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「何か言うことは無いの!」その威勢に負けることなく僕は余裕の微笑みさえ浮かべて言ってやった!「勿論、ある!・・・」 第23話 文末~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~最 終 話 ・・・・・・もうひとつのラストが・今「勿論、ある!」と言ってから多分3分が過ぎた。「ねえ、浩史。いくら私が物事に動じない女だからって、こんなに緊張を強いたままでいつまで待たせるつもり?・・・あなたのセリフ、だいたい察しはついてるからそろそろ聞かせてくれないかしら」「そ、そうか。何もわざと待たせているわけじゃない。君に心の準備をする時間をあげようかと・・・」カヲルはついに深いため息を吐いて空を見上げた。そのあと視線をぼくに戻して言った。「心の準備なら、14歳の時から出来てる。そしてそのまま、あなたの目の前にいるわ」(14歳の、あの頃から・・・僕にとってそれは衝撃的だったけれど、もう1秒だって先延ばしにしてはいけないと思った)「カヲル、結婚しよう」言い終わるのとほぼ同時に、ケント紙のように艶やかなカヲルの頬を涙が伝わって落ちた。「こんなに長く待たされたから・・・」甘い声で、それでも僕のせいだと言いながら、彼女はぼくの胸に縋り付いてきた。五月晴れのある日、ぼくらは朝一番で区役所に行き、結婚届を提出した。カヲルはどっちでもいいと言ったが、僕は反対した。「父さんがいたらきっとそう言う」僕がそう言うとカヲルも頷いた。そして『BENITO』を貸し切り、『CHARLEY』の伊藤夫妻、親友の佑一夫妻とその長女香瑠2世、「ウオーターサイド」元スタッフの青木君、そして新しく「ウオーターサイド」のスタッフとなった鈴音さん、みなさんの祝福を受けて、少人数ながら賑やかに結婚の宴を持つことができた。これから先どんなことがあっても、そしてすべてが大団円に終わることがなくても、これまでの僕らの恐ろしく高価な思い出が、これからの人生を力強く生きていく為のエネルギーとなることを僕もカヲルも確信している。これから二人は絶対に離れることはない。根拠はないが、そうなると確信している。「ねえカヲル、そうだろ」誰かの祝盃を受けて盃を飲み干していたカヲルだったが、ぼくを振り返ると目を細め、笑みを浮かべて言った。「何のことか分かんないけど、いつも貴方と一緒よ」やっぱり彼女は分かってくれている。 fine今までお読みいただきありがとうございました。何かと間延びした小説の更新でしたが、これで終わりとさせて頂きます。カヲルと浩史のハッピーエンドを勝手に祝います。いい曲、いい訳詞、いい歌声♪でしょ。(^^♪MrMoonligttさま、素敵な曲をUpして下さり、本当に有難うございます♪最後にお願いです。ポチっと応援よろしくお願い致します。(^^♪
2020.10.19
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「ありがとう!本当にありがとう!」ぼくはそう言って空を見上げた。そうでもしないと、涙を落としてしまいそうだったから。第22話 文末~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~「もうひとつのラスト」 第23話浩史が、「ファッションモデルのような姉妹の人間サンド」の中身になるという恐ろしく贅沢なハプニングがあった翌日、目を覚ました浩史は身支度を整えると、いつものように水辺の生き物たちが待つ階下の店舗へ下りていった。水草の緑と、様々な色合いの魚たちの水槽に一通り目を配りながらレジへ。カヲルと鈴音がレジの横のソファに座り、コーヒーを飲みながら楽しそうな笑い声に彩られた話し声が聞こえる。それが階段を下りながら浩史が予期した自然な朝の幕明けだったが・・・。笑い声どころか、このふたりは向き合ってさえいない。カヲルは熱帯魚のカタログを見ながらコーヒーを啜り、鈴音は新聞を開いているが、上下逆さま・・・心が紙面にないのは明らかだ。ここは触らぬ神に何とやらで、回れ右をしようと試みたが失敗に終わった。カヲル:「何処へ行くの?」鈴音:「おはよう、は無し?」この2人、何故急に集中してくるわけ?「いや、何処へって訳じゃなく・・・おはよう・・ございます」「ございます」は、鈴音に向き直った時に臨機応変付け足した。「ねえ聞いてよ浩史、そこのお姉さまが今朝唐突に結婚しなさいって言うのよ!」「け、結婚!て、僕と君がってこと?」「当たり前でしょ、他にだれかいるの?」「あ、いや、そんなことは絶対に・・・」(いい歳した男が狼狽えることじゃない・・・。)すると鈴音の声が冷たく響いた。「いい歳した男が狼狽えることじゃないでしょ」やっぱり鈴音はテレパスだ!この特異な能力を持ち、背丈だけしか今のところ勝ち目のない大きな存在に対処できる術が、はたして僕の中にあるだろうか?必死に脳内を検索してみたが・・・残念だ・・・。だからと言ってこのままだと僕の人生、カヲルと鈴音に振り回されて、言い訳ばかり考えてしまう。かなり確かなそんな予感が・・・ゾゾッ!空回りの連続でさえ続けていればきっと・・・・・あった!!僕の脳裏に名案が閃いたのとほとんど同時に、カヲルがソファから立ち上がって言った。「何か言うことは無いの!」その威勢に負けることなく僕は余裕の微笑みさえ浮かべて言ってやった!「勿論、ある!・・・」いつもお読みいただき有難うございます。こんな間延びした二次小説にお時間を頂戴しまして有難うございます。(^^♪応援のポチを頂けると大変喜びます。どうぞよろしくお願い致します。
2020.09.02
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〇お知らせします。今日に続き明日も仕事になりました。 ちょっとばて気味につき、申し訳ありませんが 皆様のところへ行けそうにありません。どうぞお許し下さい。 それではおやすみなさい。 matrixAそして香(こう)音(ね)は向かい合う僕と香瑠(かおる)をさらにピッタリくっつけた。この後が僕の願望通りなら、間違いなく香音は・・・テレパス! 第21話文末~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 「もうひとつのラスト」 第22話 「あなたにとって、一体カヲル(勝手ながら今回以降『香瑠』はカタカナで表記します)はどのくらい奇麗なの?」そう言うと香(こう)音(ね)は、ぼくとカヲルの間をさらに密着させた!もう、ぼくは観念して言った。「モナ・リザより奇麗だと・・・そう思ってます」 香音は、まあ、と言うと首を振りながら、「それは少し甘やかしすぎね」と付け加えた。カヲルを見ると、それまで僕を見上げていた顔を真っ赤にして俯いてしまった。「カヲルは幸せ者ね」そう言うと香音はぼくの背中から挟むようにして、カヲルの肩に手をまわして引き寄せた。 「こうやって、カヲルと私の間に入って、サンドの中身になりたかったんでしょ?」カヲルの口が「え⁉」と言うように開いた。「どうして分かったんですか!?」と僕・・・。「あなたの顔に書いてあったもの」と香音・・・。やっぱり、香音はテレパスだった! 「ばかね・・・」とカヲル・・・。顔はまだ赤いまま、でも「嬉しい」そう言うと、カヲルは僕の肩に顎を載せ、香音の肩に手をまわして僕ごと彼女を引き寄せた。なんて贅沢で、いい気分なんだ‼「ありがとう!本当にありがとう!」ぼくはそう言って空を見上げた。そうでもしないと、涙を落としてしまいそうだったから。久しぶりです!^^;ふくらはぎの肉離れが痛くて一行書いてはためて置く、を繰り返してやっと更新出来ました。読んで頂ければ嬉しいです。あと、出来ましたら応援☆もよろしくお願いします。m(_ _)m
