうな女だとその時から思っていたから、静かに起きて行って襖子越しに物声を聞き出そうとした。弟の声で、どこにいるのと少し涸れてるがきれいな声である。空蝉は私はここで寝んでいるの。お客様はお寝みになったの。ここと近くてどんなに困るかと思 っていたけれど、まあ安心したと、寝床から言う声もよく似ているので姉弟である事が分かった。廂の部屋で寝みになり、評判のお顔も見て、本当に美しい方だったと一段と声を低くした。昼だったら私も覗くと眠そうに言い、布団に潜り込んだようで、もう少し真剣に聞けばよかったと源氏は物足りない様子だ。私は縁の近くの方へ行って寝ますが暗いなどと言い、子供は燈心を掻き立てたりするもので、空蝉は襖の所から斜いに当たる辺りで寝ているようだ。中将は何処へ行ったの。今夜は誰かが傍にいてくれないと何だか心細い気がすると、低い下の部屋の方から、女房が、あの方ちょうどお湯に入り、すぐ参ると言っていた。源氏はその女房たちも皆寝静まった頃に、掛鉄を外して引いてみると向こう側には掛鉄がないのか、襖はさっと開き、その際には几帳が立ててあった。
2024.06.25
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源氏物語〔2帖帚木 ははきぎ24〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語2帖帚木の研鑽」を公開してます。部屋で着物が擦れ合う音が聞こえ声をひそめて話をしている。わざとらしく思えたが、悪い感じもしなかった。初めその前の縁の格子が上げられたままで、不用意だと言い紀伊守が叱り、今は全ての戸が下ろされていて、その部屋の襖の隙間から灯が零れていた。源氏は静かにその方へ寄って行き、中が見えないかと思ったが、それほどの隙間ではない。しばらく立ったまま聞いていると、襖の向こう側に集まって話している賑やかな話し声は、 源氏の事を話題にしているように聞こえた。その話の内容は、真面目な方で早く奥方を持ち、寂しい想いで隠れてお通いになる所があると聞こえ源氏はハッとする。源氏は自分が紡ぎ出すあってはならない恋を他人が知って、我に返った。しかし、話は取り立てて言う程の事はなく全ての話を聞こうとするほどの興味は起こらなかった。式部卿の宮の姫君に朝顔を贈った時の歌を、だれかが得意そうに語ってもいた。行儀がなくて、会話の中に節をつけて歌を入れたがる人たちだが、中の品が面白いといっても自分には我慢のできぬ事もあるだろうと源氏は思った。紀伊守が出て来て、灯籠の数を増やさせたり、座敷の灯を明るくしてから、主人に遠慮をして菓子だけを献じた。紀伊守は縁側でかしこまっていた。源氏は縁に近い寝床で、仮寝のように横になっていた。 随行者たちも寝たようであり、紀伊守は愛らしい子供を幾人も持っていた。御所の貴人の傍に仕える少年を勤めて源氏の知った顔もある。縁側などを往来する中には伊予守の子もいた。何人かの中に特別に上品な十二、三の子もいる。どの子が兄で、どの子が弟かと源氏は尋ねていた。前を通った子は、亡くなった衛門府長官の末の息子で、可愛がられていたが、小さい頃に父親と別れて、姉の縁で私の家におり、また将来のために御所の侍童を勤めさせたかったが、姉だけでは望みは叶わなかったと紀伊守が説明し、あの子の姉が君の継母だと言い、似合わない母を持ったものだと話した。
2024.06.24
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源氏物語〔2帖帚木 ははきぎ23〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語2帖帚木の研鑽」を公開してます。和歌山管轄の同輩のいる所へ行って、父の愛媛の伊予守の長官の家にこの頃障りがあり、家族たちが私の家へ移って来ているので、元々狭い家なので失礼がないか心配ですと、迷惑げに言った事がまた源氏の耳に入り、そんなふうに人が沢山いる家がうれしいし、女の人の居所がないような所は夜が怖い。伊予守の家族のいる部屋の几帳の後ろでいいと、冗談混じりに言った。よい泊まり所になればと言って、紀伊守は召使を家へ走らせた。源氏は忍び歩きで移りたかったので、大臣へも告げず、親しい家従だけを連れて行った。あまりに急だと言って紀伊守が愚痴をこぼすのを他の家従たちは源氏の耳に入れないで、寝殿の東向きの座敷を掃除させて主人へ提供させ、宿泊の仕度ができた。庭に通した水の流れが地方官級の家としては凝った住宅の造りである。わざと田舎の家らしい柴を束ねて文様化した柴垣が作ってあったりして、庭の植え込みなどもよく出来ていた。涼しい風が吹き、どこからともなく虫が鳴き、蛍が沢山飛んでいた。源氏の従者たちは寝殿造りに用いられていた屋根付きの廊下の渡殿の下を潜り出て来る水の流れに臨んで酒を飲んでいた。紀伊守が主人をより良くもてなすために奔走している時、一人でいた源氏は、家の中をながめて、前夜の人たちが階級を三つに分けたその中の品の列にはいる家であろうと思い、その話を思い出した。思い上がった娘だという評判の伊予守の娘、すなわち紀伊守の妹であったから、源氏は初めから興味を持っていて、どの辺の座敷にいるのかと物音に耳を立てていると、この座敷の西に続いた部屋で着物が擦れ合う音が聞こえ、若々しい艶やかな声で、声をひそめて話をしている。
2024.06.23
