[Stockholm syndrome]...be no-w-here

2019.05.15
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カテゴリ: 映画
5年後、別々の人生を歩んでいた2人は、予期せぬ形で再会する。
そこでセブは、自分のピアノ演奏でミアに夢を見せる。
それはミアが叶えられなかった夢であり、セブが叶えてやれなかった夢でもある。

ここで思い出して欲しいのが、最初の感想にも書いた「ハリウッドは人々に夢を見せる街だ」という事だ。
ミアと出会うまでのセブは理想ばかり高く、独り善がりの演奏しかできない若者だった。
自分が夢を見るばかりで、人々に夢を見せる事ができずにいた。
その彼が、自分の演奏でミアに夢を見せたという事は、彼が夢を見せる側の人間、つまり「ハリウッドの住人」になった事を示している。

そして、その夢の中で、ミアはセブの本当の気持ちに気付いてしまう。
「きっと、彼は今でも私の事を愛してくれている」と。
そうでなければ、あんなに素敵な夢は見せられないだろう。

そして、彼女は迷う。
自分の選択(=他の男性との結婚)は、果たして正しかったのか…。
こんな風に2人して成功できるなら、あの時別れる必要なんて無かったのではないか…。

彼女が動揺するのも無理はない。
何しろ、彼女自身は「自分はフラれた」と思っていたのだから。
これだけ通信手段が発達した現代社会にあって、お互いが全く連絡を取り合わなかったのも、これで説明が付くだろう。
(ただし、スマホやパソコンがほとんど画面に登場しないのは、チャゼル監督が本作に「古き良きハリウッド映画に対するノスタルジー」を描き込もうとしたからでもある)

「貴方は、本当にこれで良かったの…?」

戸惑いながら振り向く彼女に、セブは少し寂しそうに、けれど優しく微笑みながら頷く。

「これで良かったんだ」と。

そう、彼も分かっているのだ、現実がそんなに甘くはない事を。
「あの時、こうしていれば…」というのは、後になってから言える言葉であり、その時はそうするしかなかった。
未熟な自分達は、あそこで別れるしかなかった…。

けれど、あの恋があったからこそ、2人は成長できた。
互いに夢を叶える事ができた。
だから、これで良かったんだ、と。


僕の好きな漫画【バーテンダー】の中に、こんな台詞がある。


「お客様はプロとアマチュアの違いが分かりますか?
 プロになるということは
 現実の中で何かを捨てるということ
 たとえばかつて抱いた夢 理想 憧れ…
 必要なのは捨てる辛さ痛みに耐え 現実に学ぶということ
 そこからプロの本当の成長が始まる
 だからこそムダに捨てない
 活かすために捨てる」


たとえ自分が望まぬ形だったとは言え、一度は仮初めの成功を手に入れたセブには、その事が身に染みて分かっていたはずだ。
夢を売る仕事は、自分が夢を見ていては成り立たない。

だから、あの時ミアを突き放した。
彼女が本気で夢を追うには、自分との恋愛は足枷(あしかせ)にしかならない、と。

しかし、だからと言って、セブがミアへの愛を失った訳ではなかった。
きっと彼は、彼女が女優として成功するにしろ、夢を諦めるにしろ、いつでも戻って来られるように、もしもの時を考えてその場所を空けていたのではないか。
或いは、ミアの気持ちに応えてやらなかった事に対する贖罪の気持ちもあったかも知れない。
(こういう時、たいていは男の方がセンチメンタルな発想をするものだ…笑)

何れにせよ、別々に選んだ道の先でお互いが成功した事で、「もしも」が起こる事は無くなる。
それでも、彼に後悔は無い。
彼女が頑張っている姿を見ていたからこそ、自分もそれに負けまいと頑張って来られた。
別れた過去を無駄にしないために…。

だから、これで良かったんだ。
君と出会い、恋をしたから、僕は今ここに居られる。

そんな想いが、セブの最後のあの表情になって表れたのではないかと思う。
ここは「メイド・イン・ハリウッド」だからこそ深みが増すラストシーンだと言える。

更に、「セブがミアに捨てられた」と思いながら観るのと、「セブがミアのために身を引いた」と思って観た時とでは、その表情の見え方が違って映るのも、この作品の凄い所だ。
チャゼル監督は、そこまで計算した上で、セブ役のライアン・ゴズリングにあの表情をさせたのだろう。
そこにも、若き才能を感じた。



以上が、僕の観た【ラ・ラ・ランド】の全容だが、どうだっただろうか。
まあ、異論・反論はそれぞれにあるだろうが、僕がこの映画のどこに感動し、何を評価してあの点数を付けたのか、その理由は理解してもらえたと思う。

さて、次回は「この映画を宝塚で上演するとしたら…」について書いてみたいと思う。
完全に余談だと思って読んで欲しい(笑)。





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Last updated  2020.10.02 20:37:28
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