2020.07.30
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こんばんは。テーピングして何とか歩けるようになりました。♪それでもイスに座った状態でさえ、長時間継続しているとふくらはぎと大腿部裏側に痙攣を伴う痛みが走ります。時間をかけて治すしかないようです。いつも応援して頂く皆様、今しばらくは返信遅れたり、応援のみだったりすると思います。申し訳ありません!m(_ _m
2020.07.03
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皆様にお知らせします。準備運動もせず、バドミントンを・・・結果、肉離れ!座っていてもかなりの痛みが!・・・。整体院で治療を受けましたが、まだ2~3日はかかりそう。ご訪問、応援、コメント頂いた皆様、返信しばらく多分2~3日、出来そうにありません。どうぞ悪しからずお許しください。m(_ _)m マトリックスA
2020.06.27
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「もうひとつのラスト」 第21話 誰も何も言えず、ただ二人を遠巻きにして見守っている。自分たちまで嬉しくなってくる、そんな光景だったからか。店からオーナーとスタッフたちが出てきた。何事かと尋ねたくなったとしても不思議はない。いつかテレビのCMで観た覚えのある美女と双子のようによく似た女性が抱き合って泣いているのだ。男性ならずとも興味を覚えて当然だろう。そんな麗しい光景が繰り広げられている中でただ一人、ぼくだけが不謹慎?なことを考えていた。それはその場面には相応しくなく、優しく見守る観衆の非難を浴びかねない願望である。けれども僕にとっては切実であり、この場を逃すなら、もう二度と訪れることは無いと思われるチャンスなのだ!だから今、今しかない! 僕の中ではそれは正解だったが、実現する可能性は低いし、拒まれれば、見苦しい・・・。ところが奇跡がおきたのである!”事実は小説より奇なり”というのは本当だった!香音はテレパスだったのだ!・・・たぶん。 香音が唐突にぼくを見つけて微笑んだ。そして・・・「いらっしゃい」と、確かにそう言った!「え?」この時はまだ、僕の願望が見抜かれていたとは想像も出来ずにいた。「何をしてるの?さあ早くいらっしゃい」香音の言葉は、きっと魔法の呪文か何かで、ぼくの脚は勝手に動き出し香瑠の前で立ち止まった。香瑠は訳が分からずキョトンとしたまま。「ありがとう、浩史さん。あなた香瑠のこと一杯可愛がってくれているのね。いいのよ何も言わなくても、香瑠を見れば直ぐに分かるわ。こんなに綺麗になって!」「ほんとに!」と佑一の妻の亜美が言った。そして香音は向かい合う僕と香瑠をさらにピッタリくっつけた。 この後が僕の願望通りなら、間違いなく香音は・・・テレパス!いつも読んで頂き有難うございます。応援ポチを頂けると励みになります。どうぞよろしくお願い致します。(^^♪
2020.06.20
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香音さんを起こしたのは父さんだし、香瑠を起こしたのも・・・そうか!この仕掛人は、「父さん!そうなんだろ父さん!」ぼくが心の中で父さんに呼びかけていると、ガタっと音がした。 第19話 文末~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 「もうひとつのラスト」 第20話 香瑠が立ち上がったのだ。彼女はすでに涙でそのツヤツヤした頬を濡らし、口は左右に大きく開いていて、まるで子供のように邪気のない顔になっている。 もどかしそうにチェアを押しやり、両手を突き出すようにして歩き出した。だが今日の香瑠はミニスカートなのでいつものように早く歩けない。香音も感極まったのか整った顔を歪めて、こちらは両手を広げて妹へ歩み寄った。やがて二人はしっかりと抱き合った。まるで映画に出てくる感動の再開シーンを観ているようで、ぼくを含め、その場に居合わせた人たち全員が感動を分かち合っていた。多分、否、きっとそうに違いない。香瑠は泣きながら「姉さん、姉さん」と何度も繰り返してしゃくり上げた。香音は「香瑠、ごめんね。こんなに心配かけて、だめなお姉ちゃんでごめんね!許してね」そうやって謝りながら、自分より少し背の高い妹の頭を優しく撫でている。 ここで少しだけ説明を加えると、香瑠が先に行っていた「あちらの不思議な世界」とは死後の世界ではなく、身体はこの世にあるけれど魂だけが行って安らかに安眠状態になる。そしてこの世に想う人がいて、自分のことを忘れずにいてくれる、若しくはこの世から行った親しい人に起こされるかすれば、目覚めてこの世に残って横たわる自分の身体に戻れる。一言で言うならば、心の優しい人が稀にかかる心の病を癒す異次元世界のことである。それは、不可思議な世界の存在を認める人だけが行ける世界。香瑠に遅れて行った香音は戻るのが遅くなった。当たり前ではあろうけれど、妹に寂しい想いをさせたことを、詫びる気持ちが強いのは姉であるが故なのだろう。 いつも読んで頂いて有難うございます。応援ポチして頂くと嬉しく、励みになります。どうぞよろしくお願いいたします。(^^♪辻井伸行 世界が感動した奇跡のコンクール・ドキュメント(CD+DVD) [ 辻井伸行 ]楽天で購入 初めはYouTubeで視聴していましたが、やはり大画面で尚且つ高音質で鑑賞したくなり注文しました。大正解でした。
2020.05.31