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源氏物語〔2帖帚木 ははきぎ22〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語2帖帚木の研鑽」を公開してます。藤壼の宮は足りない点もなく、才気が見えすぎる方でもない立派な貴女であると頷きながらも、その人を思うと例の通りに胸が苦しみでいっぱいになる。何れが良いのか決められず、遂には筋の立たぬものとなって朝まで話し続けた。やっと今日になり天気が戻った。光源氏は宮中にばかりいる事も左大臣家の人が気の毒に思えそこへ行った。一糸の乱れず整然としている家なので、真面目という事を最優先の条件にしており、昨夜の談話者たちには気に入ると源氏は思いながら、今も初めどおりに行儀を崩さないでいる。打ち解けぬ夫人であるのを物足らず思い、 中納言の君、中務という若い女房たちと冗談を言いながら、暑さのため部屋着だけになっている源氏を、その人たちは美しいと思い、こうした接触が得られる中に幸福を感じていた。大臣も娘のいる方へ来て、部屋着になっているのを知り、几帳を隔てた席に着き話そうとするのを、暑いと源氏が顔をしかめていると女房たちは笑った。静かにと言い、脇息(きょうそく)に寄りかかった様子にも品のよさが見えた。暗くなってきた頃、今夜は中神の通り路になっており、御所から直接ここへ来て寝んではなりませんと、源氏の家従たちの知らせがあった。中神は避ける風習になっているが、二条院も同じ方角なのだが、源氏はもう疲れていて寝てしまいたいのに、どこへ行ってよいか分からないと言いながら、寝室へ入った。このままにされてはと家従が言って来る。家従の一人の紀伊守である男の家の事が上申され、中川辺へ新築して、水を庭へ引き込み、ここならば涼しいと言うと、それは良いと言い、暑さで体が辛いので車のまま入れる所にしたいと源氏は言っていた。隠れた恋人の家は幾つもあるはずだが、久しぶりに帰ってきて、方角除けに他の女の所へ行っては、済まぬと思っているようだ。紀伊守を呼び出して泊まりに行くことを言うと、紀伊守は承知をした。
2024.06.22
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源氏物語〔2帖帚木 ははきぎ21〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語2帖帚木の研鑽」を公開してます。男でも女でも、生かじりの者はわずかな知識を残らず人に見せようとするから困る。三史五経(史記、漢書、後漢書の三史と易経、詩経、書経、礼記、春秋の五経)の学問を始終引き出されてはたまない。女も人間である以上、社会百般の事についてまったくの無知識なものはない。わざわざ学問はしなくても、 少し才のある人なら、耳から目から色々な事は覚えられる。自然男の知識に近い所へまで進んでいる女はつい漢字を沢山書くことになり、女同士で書く手 紙にも半分以上漢宇が混じっているのを見ると嫌な事で、あの人にこの欠点がなければと思う。書いた当人はそれほどの気で書いたのではなくても、読む時に音が強くて、 言葉の舌ざわりがなめらかでなく嫌味になるものです。これは貴婦人もするまちがった趣味で す。歌詠みだといわれている人が、あまりに歌にとらわれて、むずかしい故事なんかを歌の中 へ入れておいて、そんな相手になっている暇のない時などに詠みかけてよこされるのはいやに なってしまうことです、返歌をせねば礼儀でなし、またようしないでいては恥だし困ってしま いますね。宮中の節会の日なんぞ、急いで家を出る時は歌も何もあったものではない。そんな時に菖蒲に寄せた歌が贈られ、九月の菊の宴に作詩の事を思い一所懸命になっている時に菊の歌。こんな思い遣りのない事をしないでも場合さえよければ、真価を買ってもらえる歌を、今贈っては目にも留めてくれない。その人が軽蔑されるようになり、何にでも時と場合があるのに、それに気がつかないほどの人間は風流ぶらないのが無難だ。知っている事でも知らぬ顔をして、言いたい事があっても機会を外して、そのあとで言えばよいだろうと思う。こんな事がまた左馬頭により言わる間にも、源氏は心の中でただ一人の恋しい方の事を思い続けていた。
2024.06.21
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源氏物語〔2帖帚木 ははきぎ20〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語2帖帚木の研鑽」を公開してます。反対に歯がゆいような女でも、気にいるならばそれでいいし、前生の縁というものもあるから、男から言えばあるがままの女でいいと思う。これで式部丞が口をつぐもうとしたのを見て、頭中将は今の話の続きをさせようと、とてもおもしろい女じゃないかと言うと、その気持ちが分かっていながら式部丞は、自身をばかにしたように話す。その女の所へ長い間行かないでいたころに、その近辺に用のついでに立ち寄ると、平生の居間の中へは入れない。物越しに席を作って座らせ、嫌味を言おうと思っているのかと思ったが、賢女なので軽々しく嫉妬などしない。人情にもよく通じ恨んだりもせず高い声で、この数カ月以来、重い風邪に堪えかね高熱のためニンニクの草薬を煎じ服し、それで薬草臭いのでお目にかかれません。何か急な用があれば承りますと尤もらしく言ので、ばかばかしくて、私はただ承知しましたと言い帰ろうとしたが、この臭いが無くなる頃に、立ち寄って下さいと大きな声で言うので、返辞をせず帰るのは気の毒だが、のんびりもしておれない。なぜならばニンニク薬草の臭いが漂い、逃げて出る方角を見渡しながら、クモが巣を張れば愛しい人が訪れると言い、クモの動きで私が来るのが分かると言い伝わる。夕暮れ時にニンニク臭が消えるので明日の昼間過ぎるまで待てとは、おかしな話と思いながら言い終わらないうちに走って来ると、人を追いかけさせて返歌をくれた。毎晩逢っている夫婦であれば、ニンニクの臭さ漂う昼間に会う事でも何も恥ずかしがる事はないが、あなたは中々訪れてくれないものだからと式部丞の話は終わった。貴公子たちはあきれて、うそだろうと言い、一体どこの女だ爪弾きをして見せ式部丞をいじめた。もう少しよい話をしろよと言うと、これ以上珍しい話があるものですかと式部丞は退って行った。
2024.06.20