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昨日、5月16日は西城秀樹さんの3回忌でした。それで僕は久しぶりに思い出したのです。「アメリカンコーヒーお願いします」これが歌手西城秀樹さんからかけて頂いた何とも優しいオーダーの言葉でした。1977年、僕は原宿のとあるカフェレストランでバイトをしていました。後にカウンターでフライパンを振るようになりましたが、あの頃はウェイターで良かったです。♪雑誌のインタビューで来店されまして、僕がオーダーをとりに伺ったところ、他の人は「コーヒー、ホット」とかメニューの名称しか言いません。大体のお客さんがそうでした。でも西城秀樹さんは違ってました。「アメリカンコーヒーお願いします」そう仰ったのです。しかも優しい声音で、です。数分後、淹れたアメリカンコーヒーをテーブルの上にそっと置くと、他の方は無言。けれど西城秀樹さんは、「ありがとう」ってまた優しい声で。そしてお帰りの時には、我々の方を振り返って「ごちそうさまでした」 アメリカンコーヒー1杯だけですよ!信じられないほど心地良い気分になって僕もああいうマナーをおいらも心がけるべきじゃ・・・そう思い真似してます。西城秀樹さんの優しい声、態度、ずっと忘れていません!僕の宝物です❕今連載中の「もうひとつのラスト」の原作「そのときは彼によろしく」には主人公はじめ、心優しい人達が多く登場していて、当時とても癒されました。コロナウイルスのことでストレスが溜まる今日この頃です。優しい人の事を思い出して少しでも温かい気持ちになれたらと、思い出の中で生き続ける優しい西城秀樹さんのお姿を偲ばせて頂きました。えっと、折角いい思い出を綴った後で恐縮ですが、ポチっと応援して頂けたら幸いです。
2020.05.17
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「あ、ええその、手紙が一通、行方不明になったかなって・・・」 ぼくは遠慮がちにそう言った。「なに?はっきりしなわねえ・・・」香音は腰に手を当て、目を細くして上目遣いにぼくを見てる・・・。 第18話文末~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~「もうひとつのラスト」 第19話 香音のこういう仕草、香瑠にそっくりだ。やはり姉妹の血は濃いってことか?佑一たちは面白そうに事の成り行きを見守っているだけ!なんだよ、僕に助け舟を出してくれてもいいだろう・・・。僕にはもっと手強い相手がいるっていうのに。・・・そうだ、ここでまごまごしてたら香瑠に何を言われることか・・・そうだよ、ここは一気にまくし立てて早いとこテラスに戻らなきゃ! 「実は昨日、貴女に宛てて手紙を書いて投函したばかりなんですよ」ぼくはそう言いながら香音をエスコートしてテラスへ向かう、佑一たちには目で合図を送って。香音はドアの前で立ち止まり、僕を見上げて言った。彼女は香瑠より5センチほど背が低い。だからこんなに近くだと、白い喉が見えるくらい上を向く事になる。「その手紙、送り返されてくるはずだから必ず私に頂戴。私宛なんだから封をしたままよ。香瑠にもそう言っておくから」(お姉さん、そんなふうな念の入れ方ってないと思う。それじゃぁまるで僕が子供並みの常識しか持ち合わせてないみたいに聞こえるでしょう・・・)返事は声に出さず、頷くだけにしておいた。香瑠は「BENITO」のドアがカウベルの音と共に開いた時、並木通りや街並みを眺めていたようだったが、カウベルの音と共に現れたぼくらの気配を感じたようで、こっちを向いた。その顔は明らかに「いつまで待たすつもり」と言いたそうだった。 けれど、ぼくの隣に佑一たちの姿を見つけ、反対側に自分そっくりな女性を見つけると、その目を大きく開き香音の顔に貼りついたようになり、瞬きも出来ないでいる。 今日のぼくの仕掛けは、香瑠と佑一たちとの再会、それだけだった。ところが、香瑠より先に僕が驚かされてしまった。一体このドッキリは何処のどなたの計画なのだろうか?・・・。 香音さんを起こしたのは父さんだし、香瑠を起こしたのも・・・そうか!この仕掛人は、「父さん!そうなんだろ父さん!」ぼくが心の中で父さんに呼びかけていると、ガタっと音がした。 いつも読んで頂いて有難うございます。ポチっと押して頂けると励みになります。どうぞよろしくお願い致します。(^^♪
2020.05.01
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まだOPENして間もない時間なのに、店の中にはすでに複数の客がいた。全員が一斉にぼくを見る。そして全員が笑みを浮かべて僕に朝の挨拶をしてくれた。それもその筈、みんなぼくが呼んでこの店に集まってもらったのだから。 第17話文末 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 「もうひとつのラスト」 第18話 実は今朝、香瑠がシャワーを使っている間に僕が佑一に電話を入れておいたのだ。だから今この店にいる客は、佑一とその奥さんの由佳さんと二人の長女、千春・・・と?もう一人の女性は?・・・。あ!ぼくは声を立ててしまった。「貴女は!・・・」「久しぶりね」と言って手を差し伸べながら僕に近づいて来る。「香音(こうね)さん!」「ただいま、今帰ったわ」香音さんは、香瑠の実のお姉さんである。姉妹揃って同じような顔をして、同じセリフをまるで用意していたかのように言うものだ。だが今はそのことに触れるつもりはない。 「驚いたなぁ・・・。一体いつ帰ってこられたんですか?」「あら、私は招かれざる人だったのかしら?」差し出していた手を下して香音はそう言った。とんでもない!って顔をしてぼくは両方の手のひらを胸の前で振って見せたあと、すぐに彼女の手を握りしめながら言った。「ぼくが驚いているのは、今日のこのタイミングのことで・・・」そこまで言って佑一を見た。「ぼくが教えたんじゃない。さっきここへ来る途中偶然お会いして・・・びっくりしたよ。香瑠にそっくりだったから」うん、そう。と千春が言った。 「で、話しかけてみたら香瑠さんのお姉さんだと仰るから、ここにお連れするべきなんじゃないかって・・・佑一とそうしようってことになって」「ああ、そうだとも!大歓迎だよ・・・ただ・・・」「ただ、何?・・・」怪訝な顔をして香音が言った。「あ、ええその、手紙が一通、行方不明になったかなって・・・」 ぼくは遠慮がちにそう言った。「なに?はっきりしないわねえ・・・」香音は腰に手を当て、目を細くして上目遣いにぼくを見てる・・・。いつも読んで頂いて有難うございます。応援ポチをいただけると幸いです。励みになります。どうぞよろしくお願い致します。(^^♪
2020.04.16
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※お知らせです。急用が出来まして明日大分県に行って来ます。 明後日には戻って来れると思いますが、お返事は遅れると思われます。悪しからず、ご理解の程お願い致します。 マトリックスA m(_ _)m香瑠は僕と手を繋いだままドアの前を通り過ぎてテラスの手前で立ち止まり、僕を振り返って言った。「素敵!ここにしましょ、ここで食べたいわ!」香瑠はとても嬉しそうに白い歯を見せている。 第16話 文末~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~「もうひとつのラスト」 第17話 「そうか・・・君は此処のテラス、初めてだったね」彼女が眠りについてから、1年ほど経ってこのテラスはできたのだった。香瑠は、回想中の僕に目もくれず、テラスの真ん中辺りのテーブルの前に立ち、ぼくを手招きしてる。「はいはい、只今・・・」ぼくは『いばら姫』のもとへ馳せ参じ、彼女のためにイスを引いた。「ありがとう」香瑠は女優の笑みを浮かべてそう言った。不思議なことにぼくがみぞおちの辺りを押さえることはなかった。そうか!ぼくと香瑠は、夕べ、身も心も溶け合っていたのだった・・・。だからきっと彼女のカウンターパンチをかわせるようになったんだ! それは、ぼくにとって都合の良いことだが、香瑠に知られるのはまずい。みぞちは嫌だが、ときめきはいつまでも感じていたいから。 「香瑠、ぼくはちょっと用を足してくるから、ここで待ってて」ぼくはそう言い残して店の入り口に向かった。ちらっと振り返ると、『いばら姫』はテーブルに肘をついて目を細め、口角を少し吊り上げた例の顔をして僕の背中に無言の不満を投げつけていた。ぼくはそれを笑顔でキャッチした。彼女にとって僕の態度は意外だったね、やっぱり。2・3度目を瞬かせると、「早く行って」と言うように、手の甲を僕に向けて振った。(今に見てろよ香瑠、あとできっとびっくりさせてやるからね)心の中でそうつぶやくと、ぼくはカウベルを鳴らして「BENITO」のドアを開けた。 まだOPENして間もない時間なのに、店の中にはすでに複数の客がいた。全員が一斉にぼくを見る。そして全員が笑みを浮かべて僕に朝の挨拶をしてくれた。それもその筈、みんなぼくが呼んでこの店に集まってもらったのだから。何時も、お読みいただきありがとうございます(^^♪今日もポチっと応援をお願いします。励みになりますので、どうぞよろしくお願い致します。 マトリックスA
2020.03.25
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店のドアに「準備中」の札を掛けて、僕らは遅い朝食を食べに出かけた。 第15話文末~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~「もうひとつのラスト」 第16話 僕らは手をつないで歩き始めた。「え、ピザ?」「浩史、ピザ好きじゃ無かった?」「いや、好きだけど・・・朝からピザはちょっと重くないかなと・・・」香瑠は無言で繋いだままのぼくの左手を持ち上げた。「いま、何時?」 言われるまま腕時計を見てみた。「10時38分」「よく見て、もうすぐ10時40分だわ」「確かに・・・」「ここから『BENITO』まで何分かかる?」「・・・7・・8分くらいか・・・」「そして、メニューを見てオーダーして焼きたてのピッツァが私たちのテーブルに並ぶのは?」「分かった、君が正しい。朝食じゃない。ブランチだね」「分かればよろしい」 持ち上げられていた僕の左手が、繋いだままだけど香瑠の力から開放され、引力の法則に従った。おまけなのか、慣性の法則?もしくは香瑠の力が働いて、腕が揺れ始める・・・。香瑠が鼻歌を歌い始めた。それは明らかに「フニクリ・フニクラ」だった。 やがてぼくらの行く手に、小さなフラワーショップが見えてきた。その向こう隣りに、白い壁のイタリアンレストラン『BENITO』がある。ドアの少し手前から赤レンガを敷きつめたテラスになっていて、それは通り際まで続いている。店内のものもそうだが、テーブルもチェアもオーナーが自らイタリアで求めたものと聞いた。ちょっと洒落ている。テラスと店内とは、大部分をガラス窓で仕切られているのだが、床から軒先まで続く、高くて広いそのガラス窓は、薄茶色の木枠が縦横に走る格子となっていて、白い壁と赤茶色のテラスの間に絶妙なバランスをもたらしている。 香瑠は僕と手を繋いだままドアの前を通り過ぎてテラスの手前で立ち止まり、僕を振り返って言った。 「素敵!ここにしましょ、ここで食べたいわ!」香瑠はとても嬉しそうに白い歯を見せている。いつもお読み頂きありがとうございます。応援のポチを頂けると励みになります。どうぞよろしくお願い致します。
2020.03.06
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香瑠の吸う息、吐く息は例えようもなく甘く、切なく果てしなく続くと思われた!!! ナノサイズのラブレターは部屋中に広がり埋め尽くしていく!!! 第14話 文末~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 「もうひとつのラスト」 第15話 ジョージベンソンの”BREEZIN”で、ぼくらは目を覚ました。毎年夏になるとタイマーを掛けて、この曲でぼくは目を覚ます。一人で・・・でも今朝は違った。顎をくすぐる柔らかな髪の感触、胸に置かれた細くしなやかな手。そして彼女の甘い吐息・・・昨日の夜、3度ものけ反って見せてくれた、形の良い顎に触ってみる・・・すべてが違っていた!香瑠が顔を上げる。嬉しそうに微笑み、髪をかき上げながら顔を寄せてキスをくれた。なんて贅沢な目覚めなんだろう!「夢じゃなかったのね」香瑠は僕と全く同じことを感じていた。しかも同時に!「ぼくも今、まったく同じことを言おうとしていたんだよ」香瑠が白い歯を見せてから言った。「おはよう」「おはよう、香瑠」うん、と言って香瑠はもう一度キスをしてくれた。 「シャワーを浴びてくるね」あ、ちょっと!そう言ってぼくは香瑠の肩にバスローブをかけてあげた。「あら・・・」香瑠は目を大きく見開き、感心したかのように続けて言った。「大人の気配りが出来るようになったのね、えらいわ」バスローブの袖に腕を通しながらそう言うと、彼女はベッドを下りてバスルームへ向かった。何とか大人っぽいセリフで言い返してやろうと考えてみたが咄嗟には言葉が見つからない。結局「ありがとう!」などと言ってしまった。しかも母親に褒められて喜ぶ子供のような言い回しで・・・。 香瑠が余裕のある軽い笑い声を立ててから言った。「それって私のセリフじゃない?」「分かっているのなら、君から先に言ってくれないか・・・」彼女の返事はなく、代わりにシャワーを使う音が聞こえてきた。 香瑠の次にシャワーを浴びて着替えを済ませると、店のドアに「準備中」の札を掛けて、僕らは遅い朝食を食べに出かけた。 いつもお読み頂きありがとうございます。応援ポチを頂けると励みになります。どうぞよろしくお願い致します。(^^♪
2020.02.24