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源氏物語〔2帖帚木 ははきぎ19〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語2帖帚木の研鑽」を公開してます。男に永久性の愛を求めない態度に出ると完全な妻になれない。左馬頭の話の嫉妬深い女も、思い出としてはよいが、今暮らす妻なら堪らなく、嫌になってしまう。琴の上手な才女というのも浮気の罪がある。私の女も本心の見せられない点に欠陥がある。どれがいちばん良いとも言えない事は、人生そのものです。何人かの女から良いところを取り、悪いところは省いたような、そんな女はどこにもいない。鬼子母神の娘で、毘沙門天の妻吉祥天女を恋人にしようと思うと、仏法臭く困ると中将が言ったので皆笑った。式部の所にはおもしろい話があるだろう、少しずつでも聞きたいものだと中将が言い出す。私どもは下の下の階級で、面白い事はないと式部丞は話を断っていたが、頭中将が本気になり、早くと話を責め立てるので、どんな話をしたら良いか考えたが、まだ文章生時代のことで、私はある賢女の良人になり、左馬頭の話のように、役所の仕事の相談相手にもなり、私の処世の方法なんかについても役だつ事を教えてくれた。学問は博士は恥ずかしいほどで学問の事では、前で口が利けなかった。ある博士の家へ弟子になり通っていた時に、娘が多くいる事を聞いていたので、機会をとらえて接近してしまった。親の博士が二人の関係を知るとすぐに杯を持ち出し、白楽天の結婚の詩を歌ってくれたが、実は私は気が進まなかった。 ただ博士への遠慮でその関係はつながっていた。先方では私を気に入り、よく世話をして、夜分寝ている時にも、学問のつくような話をしたり、官吏としての心得方を言ってくれた。手紙は皆きれいな漢文で、仮名なんか一字も混じってない。良い文章を送ってくるので別れ難く、今でも師匠の恩をその女に感じるが、そんな細君を持つのは、学の浅い人間や、間違いだらけの生活をしている者には堪らない事だとその当時思っていた。また二人のような優れた貴公子方には必要はないだろう。
2024.06.19
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源氏物語〔2帖帚木 ははきぎ18〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語2帖帚木の研鑽」を公開してます。久しく訪ねて行かなかった時分に、ひどい事を私の妻の家の方へ出入りする女の知人を介して言わせた。私はあとで聞いた事だが、そんなかわいそうな事があったとも知らず、心の中では忘れないでいながら手紙も書かず、長く行きもしないでいると、女はずいぶん心細がり、私との間に小さな子供もあり、煩悶した結果、撫子の花を使いに持たせたところ、中将は涙ぐんでいた。どんな手紙を書いたのかと源氏が聞いたところ、なに、平凡なものですよ。山がつの垣は荒るともをりをりに哀れはかけよ撫子の露と送った。私はそれで行く気になり行って見た。穏やかなものなんですが、少し物思いにふける顔をして、秋の荒れた庭をながめながら、虫の声と同じような力のない様子で見ているのは、小説のようで、咲きまじる花は何れとわかねどもなほ常夏にしくものぞなきと、子供の事は言わずに、母親の機嫌を取った。打ち払ふ袖も露けき常夏に嵐吹き添ふ秋も来にけりと、こんな歌をはかなそうに言って、正面から私を恨む素振りもない。うっかり涙を零しても恥ずかしそうに誤魔化してしまう。恨めしい理由をみずから追究して考えていくことが苦痛らしく、私は安心して帰って来てしまい、 またしばらく途絶えているうちに消えたようにいなくなってしまった。まだ生きていれば相当、苦労をしているだろう。私も愛していたから、私をしっかり離さずにつかんでいてくれたなら、そうしたみじめな目に逢いはしなかった。長く途絶えて行く事もせず、妻の一人として待遇のしようもあった。撫子の花と母親の言った子もかわいい子なので、何とか捜し出したいと思っていたが、今だに手がかりがない。素知らぬ顔をして、心で恨めしく思っていた事も気付かず、私は愛していたが一種の片思いと言える。もう今は忘れかけているが、あちらではまだ忘れられずに、今でも時々は辛い悲しい思いをしているのだろう。
2024.06.18
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源氏物語〔2帖帚木 ははきぎ17〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語2帖帚木の研鑽」を公開してます。菊を折って、琴の音も菊もえならぬ宿ながらつれなき人を引きやとめけると言って、よい聞き手が来られた時にもっと弾いて聞かせて上げなさいと、嫌味なことを言うと、女は、木枯らしに吹きあはすめる笛の音を引きとどむべき言の葉ぞなきと言ってふざけ合っている。私がのぞいているのも知らないで、今度は十三絃を派手に弾き出した。才女でないがキザな気がした。遊び半分の恋愛をしてい る時は、宮中の女房たちと交際していたが、時々、愛人として通って行く女ではおもしろくないと思い、その晩のことを口実にして別れた。二人の女を比べると、若い時でもあとの上品な女は信頼が出来ないと感じた。私は年配になっており、今後はまた今まで以上に実質がともわずうわべばかりは嫌になる。男に裏切られた女のわびしさや、落ちそうな笹の上の霰のような艶やかな恋人がいいように思うでしょうが、私の年齢まで、あと七年もすれば分かりますよ、私があえて言うと、風流好みな多情な女には気をおつけなさい。三角関係を発見した時に良人の嫉妬で問題を起こしたりする。左馬頭は二人の貴公子に忠言を呈した。中将はうなずき、少しほほえんだ源氏も左馬頭の言葉に真理がありそうだと思う。あるいは二つともばかばかしい話であると笑っていたのかもしれない。私もばか者の話を一つしようと中将は前置きをして語り出した。私がひそかに情人にした女は、見捨てずに置かれる程度のもので、長い関係になろうとも思わぬ人だったが、馴れていくとよい所が見つかり心惹かれていった。たまにしか行かないけど、女も私を信頼するようになった。愛しておれば恨めしさの起こるこちらの態度だがと、気のとがめることがあっても、その女は何も言わないでいる。久しく間を置いて逢っても始終来る人といるようにするので、気の毒で、私も将来のことでいろんな約束をした。父親もない人だったから、私だけに頼らなければと思っている様子が何かの場合に見えて可憐な女だった。