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我が家の引っ越しの為、小説の更新を引き延ばしになったままでした。やっとネット環境も整いましたので再開させて頂きます。留守中、毎日のようにご訪問頂いた皆様、申し訳ありません、そして有難うございました。m(_ _)m (^_^)vそれでは二次小説「もうひとつのラスト」再開です。 マトリックスA 前回の文末「分かった、何のこと?」「私、今日は大丈夫なの」「それって、あのこと?」「そう、だから傘の心配はいらないわ」「そうか、なら誰かさんにもそう伝えといていいの?」ぼくは思わず笑みを浮かべた。「もちろんよ、問題ないわ。それに誰かさんはすでに行動に移ってるし・・浩史も何だか嬉しそうだけど?」「いや、女の子が気にすることじゃないから」「そうなの?」 「そうだよ」話してる間に、その誰かさんから早速情報が送られてきた!~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~「もうひとつのラスト」 第14話「香瑠?いつの間に君はシヨーツを着けていたんだい?」「うん、いろんな事情があってね」え?「何、それ?」「いや、いいんだ。男の子が気にすることじゃないから」彼女は明らかに、さっきのぼくの真似をしている。ぼくは彼女の脇をくすぐった。真似してんじゃないよ、とばかりに。彼女は身をよじりながら声を立てて笑った。「分かった!わかったからもう止めて!」数少ない苦手をつかれて、香瑠は眉間にシワを寄せてみたが、すぐに笑顔にもどって言った。 「あなたと佑一しか知らない私の苦手。あなただから許したのよ。たとえ佑一にだって許さないわ・・・」 ここにいない佑一には悪いけど、何だかいい気分だ。ぼくだけの香瑠が目の前に横たわっている。彼女が身につけているのは白い特別なショーツだけ!バスローブは完全に脱げてしまっていて香瑠のお尻の下にわざと敷いてあるようだ・・・ どうして?という顔をしてぼくは香瑠を覗き込む。彼女は、その細くて長い人差し指を自分の唇の前に立てて「トップシークレットよ」と言い、その指先をぼくの胸に当てて囁いた。「ここに仕舞っておいてね・・・」ぼくは調子に乗っていってみた。「ぼくは、やっぱり君の特別なんだね?」すると予想以上に嬉しそうな香瑠の返事が返ってきた。「そうよ、私はあなたに会うために生まれてきたの。だからこんな格好も出来るんだわきっと・・・。これでも何度かヌード写真集を出さないかって話があった。でも、全部断った。だって、愛してもいない男性に裸を見せるなんて考えられない。違う?」「違わない。確かに君の言う通り。正しいよ」「ありがとう。浩史だけは私の見た目に誤魔化されないよね」「当たり前だろ、ぼくは君のファーストキスの相手だよ。この世でたった一人のね!」 香瑠はとろけそうな表情で浩史の顔を見上げ、両手を首に回しながら言った。「そうよ、あなたは私のたった一人の男性(ひと)よ!」ここから先にくどい説明は不要というもの!優しく撫でつつ相手を求める二人!香瑠は浩史を受け入れる態勢を整え、浩史は避妊の心配が無用となった!!!!!香瑠の吸う息、吐く息は例えようもなく甘く、切なく果てしなく続くと思われた!!! ナノサイズのラブレターは部屋中に広がり埋め尽くしていく!!!いつも読んで頂いて有難う御座います。応援のポチを頂けると励みになります。どうぞよろしくお願い致します。♪パナソニック ES-RL15-A メンズシェーバー(3枚刃) 青(ES-RL15)【smtb-s】価格:4940円(税込、送料無料) (2020/2/14時点)楽天で購入色んな機種を試してみましたが、剃り心地はいいし、安価で長持ち!何より外刃が丈夫なのが気に入っています。
2020.02.12
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「言ったでしょ、私は基本的には古風なんだって。続きはベッドで!」「そんなぁ・・・」 第12話 文末~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~「もうひとつのラスト」 第13話 僕はベッドの中で香瑠を待っている。僕のことを全部洗ってくれたあと、今、彼女は自分自身に磨きをかけている。もう充分奇麗だし・・・もう待てないってみんな言ってる。(誰かさんと、左手のナイトと、そして僕・・・)その中で一番落ち着きのないのが僕だ。香瑠を待っている間に傘をさしておいた方がいいのか、それとも雨が降り出してからの方がいいのか?40歳にしてこの有様。ぼくの今までのセックスライフが、砂漠に雨が降るようなものだったから仕方がない。この10年間ただの一度も砂漠に雨は降らなかったのだから。でもそれで良かったんだ。これからは毎日だって(確か、むかし、香瑠はそう言ってた・・・)香瑠と二人っきり。極上の雨の恵みを共にする事となる。あの香瑠と、である・・・。 映画やTVのCMを見て沢口杏奈(香瑠)を知っている男性は、10代から30代の30% 約470万人にも及ぶという。(アルバイトの青木君の話だとそういうことになる) さらに彼女のルックスやその仕草に、思わずみぞおちの辺りを押さえてしまった男性を仮に半分としても、235万人!いいのかなぁ、そんな有名人を僕なんかのステディにしちゃって。といって他の誰かに任せるなんて気は毛頭ないけど。 今年の正月も0.02をコンビニで買っておいた。(香瑠があっちに行ってから毎年、正月に新しいものに買い替えている)枕の下へ押し込んでいる最中、ぼくの耳がある音を捉えた。それは聞きなれていたが、昨日まではぼくの耳元で聞こえていたあの音。香瑠が顔を出した。彼女がバスルームのドアを開けた音だった。それにしても香瑠、その恰好は!君はドアの隙間から顔だけ出しているつもりかも知れないけど、そのドアは殆どスケルトンなんだからね。胸から膝のあたりまでピッタリくっつけて、その豊かさと肌の白さをそんなにアピールしなくても、君は充分すぎるほど魅力的なんだから。 ねえ、と言ったあと、香瑠は僕を悩ませ続けながら言った。「このままの格好でそっちに行って欲しいの?」え?僕はそれしか言えなかった・・只今脳内混乱中!「だって、ここにはバスローブが見当たらないわ」あ!「ごめんごめん!今すぐ、だ、から」ぼくはそう言うとベッドから飛び出し、用意してあった二人分のバスローブの片方を掴みバスルームへ急いだ。幸いなことに彼女はまだドアの向こうにいた。だが、今度は向こうを向いていて、背中からお尻までがくっきりと!せっかくだから拝見しながらドアをノックした。けれど僕の右手の中指の第2関節は空を切った。香瑠が向きを変え、ドアを開けたからだが?・・・!バスルームの奥の壁面には鏡があった。そうか、香瑠には僕の姿が見えていた・・・悪い子だ。 「お待ちしておりましたわ」彼女は、してやったりという顔をしてそう言った。香瑠はバスローブを、ぼくはトランクスのまま。二人は10年前と同じ姿勢でベッドに横たわり、永い、長いキスをしている。香瑠はその長く細い指でぼくの髪をなでてくれている。ぼくは右手を彼女の肩へ回し抱き寄せる。そして誰かさんは、香瑠の「ご褒美よ」に勇気づけられたのか、いきなり彼女のバスローブの前を開き豊かな胸の感触を味わった後、お尻の探検を始めた。おかげで僕も鼻息が荒くなってきた。なのに彼女はぼくの唇を離れ、一度大きく息を吐いてから言った。「浩史、ねえ・・・聞いて」「今ちよっと忙しいんだけど」ぼくは彼女の唇が離れて行った切なさに耐えきれず、「誰かさん」のあとを追おうとしていた。「浩史、聞いておいたほうがいいと思うよ」「分かった、何のこと?」「私、今日は大丈夫なの」「それって、あのこと?」「そう、だから傘の心配はいらないわ」「そうか、なら誰かさんにもそう伝えといていいの?」ぼくは思わず笑みを浮かべた。傘をさすタイミングを考えなくて済むのだから。「もちろんよ、問題ないわ。それに誰かさんはすでに行動に移ってるし・・浩史も何だか嬉しそうだけど?」「いや、女の子が気にすることじゃないから」「そうなの?」 「そうだよ」 話してる間に、その誰かさんから早速情報が送られてきた!新年あけましておめでとうございます。いつもお読み頂きありがとうございます。令和2年も、ポチっと応援、どうぞよろしくお願い致します。♪
2020.01.06
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わ!!と声を上げて、ぼくら撮影隊は(監督兼カメラマン)一斉に前を向いたまま後ろへダッシュした!バスタブの端にぶつかるまで。浴槽のお湯が大きく揺れて、波が立った。 第11話文末~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~「もうひとつのラスト」 第12話情熱的でありながら、抑制の効いた撮影は順調に進んだ。どのくらい時間が経過したのか?それが分かるほど冷静では無かったけれど・・・。今、香瑠は長い手を大きく左右に開いている。『全部見て頂戴』まるでそう言ってるみたいに。撮影していながら僕は胸の奥で特殊な痛みを感じていた。香瑠はもう、モデルでもなければ女優でもない。一人の人間、谷川香瑠(たにがわかおる)だ。それなのに僕一人のためだけに全てをさらけ出してくれている。ノーギャラで・・・。「素敵だったよ香瑠!」ぼくはそう言うと、指のファインダーを解いた。「撮影終了!お疲れ様!」両方の手のひらを上にして、香瑠に向かって差し伸べながら僕はそう言った。「もういいの?」と、彼女は僕の手に自分の手をのせながら聞いた。「ああ、君の身体の何処に、いくつ黒子があるのか、すぐに再生できるように録画してある」僕は自分の頭を指さして、そう言った。「嬉しい・・」香瑠が言い終わらないうちに、ぼくは彼女の両手を手前に引いた。そして、すべての気力を振り絞って、ぼくは膝を曲げて開いた。香瑠をその間に迎え入れるためだ。鼓動が香瑠まで伝わってしまうんじゃないかって、そう思えるほど僕の心臓はドキドキ踊っていたけれど、それでも僕は頑張った。香瑠は、ぼくの手に摑まりながらバスタブの中で膝をつき、下半身をお湯の中に沈めた。「頑張ったのね、えらいわ『私の特別さん』」やっぱり鼓動は伝わっていた?でも、そして何時でも、君にそう言われると何だか癒されるんだ。君はぼくの恋人なの?それとも姉さん?たぶん両方なのかもしれないね。それはどっちにしても僕にとってとても居心地のいいこと。香瑠は、膝をついたまま僕の足の間を進めるだけ進むと、両手でぼくの頭を包んでくれた。「ねえ覚えてる?」と彼女は言った。「何を?」とぼくは聞き返す。「10年前、まだあなたが私の事思い出せず『沢口杏奈』(さわぐち・あんな)だと思ってた頃のこと」ぼくがつい、「うっ」と声を立てると、香瑠は、「クスッ」と笑って続けた。「わたしが『この胸に顔を埋めたいっていう男性はたくさんいるのよ』って言ったら、あなたは『なら、大事にしておきなよ。未来の夫と赤ちゃんのために』って言ってくれた」・・・思い出した。「ああ、確かに」 だったら、「今なら、大丈夫よね」香瑠は、そう言うと、今まで見せたことのない優しい笑みを浮かべて僕の頭を引き寄せた。彼女の胸は搗き立ての餅のように柔らかく、温かかった。香瑠の甘い匂いとナノサイズのラブレターの宝庫だった!「香瑠!ぼくはもう・・・」「ええ、解っているわ。だってほら、いつの間にか誰かさんが私のお尻を撫でているし・・・私だって・・・」そう言ったのに、香瑠はいきなり誰かさんをつかんで僕に返し、ぼくのそばから離れてから言った。「言ったでしょ、私は基本的には古風なんだって。続きはベッドで!」「そんなぁ・・・」いつもお読み頂きありがとうございます。応援のポチを頂けると励みになります。どうぞよろしくお願い致します。♪
2019.12.19
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「解ったよ君の想いが、・・・君を見せてもらう。そして瞼の内側にしっかり焼き付けよう。いくつになっても色褪せないようにね」香瑠はまた泣いた。今度の涙は100%本物に違いない。 第10話 文末~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 「もうひとつのラスト」 第11話 「嬉しい涙よ」そう言って香瑠は再びバスタブに片手を置いて僕にキスをしてくれた。名残惜しそうに唇を離す君に、ぼくは言った。 「これが最後じゃない。これからはいつだって隙を見つけては君のキスを盗み続けるから」 彼女は何度か小さく頷きながら立ち上がると、背中に手を回した。 「ちょっと待った!香瑠、悪いけどそのままちょっとだけ待って!」 香瑠は、何?という顔をして、両腕を前に戻し彼女の身体を抱くようにした。(好きだなあ、このポーズ・・・)おっと!見とれてる暇はない!僕は自分の脳の中に、13歳から今までの鮮明な記憶を納めてある。その「特別なフォルダ」に今日これからの新しいファイルをインストールする為に、僕自身の画像処理能力を極限にまでアップグレードした。 「O・K!香瑠、待たせたね、始めて」とぼくはそう言った。香瑠は溜息をついた後、口角を小さく上げたまま、頷いた。 「これじゃまるで、映画のクランクインね」 「そうだよ、僕は今、世界一幸せなカメラマンをやっている」 指で四角を作り、それをファインダーに見立て、香瑠を撮っている格好をつけながら、僕はそう言った。 「じゃあ、私は世界一幸せな女優ね。共演者もカメラマンも、どっちも私がこの世でたったひとりだけ愛するあなただもの」 ブラのホックを外したのが判った。ブラ全体に緩みが生じたから。 ねぇ、と香瑠はブラの肩紐を下ろしながら言った。「その指はずっとそのままなの?」 ああ、と答えた。「こうしていると、ぼくの下のほうの誰かさんが、おとなしくなるみたいなんだ」「そうなの?」「そうみたい」「ベッドの上でも?」「いや、今夜はたとえ前菜が無くったって、メインディッシュはいただくよ」 良かった、と香瑠は嬉しそうにそう言いながら、もう片方の肩紐を下ろし、ほんとは、と言ってから、はにかみながら続けた。 「恥ずかしいのよ・・・」「分かってる。ぼくは君の特別なんだよね?」「その言葉・・・久しぶりに聞いたけど、今日は背中を押してくれたわ」 ・・・本当にぼくは彼女の背中を押しちゃったみたいで、それからの香瑠は動きにためらいがなかった。そしてぼくは僕で、香瑠の専属カメラマンとして、一瞬たりとも彼女の動きを見逃すことなく、連写し続けた。いつの間にか、バスタブの中でぼくは中腰になっていた。 香瑠はまず、ブラの肩紐から腕を抜く、左、右と、その度に片方ずつ形のいい、柔らかい(10年前に知っている)乳房が現れ、僅かに揺れた。