2024.06.17
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源氏物語〔2帖帚木 ははきぎ16〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語2帖帚木の研鑽」を公開してます。近衛の中将は指をかんだ女をほめちぎった。その時分にまたもう一人の情人があり、身分もそれは少しよいし、才女らしく歌を詠んだり、達者に手紙を書いたり、音楽のほうも相当なものだったようで、感じの悪い容貌でもなかったので、やきもち焼きの方を世話女房にしておき、そこへおりおり通って行ったころにはおもしろい相手だった。あの女が亡くなったあとでは、今さら惜しんでも死んだものは仕方がなく、度々もう一人の女の所へ行くようになり、風流女を主張している点が気に入らなく、一生の妻にしてもよいという気は無くなった。(昨日朝は慌ただしくロウソクを家に忘れてしまった)あまり通わなくなったころに、また他の恋愛の相手ができたようで、十一月ごろのよい月の晩に、御所から帰ろうとすると、ある殿上役人が来て私の車へいっしょに乗り、その晩は父の大納言の家へ行って泊まろうと思っていた。途中でその人が、今夜私を待っている女があり、そこへ寄ってやらないでは気が済まないと言う。女の家は道筋にあり、壊れた土塀から池が見え、庭に月の光りが射しているのを見ると、私も寄ってもいいという気になり、その男の降りた所で私も降りた。だが、その男が入るのは私の行こうとしている家だった。初めから今日の約束があったのだろう。男は夢中で門から近い廊の室の縁側に腰を掛けて、気どったふうに月を見上げている。それは実際白菊が紫をぼかした庭へ、風で紅葉がたくさん降っているから、身にしむように思うのも無理はない。男は懐中から笛を出して吹きながら合い間に、飛鳥井に宿りはすべし蔭もよしと歌うと、中では和琴をきれいに弾いて合わせる。律の調子は女の柔らかに弾くのが御簾の中から聞こえ、華やかな気がして、明るい月夜に合っている。男はおもしろがり、琴を弾いている前へ行き、紅葉の積もり方を見るとだれもおいでになった様子はなく、あなたの恋人は中々冷淡なようと皮肉なことを言っていた。
2024.06.16
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源氏物語〔2帖帚木 ははきぎ15〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語2帖帚木の研鑽」を公開してます。暗い炉を壁のほうに向げて据え、暖かそうな柔らかい綿が沢山入った着物を、乾かす竹のかごに掛けて、寝室へ入る時に上げる几帳の布も上げて、こんな夜にはきっと来るだろうと待っていた様子が見え、そう思っていたのだと私は得意になったが、妻自身はいない。何人かの女房だけが留守をしていて、父親の家へちょうどこの晩移って行ったという。艶な歌も詠んでおらず、気のきいた言葉も残さずに、じみにすっと行ったので、つまらない気がして、やかましく嫉妬をしたのも私にきらわれるためだったと、むしゃくしゃするので、とんでもないことまで忖度した。しかし考えてみると用意してあった着物なども普通よりよくできてるし、その点では実にありがたい。別れた後のことまで考えて話した。彼女は別れるものか慢心を抱き、それからは手紙で交際を姶めたが、私の元へ戻る気がうかがえるし、全く知れない所に隠れる素振りもないし、反抗的な態度を取ろうともせず、前のような態度では我慢ができない、すっかり生活の態度を変えて、一夫一婦の道を取ろうと言っている。暫らく懲らしめてやる気で、一婦主義になるとも言わず、話を長引かせていたら、精神的に苦しんで死んでしまったので、責められて当然である。家の妻というものは、あれほどの者でなければならないと今でもその女が思い出される。風流ごとにも、まじめな間題に話し相手にすることができた。また家庭の仕事はどんなことにも通じており、染め物の立田姫(日本の秋の女神)にもなれたし、七夕の織姫にもなれたと語った左馬頭は、いかにも亡き妻が恋しそうであった。技術上の織姫でなく、永久の夫婦の道を行っている七夕姫だったらよかった。立田姫もわれわれには必要な神様で、男に良くない服装をさせておく細君はだめで、そんな人が早く死ぬんだから、いよいよ良妻は得がたいということになる。
2024.06.15
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源氏物語〔2帖帚木 ははきぎ14〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語2帖帚木の研鑽」を公開してます。将来まで夫婦でありたいなら、少々辛いことがあっても耐え忍んで、気にかけないようにして、嫉妬の少ない女になったら、私はまたどんなにあなたを愛するかしれない、人並みに出世してひとかどの官吏になる時分には立派な私の正夫人でありうるわけだと利己的な主張をした。女は少し笑いながら、そのうち出世もできるだろうと待ち遠しいことであっても、私は苦痛とも思わなかった。あなたの多情さを辛抱して、良人になるのを待つことは堪えられないことだと思った。別れる時になり色々な事を言い憤慨させ、女も自制が出来ない程、私の手を引き寄せて一本の指に噛みつき 、私は痛みに耐えられず、痛い痛いと声をあげた。こんな傷もつけられては私は杜会へ出られない。侮辱された子役人は人並みに上がってゆくことはできない。私は坊主にでもなることにするだろうと脅して、指を痛そうに曲げて、いよいよ別れだと言い家を出た。「手を折りて相見しことを数ふればこれ一つやは君がうきふし」言いぶんはないと言うと、さすがに泣き出し、「うき節を心一つに数へきてこや君が手を別るべきをり」反抗的に言ったりもした。本心では我々の関係が解消されるものでないことをよく承知しながら、幾日も手紙一つやらずに私は勝手な生活をしていた。賀茂神社・石清水八幡宮の臨時の祭りに行う舞楽を、楽所で予行練習するが、霙が降る夜で、皆が退散する時に、自分の帰って行く家庭というものを考えるとその女の所よりないと思いなおす。御所の宿直室で寝るのも惨めだし、また恋を風流遊戯にしている局の女房を訪ねて行くことも寒いことだろうと思わ れ、様子も見がてらに雪の中を、少しきまりが悪いが、こんな晩に行ってやる志で女の恨みは消えてしまうと思いながら、入って行く。