それからブラを片手に掴んだまま器用にショーツを下ろした。脱ぎ終えた下着をバスルームの直ぐ外にある脱衣かごに置いて引き返して来る。バスタブの側まで来るその歩きは、流石に元モデル出身の元女優で、バスタブを跨ぐ時でさえ、格好よく、セクシーに見せてくれた。 ぼくの指ファインダーは、(カメラは僕の目)香瑠の動きを追ってパンする。彼女の脚がこっちを向いて止まった。こちらも停止。 長くしなやかな脚が、ファインダーの大部分を占めている。ちょっと近すぎるかな?そうは思ったけれどブレーキは掛からない。ぼくの指ファインダーが勝手に上を目指しパンし始めたその時、唐突に香瑠の顔が降りてきて、ファインダーの枠を完全に塞いだ!わ!!と声を上げて、ぼくら撮影隊は(監督兼カメラマン)一斉に前を向いたまま後ろへダッシュした!バスタブの端にぶつかるまで。浴槽のお湯が大きく揺れて、波が立った。いつもお読みいただきありがとうございます♪応援をポチっと押して頂くと励みになります。どうぞよろしくお願い致します。
2019.12.05
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その言葉、受け答えのパターンとしては何も問題はない・・・けれど、君の瞳の奥に、必要以上の「やった感」が垣間見えた。そう感じたのは気のせいだろうか? 第9話の結行 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 「もう一つのラスト」 第10話 「じゃあ、しっかり見ててね」「なんか変!さっきまで泣いてたカラスが」「まあ、ひどい!わたしはカラスなの?」「いや、・・ほら、白くてキュートなカラスだっているだろ?・・いないかな?」 こんなふうに、ぼくは大人になった今でも上手な言い訳ができないでいる。「噓が付けない」といえば格好いいが、要するに他の人に合わせて生きることが下手なのだ。だから水辺に生きる生き物たち(彼らは人間のように噓をついたり、いじめたりしない)を大切に育てつつ、水草やメダカ、熱帯魚などを鑑賞する為に必要な品物を売って生活している・・・。 「ウオーターサイド」には毎日もしくは時々訪れてくれるお客さんがいる。彼らは、人付き合いは苦手であったとしても、水辺に生きる生き物たちを見つめるその目は限りなく優しい。そして時々、水質を保つ為のろ過材や水草などを買ってくれる。滅多にないが、新しい水槽の注文もある。 ぼくと「ウオーターサイド」にとって、彼らは、かけがえのない存在だ。 香瑠は、クスッと笑ったあと、「ごめん!ほんとにごめんなさい、許して浩史!」と言った。 「何のこと?」 間の抜けた亀のように、僕は首を伸ばして答えを求めた。 「どうだった?助演女優賞をもらえる演技は?」「え!それじゃあ、さっきの涙は・・・」「半分はホントよ、それにセリフは全部本音だから」「・・・・・」 返事をする気になるまで、あと3行は待ってもらわなければ・・・。 「浩史、こっちを見て。ほら・・・お願いだから」言われてつい、香瑠にかおを向けた。僅か2行で、もう既に許してしまっている・・・。 「ねえ、覚えてる?浩史・・・」「なにを?」 僕は、まだ完全には許していない。という顔を作ってみせた。 「10年前、マリオがいた、「BENITO」(イタリアンレストラン)で見かけた素敵なご夫婦のこと」 ちょっと時間を要したが思い出した。 「ああ、あの初老のお二人のこと?」「ふたりで言ったじゃない、『あんなふうに、ふたりで年を重ねて行けたらいいね』って」「・・そうだったね」「あのお二人はきっと、お互いのこと、何もかも知っている。そんなふうに感じたわ。心の中だってその気になれば手に取るようにわかる。それがもしも二人にとって不必要なことであったなら、お互いの記憶のフォルダからそっと削除してしまう。例のあの場所へ行っても思い出すことのないように・・・」 それって・・・少し考えてから、ぼくは、そう、と言って後を続けた。 「二人の思いがいつまでも新鮮であるための『ソフト』かな?」「そう、そうね!」 今日の浩史は冴えてる。そう言いながら、香瑠は軽く膝を曲げ、バスタブのふちに片手を置いて僕の頭をなでた。 「よせよ香瑠!僕の方が年上なんだからね」「はいはい、たった半年だけどね」「・・・・・・・・・・・」 「体毛のことだって、わたしは毛深いのは本当は苦手なの・・・でも浩史がそうだったら、わたしの目にはシルクの糸に見えるはず。きっとわたしの中にあるソフトがわたしの目にフィルターをかけちゃうわ」 「それ『二人の想いがつまらないことで色褪せないためのソフト』だね」 香瑠が目を大きく開いて小刻みに何度も手を叩きながら言った。 「ホント、今日の浩史は冴えてるー!」「解ったよ君の想いが、・・・君を見せてもらう。そして瞼の内側にしっかり焼き付けよう。いくつになっても色褪せないようにね」 香瑠はまた泣いた。今度の涙は100%本物に違いない。 いつも読んで頂いてありがとうございます。応援をポチっとして頂けると励みになります。どうぞよろしくお願い致します。
2019.11.16
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皆様こんにちは。お陰様でパソコン、準備完了!サクサク軽快に作動しています。ただ・・・肝心の小説の続きの文章がギクシャクしていまして進みません。一度は完結したはずなのに、改めて読み返すと、いただけない一句、一言が見当たるという赤面してしまうような有様です。なので、今しばらくお待ちくださいませ。m(_ _)m厚かましくも応援のお願いを致しております。
2019.11.15
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パソコンがついに再起不能となりそうなので、買い求めて来ました。完全復活は明日になりそうです。返信等遅れますが、どうぞご容赦くださいね。いつもお世話になっております。
2019.11.12