2024.06.14
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源氏物語〔2帖帚木 ははきぎ13〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語2帖帚木の研鑽」を公開してます。昔、まだ重要な役をしてないとき、一人の愛人があったが、容貌は良くない女だったので、若い浮気な心には、この人とだけで一生を暮らそうとは思わず、妻とは思っていたが物足りなく外に愛人を持っていたが、とても嫉妬するので、何ともいやな思いで、穏やかに見ていてくれればよいのにと思いながらも、あまりにやかましく言われ、自分のような者をどうしてそんなにまで思うのだろうとあわれむような気になる時もあり、自然に身持ちが修まるようだった。この女性というのは、自身にできぬものでも、この人のためならばと努力してかかり、教養の足りないところも自身で努力し補い、恥のないようにと心がけて、行き届いた世話をしてくれて、私の機嫌を損ねないよう心を尽くし表面に出さなくなり、私だけには柔順な女になって、醜い容貌なんぞも私にきらわれまいとして化粧に骨を折って、この顔で他人に逢っては、良人の不名誉になると思っては、遠慮して来客にも近づかなくなり、とにかく賢い妻になり、同棲するうちに、彼女の利巧さに彼の心は引かれて。ただ一つ嫉妬癖、それだけは彼女自身どうすることもできない厄介なもので、みじめなほど私に参っている女なんだから、二度と嫉妬をしないように懲らしめる仕打ちに出ておどして嫉妬を改めさせよう、もうその嫉妬ぶりに堪えられない、いやでならないという態度に出たら、これほど自分を愛している女なら、うまく成功するだろうと、そんな気で、ある時にわざと冷酷に出して、女がおこり嫉妬し出す時、あさましい事を言うなら、どんな深い縁で結ばれた夫婦の中でも、この関係を破壊してよいのなら、今のような推量でも何でもするがいいと言ってやった。
2024.06.13
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源氏物語〔2帖帚木 ははきぎ12〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語2帖帚木の研鑽」を公開してます。決まった形式を必要としないものは、しゃれた形をこしらえたものなどに、これはおもしろいと思わせられて、いろいろなものが、次から次へ新しい物がいいように思われるが、ほんとうにそれがなければならない道具というような物を上手にこしらえ上げるのは名人でなければできない。また絵所に幾人も画家がいるが、席上の絵の描き手に選ばれ大勢出る時は、どれが良いのか悪いのか分からないが、非写実的な蓬莱山や荒海の大魚や、唐にしかいない恐ろしい獣の形などを描く人は、勝手ほうだいに誇張したもので人を驚かせて、それは実際にほど遠くても通る。普通の山の姿や水の流れとか、自分たちが日常見ている美しい家や何かの図を写生的におもしろく混ぜて描き、我々の近くにある高くない山を描き、木をたくさん描き、静寂な趣を出したり、あ るいは人の住む邸の中を忠実に描くような時に上手と下手の差がよくわかるものだ。字でもそうである。深味がなく、あちこちの線を長く引いたりするのに技巧を用いたものは、ちょっと見がおもしろいようでも、それと比べてまじめに丁寧に書いた字で見栄えのせぬものも、二度目によく比べて見れば技巧だけで書いた字よりもよく見えるものだ。ちょっとしたことでもそうである、まして人間の問題なので、技巧でおもしろく思わせるような人には永久の愛が持てないと決めている。好色がましい多情な男に思われるかもしれませんが、 以前のことを少しお話ししましょうと言って、左馬頭は膝を進めるが、源氏も目をさまして聞いていた。中将は左馬頭の見方を尊重すると見せて、頬杖をついて正面から相手を見ていた。坊様が過去未来の道理を説法する席のようで、おかしくないこともないのであるが、この機会に各自の恋の秘密を、持ち出されることになった。
2024.06.12
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源氏物語〔2帖帚木 ははきぎ11〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語2帖帚木の研鑽」を公開してます。悪くても良くてもいっしょにいて、どんな時も許し合って暮らすのがほんとうの夫婦で しょう。一度そんなことがあったあとでは真実の夫婦愛がかえってこないもの。また男の愛がほんとうにさめている場合に家出をしたりすることは愚か。恋はなくなっていても妻であるからと思っていっしょにいてくれた男から、これを機会に離縁を断行されることにもなる。なんでも穏やかに見て、男にほかの恋人ができた時にも、全然知らぬ顔はせずに感情を傷つけない程度の怨みを見せれば、それでまた愛を取り返すことにもなるもの。浮気な習慣は妻次第でなおっていくもので、あまり男に自由を与えすぎる女も、男にとっては気楽で、その細君の心がけがかわいく思われそうであるが、だが、ほんとうは感心のできない妻の態度だ。つながれない船は浮き歩くということになると言うと、中将はうなずく。現在の恋人で、深い愛着を覚えていながらその女の愛に信用が持てないということはよくない。自身の愛さえ深ければ女のあやふやな心持ちも直して見せることができるはずだ。方法はほかになく、長い心で見ていくだけかもと頭中将は言って、自分の妹と源氏の中はこれに当たっているはずだと思うのに、源氏が目を閉じたままで何も言わぬのを、物足らずも口惜しくも思った。左馬頭は女の品定めの審判者であるというような得意な顔をしていた。中将は左馬頭にもっと語らせたい心があってしき りに相槌を打っている。ほかのことに当てはめるならば。指物師がいろいろな製作をしても、一時的な飾り物でしかない。
2024.06.11
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源氏物語〔2帖帚木 ははきぎ10〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語2帖帚木の研鑽」を公開してます。子供の時に女房などが物語を読んでいるのを聞いて、物語の女主人公に同情した立派な態度だと涙までも零したもので、今思うとそんな女のやり方は考えが浅く、調子にのり行動する様子は、実にわざとらしい。自分を愛していた男を捨てておいて、その際にちょっとした恨めしい事があっても、男の愛を信じないように家を出たりして、無用の心配をかけて、そうして男をためそうとしているうちに取り返しのつかない困った事態に至るし、嫌なことだ。りっぱな態度だと誉めたてられると、図に乗ってどうかすると尼にもなる。その時は爽やかでない未練は持たずに、すっかり恋愛を清算した気でいるが、 何とも悲しい、こんなにまであきらめてしまいになってと、知った人が訪問して言い、心の底から憎くは思っていない男が、それを聞いて泣いたという話が聞こえてくると、召使いや古い女房などが、殿様はあんなにあなた思っているのに、若い体を尼にしてしまいになり惜しいと言う。このような事を言われる時、髪を短くして後ろ梳きにしてしまった前髪に手が行って、心細い気になると自然に物思いをするようになる。忍んでもう一度涙を流せばあとは始終泣く事になる。弟子になった上でこんな事では仏様も末練を憎み、一般庶民であった時よりも罪は深く、地獄へも落ちるように思われる。また夫婦の縁が切れずに、尼にはならず、良人に連れ戻されて来ても、 自分を捨て家出をした妻である事を良人に忘れてもらう事は難しい。
2024.06.10
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源氏物語〔2帖帚木 ははきぎ9〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語2帖帚木の研鑽」を公開してます。横を向いて一人で思い出し笑みを浮べたり、かわいそうなものだなどと独言を言うようになった。そんな時に何なんですかと突っ慳貧(つっけんどん)に言って自分の顔を見る細君などはたまらないではないか。ただ一概に子供らしくておとなしい妻を持った男はだれでもよく仕込むことに苦心するものである。たよりなくは見えても次第に養成されていく妻に多少の満足を感じるものだ。一緒にいる時は可憐さが不足を補い、それでも済むでしょうが、家を離れている 時に用事を言っても何もできないような。遊戯も風流も主婦としてすることも自発的には何もできない、教えられただけの芸を見せるにすぎないような女に、妻としての信頼を持つことはできない。だからそんなのもまただめで、平生はしっくりといかぬ夫婦仲で、淡い憎しみも持たれる女で、何かの場合によい妻であることが痛感されるのもあると、こんなふうな通な左馬頭にも決定的なことは言えないと見えて、深くため息をついた。だからもう階級も何も言いません。容貌もどうでもよく、片よった性格でさえなければ、まじめで素直な人を妻にすべきだと思う。その上に少し見識でもあれば、満足して少しの欠点はあってもよいことにする。安心のできる点が多ければ、趣味の教育などはあとからできる。上品ぶって、恨みを言わなければならぬ時も知らぬ顔で済ませて、表面は賢女らしくしていても、そんな人は苦しくなってしまうと、すごみをきかせた言葉や身に染む歌などを書いて、思い出してもらえる言葉を残して、遠い郊外とか、まったく世間と離れた海岸とかへ行ってしまいたい。子供の時に女房などが小説を読んでいるのを聞いて、そんなふうな女主人公に同情したものです。
2024.06.09
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源氏物語〔2帖帚木 ははきぎ8〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語2帖帚木の研鑽」を公開してます。二人のような貴公子にはまして対象になる女があるものですか。私などの気楽な階級の者の中にでも、この方と打ち込んでいいのはないですからね。見苦しくもない娘で、それ相応な自重心を持っていて、手紙を書く時には樹木・草花・岩の一部に文字を組み込んだ絵のような簡単な文章を上手 に書き、墨色のほのかな文字で相手を引きつけておいて、もっと確かな手紙を書かせたいと男をあせらせて、声が聞かれる程度に接近して話そうとしても、息よりも低い声で少ししかものを言わないというようなのが、男の正しい判断を誤らせるのです。なよなよとしていて優し味のある女だと思うと、あまりに柔順すぎたりして、またそれが才気を見せれば多情でないかと不安になります。そんなことは選定の最初の関門ですよ。妻に必要な資格は家庭を預かることですから、文学趣味とかおもしろい才気などはなくてもいいようなものですが、真面目一方で、なりふりもかまわないで、前髪をうるさがって耳の後ろへはさんでばかりいて、た だ物質的な世話だけを一所懸命にやいてくれる、そんなのではね。お勤めに出れば出る、帰れば帰るで、役所のこと、友人や先輩のことなどで話したいことがたくさんあるんですから、それは他人には言えません。理解のある妻に話さないではつまらない。この話を早く聞かせたい、妻の意見も聞いてみたい、こんなことを思っていると何処ででも独笑が出るし、一人で涙ぐむこともある。また自分のことでないことに正義感から出る憤りを起こし、自分の心にだけ置いておくことに我慢のできぬような時、自分の妻はこんなことのわかる女でないのだと思う。
2024.06.08
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源氏物語〔2帖帚木 ははきぎ7〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語2帖帚木の研鑽」を公開してます。式部丞の方を見ると、妹たちが若い男の中で相当な評判になっていたが、それを暗に言っているのだと思い、式部丞は何も言わなかった。そんなに男の心を引く女がいるであろうか、上の品にはいるものらしい女の中にだって、そんな女は中々少ないものだと分かっていると源氏は思っている。 柔らかい白い着物を重ねた上に、袴は着けずに直衣だけを落ち着いた感じに掛けて、体を横にしている源氏は平生よりも美しく、女性であったらどんなに綺麗な人だろうと思われた。 この人の相手には 極楽浄土往生の九品の中の最上位の中から選んでも飽き足りないと見えた。ただ世間の人として見れば無難でも、実際自分の妻にしようとすると、合格する女性は見つからないものですよ。男だって官吏になって、お役所の勤めというところまでは、誰もできるが、実際適材適所が行くということは難かしい。どんなに聡明な人でも一人や二人で政治はできないのだから、上官は下役に助けられ、下役は上に従 って、多数の力で役所の仕事は済むが、一家の主婦にする人を選ぶのには、備えさせねばならぬ資格が幾つも必要である。これがよくてもそれには適しない。少しは譲歩してもまだなかなか思うような人はない。世間の多数の男も、いろいろな女の関係を作るのが趣味ではなくても、生涯の妻を捜す心で、できるなら一所懸命になり自分で妻の教育のやり直しをしたりなどする必要のない女はないかとだれも思うのでしょう。必ずしも理想に近い女ではなくても、結ばれた縁に引かれて、一生を共にするのはまじめな男に見え、また捨てられない女も世間体がよいが、だが世間を見ると、上手くいっていませんね。
2024.06.07
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源氏物語〔2帖帚木 ははきぎ6〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語2帖帚木の研鑽」を公開してます。宮仕えをして思いがけない幸福のもとを作ったりする例も多いと、左馬頭(さまのかみ)が言うと、それでは何でも金持ちでなければならないと源氏は笑っていた。あなたらしくない事を口にするものではありませんよと、中将は軽く注意を促すように言った。左馬頭はなお話し続けた。家柄も現在の境遇も一致している高貴な家のお嬢さんが平凡な人であった場合、どうしてこんな人ができたのかと情けないことだろうと思うと話す。そうではなくて地位に相応しくすぐれたお嬢さんであったら、それはたいして驚きませんね。当然ですもの。私らにはよくわからない社会の事ですから上品は省く事にしましょう。こんなこともあります。世間からはそんな家のある事なども無視されているような寂しい家に、思いがけない娘が育てられていたとしたら、発見者は非常にうれしいでしょう。意外であったという事は十分に男の心を引くカになる。父親がかなり年寄りで、醜く肥った男で、見掛けの姿のよくない兄を見ても、娘は知れたものだと軽蔑している家庭に、思い上がった娘がいて、歌も上手であったりなどしたら、それは本格的なものではないにしても、ずいぶん興味が持てるだろう。完全な女の選択には入りにくいでしょうと言いながら、同意を促すように式部丞の方を見ると、自身の妹たちが若い男の中で相当な評判になっていると思った。
2024.06.06
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源氏物語〔2帖帚木 ははきぎ5〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語2帖帚木の研鑽」を公開してます。階級の別はどのようにつけるのですか。上中下を何で決めるのですか。よい家柄でもその娘の父は不遇で、恵まれない役人で貧しいのと、並みの身分から高官に成り上がっていて、それが得意で贅沢な生活をして、初めからの貴族に負けないような家の娘と、 どちらへ属させたらいいのだろうと、こんな質問をしている所へ、左馬頭(さまのかみ)と藤式部丞とが、源氏の謹慎日を共にしようとして出て来た。風流男という名が通っているような人だったので、中将は喜んで左馬頭を問題の中へ引き入れた。不謹慎な言葉も多く、いくら出世しても、もとの家柄がよいとは言えないから世間の思わくもやはり違う。もとはいい家でも逆境に落ちて、何も昔の面影もない姿になってみれば、貴族的な品のいいやり方で押し通せるものでもないし、見苦しいことも人から見られるわけだから、それはどちらも中流階級ですよ。受領といって地方の政治にばかり関係している連中の中にもまたいろいろ階級がありましてね、いわゆる中流として恥ずかしくないのがありますよ。また高官の部類へやっとくらいの家よりも、参議にならない四位の役人で、世間からも認められていて、もとの家柄もよく、富んでいてのんきな生活のできている所などはかえって朗らかなものですよ。不足のない暮らしができるのですから、倹約もせず、そんな空気の家に育った娘に軽蔑のできないものがたくさんあるでしょう。
2024.06.05
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源氏物語〔2帖帚木 ははきぎ4〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語2帖帚木の研鑽」を公開してます。親がついていて、大事にしてもらい、屋敷内の奥の邸宅の建物の部屋で育っているうちは、その人の一部分だけを知って男は自分の想像だけで十分補って恋をすることになるですね。顔がきれいで、娘らしくおおようで、そしてほかにすることがないのですから、そんな娘には一つくらいの芸の上達が望める。それができると、仲に立った人間がいいことだけを話して、欠点は隠して言わないようにしている。そんな時にそれは嘘だなどと、こちらもいい加減なことを言う事は可能ではなく、真実だろうと思って結婚したあとで、だんだんあらが出てこないわけはない。中将がこう言って嘆き溜息をついた時に、ありきたりの結婚失敗者ではない源氏も、何か心にうなずかれることがあるか微笑を浮べていた。今言った一つくらいの芸ができるというほどの取り柄もできない人も世の中には存在する。そんな所へは初めからだれもだまされに行きませんよ。何も取り柄のないのと、完全であるのとは同じほどに少ないもの。上流に生まれた人は大事にされて、欠点も目だたないで済みますから、その階級は別ですよ。中の階級の女によってはじめてわれわれはあざやかな、個性を見せてもらうことができるのだと思う。またそれから一段下の階級にはどんな女がいるのだか、まあ私にはあまり興味が持てないと言って、愛想を振りまく中将に、源氏はもう少しその観察を語らせたく思った。
2024.06.04
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源氏物語〔2帖帚木 ははきぎ3〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語2帖帚木の研鑽」を公開してます。初めからほんとうに秘密の大事な手紙などは、だれが盗んで行くか知れないので棚などに置くわけにもいかない、だがこれはそれほどの物でもないのだから、源氏は見てもよいと許した。中将は少しずつ読んでから、いろんなのがありますねと想像だけで、だれとかかれとか筆者を当てようとする。上手く言い当てるのもあるが、全然見当違いのことを言いながら、それであろうと深く追究したりする。そんな時に源氏はおかしく思いながらも、あまり相手にならぬようにして、上手く皆を中将から取り返した。あなたこそ女の手紙をたくさん持っているでしょう。少し見せてほしいものだ。そのあとなら棚のを全部見せてもいい。あなたの御覧になる価値のあるものはいないでしょうと、こんな事から頭中将は女についての感想を言い出した。これならば完全だ、欠点がないという女は居ないと私は今やっと気付いた。ただ上っつらな感情で達者に手紙を書いたり、こちらの言うことに理解を持っているような利巧な人もたくさんいるので、そこを長所として取ろうとすれば、きっと合格点に入るという者は中々いないと思う。自分が少し知っている事で得意になって、 ほかの人を軽蔑する事のできる厭味な女が多い。
2024.06.03
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源氏物語〔2帖帚木 ははきぎ2〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語2帖帚木の研鑽」を公開してます。嵯峨(さが)天皇の皇子、源融(みなもとのとおる)の左大臣の子息たちは宮中の御用をするよりも、源氏の宿直所への勤めのほうが大事と考えていた。そのうちでも宮様腹の中将「頭中将の実母(左大臣の正妻)」は最も源氏と親しくなっていて、遊戯をするにも何をするにも他の者の及ばない親交ぶりを見せた。大事がる舅の右大臣家へ行くことはこの人もきらいで、恋の遊びのほうが好きだった。結婚した男はだれも妻の家で生活するが、この人はまだ親の家のほうにりっぱに飾った居間や書斎を持っていて、源氏が行く時には 必ずついて行って、夜も、昼も、学問をするのも、遊ぶのもいっしょで、謙遜もせず、 敬意を表することも忘れるほど仲よしになっていた。五月雨がその日も朝から降っていた夕方、殿上役人の詰め所もあまり人影がなく、桐壼も平生より静かな時に、灯りを灯していろいろな書物を見ていると、置き棚にあったその本を取り出した。それぞれ違った色の紙に書かれた表面を覆っている手紙の殻の内容を頭中将は見たがった。無難な所を少しは見せてもいい。見苦しいのがあるからと源氏は言い、見苦しくないかと気になさるのを見たいのですよ。平凡な女の手紙なら、私には私相当に書いて下さるからいいんです。特色のある手紙で、怨みを言っているとか、ある夕方に来てほしと書いて来る手紙で、そんなのを拝見できたらおもしろい。
2024.06.02
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源氏物語〔2帖帚木 ははきぎ1〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語2帖帚木の研鑽」を公開してます。源氏物語2帖帚木(ははきぎ)を研鑽。桐壺帝が命名した光源氏、すばらしい名で、青春を盛り上げてできたような人と想像できる。また自由奔放な好色生活が想像されるが、実際はそれよりずっと質素な心持ちの青年だった。その上恋愛という一つのことで後世へ自分が誤って伝えられるようになってはと、異性との交際を極力内輪にしていたのであるが、ここに書く話のような事が伝わっているのは世間のうわさからおもしろがって広まる。自重してまじめな風体の源氏は恋愛風流などには疎かった。好色小説の中の交野の少将(中納言なる人物が交野の鷹狩りが縁で大領の娘と契るが、以後訪れないため娘は投身自殺をはかるという物語)には笑われていたであろうと思われる。中将時代にはおもに宮中の宿直所に暮らしていた時、たまにしか舅の左大臣家へ行かないので、左大臣は光源氏が別に恋人を持っているかのような疑いを受けていた。舅の左大臣は世間にざらにあるような好色男の生活はきらいであった。まれには風変わりな恋をして、たやすい相手でない人に心を打ち込んだりする欠点はあった。梅雨のころ、帝の謹慎日が幾日かあって、帝の傍に仕える大臣は家へも帰らずに皆宿直する。こんな日が続いて、源氏の御所住まいが長くなった。大臣家ではこうして途絶えの多い婿君を恨めしくは思っていたが、やはり衣服その他贅沢を尽くした新調品を御所の桐壼へ運ぶのに飽きることはなかった。
2024.06.01
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