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しかし、「見つかりませんでした」と表示されるだけ! 第8話の結行~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~「もうひとつのラスト」 第9話ここはやっぱりメインである香瑠の答えを待つしかないのだろう。僕がそう決めたとき・・・「もう少し、女心をわかって欲しいものね。私が今いくつなのか分かってる?あなたと同じ40歳・・・」彼女は溢れた涙を、その長い指先で拭った。「今よ、今見てもらわなきゃ。今なら10年間むこうにいたお陰で、30歳くらいの私を見せてあげられる・・・でも、そのうち私を見てくれるあなたの視線が醒めてゆくわ」「そんなことない!」ぼくは本当にそう思っている。君と君以外の女性には大きな違いがある。君と僕だけに訪れた、13歳の時のあの心ときめく出会い!世界は一変したんだ!ぼくは水辺の生き物たちより、ずっと素敵な女の子と恋に落ちた。それから14歳の冬、ぼくと香瑠の甘く、せつなく、それでいて大胆なファーストキス!+α!アメリカ映画の青春+ラブコメに出てくる輝くようなあのシーン!そして、・・そして10年前の香瑠との、『まるでセックスな交わり』正直言って、あれはぼくも辛かった。でもあの13歳からの思い出だけで、ぼくは一生幸せに生きていけたと思う・・・。誰にも信じてもらえないだろうけれど、あの思い出は、いつだって僕が頭の中のスイッチをオンにすれば、映像となってぼくの周りをいつまでもぐるぐると回り続けるんだ。そして反復記号のすぐ手前には、香瑠とぼくとの『まるでセックスな交わり』があった!「本当に?」「え?」「あー!ひどい!!こんな大事な時に、いったい誰のことを考えてたの!?」返事次第じゃ許さない!香瑠の細くなった目と硬く閉じられた口が、そう言ってるようだ。「ち、違うよ!他の誰かじゃなくて、14歳の時の君のことだよ」と、僕は大急ぎでベッドの横にあるサイドテーブルの上に置いてある僕と香瑠を写したフォトスタンドを指さした。香瑠の硬かった表情が見る間に解けていった。「いいわ、そういう事なら許してあげる。じゃあ続けるわね、大丈夫?」「大丈夫・・・」「私が、『そのうち私を見てくれるあなたの視線が醒めてゆくわ』と言ったの」「ぼくは『そんなことない!』って言ったはず」「ええ、そう・・・だから私は『本当に?』って聞いたの、さあ答えて」香瑠は腕を組み、やや上目遣いでぼくを見てる。「うん、そうだよ・・・たとえ君が60になっても、ぼくはどこへ行くにも君と手を繋ぐことを忘れないし、例の『誰かさん』だって、生涯君の『お尻のナイト(騎士)』で居続けるって言ってる」「本当なの?」君は僕の左手と顔を交互に見ながらそう言った。嬉しそうにね。「そう言ってた」僕がそう言うと、君はクスっと小さく笑い、「嬉しい」と言い、こうも言った。「ありがとう」その言葉、受け答えのパターンとしては何も問題はない・・・けれど、君の瞳の奥に、必要以上の「やった感」が垣間見えた。そう感じたのは気のせいだろうか?いつも読んで頂いて、有難うございます。ポチっと応援を頂けると励みになります。どうぞよろしくお願い致します。
2019.11.02
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「ねえ・・・」の引き出しには、きっと入りきれないほど大量のナノサイズのラブレターが詰め込まれていて、引き出す度にまるで羽毛のように飛び出してきて、ぼくの敏感な部分を刺激する。第7話 より~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~「もうひとつのラスト」 第8話「浩史はダイエットでもしてたの?10年前より少し引き締まった感じ」この辺が、と言って彼女はベッドに手をつき膝を立てて、ぼくの上をそのままの姿勢で這ってゆく・・足の方へ。僕は、わけもなく(本当は大ありだった)慌てて言った。「あ、あの実はさあ・・・君が通っていた、例のフィットネスクラブがあっただろ?あそこに、僕も行ってるんだ。ほら、若い女の子がいると、老け込まないって言うし」「ほほ~ッ」と彼女が言った。「成果があったって言いたいわけ?」そう言いなが僕の脇腹をつねった。痛い!と言うはずなのに、香瑠の目が細くなったので「痛い」は飲み込んだ。「大丈夫、私が帰って来たから。ほら、私といると退屈することなんて無いでしょ?だから老け込む心配なんしなくていいの」そう言いながら香瑠は、僕の上を這い上がってきた。そしてぼくの唇にキスをした。僕らがそろそろ我慢できなくなってきた時、お湯が溜まったことを知らせる野暮なブザーの音が聞こえてきた。「はいはい、分かりましたよ!」と僕はベッドから下りてバスルームへ向かう。背中で香瑠が「フフッ」と笑い、「後でね」と追いかけて来た言葉で僕は元気を取り戻す・・・彼女の言葉には、やはりナノサイズのラブレターが仕込まれている。バスルームでは、終始香瑠がリードした。「浩史が先に脱ぐのよ、言ったでしょ、あなたの足の間に私が入るんだから」「え!本気だったの!?」「もう、・・ほら、目を閉じていてあげるから」「あ、うん、分かった」人生で、これほど早くトランクスを脱いだことはなかった。香瑠の言う通り、これからの僕の人生に「退屈」の二文字は無縁となる。そう思った。「ま、まだだよ!」と言いながら、ぼくはバスタブのふちを跨いだ。確かに目は閉じてくれているが、香瑠は両手を腰の両端に当てたまま、顔を左右に振っている。(呆れた)と言っているようだ。ザブッと音を立ててお湯の中に身体を入れた。見上げると、香瑠はすでに目を開けていて、いつの間にかコットンシャツも脱いでいて、髪を後ろで束ねているところだった。(あとはブラとショーツだけ!)「好きだな、それ」「どっちのこと?」と彼女は、ブラとショーツを交互に指差しながら言った。「ブーッ!」「何それ?」「僕が好きだと言ったのは、ポニーテールのことだよ」「そうなの・・・」一瞬の沈黙のあと、彼女は背中に手を回しブラを外しにかかって・・・ぼくは視線を外す・・・だが、それが良くなかった?「私はもう若くはないわ、それは分かってる・・・」予想外なセリフ、おまけに香瑠の声は明らかに湿り気を帯びていた。ぼくは何も言えないでいる。何か一つヒントでも無ければ、頭の中の検索ボタンをクリックする事さえ出来やしない!「だけど、私はこんなに勇気を出して、あなたに全部見てもらおうと頑張っているのに!恥ずかしいのよホントは!でも、あなたは今、目をそむけた・・・やっぱり見た目も二十歳そこそこじゃないとダメなの?」途中から香瑠は俯いてしまったが、『ダメなの?』のところで顔を上げた。今度こそ本当に驚いた!香瑠の目から涙が、上質のケント紙のように艶やかなその頬に流れ伝わり落ちていく。僕はいよいよ訳が分からなくなって、検索の項目に「香瑠、泣いてる、ブラ、若くない、」とにかく思いつく言葉を入力して、頭の中の検索ボタンをクリックした。しかし、「見つかりませんでした」と表示されるだけ!いつもお読み頂き有難うございます。ポチっとして頂けると力になります。どうぞよろしくお願い致します。(^^♪
2019.10.24
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「もうひとつのラスト」は、市川拓司先生の原作「そのときは彼によろしく」の二次創作小説です。原作のラストのその後を想像して物語を書き始めました。「そう、あなたが一番。それからこの部屋、ベッドもカーテンも、みんな素敵」そう言うと彼女は、もう一度部屋を見渡す・・・。(第六話)~~~~~~~~~~~~~~~~~~~「もうひとつのラスト」 第7話「三ツ星ホテルのスイートルームには、遠く及ばないけれどね」と僕は言った。口にしない方がいいジョークもある。口にした言葉を自分の頭の中で否定するのは辛いけど、決して降参はしない。(失敗する度に降参していたら、この人生つづけていけないよ!浩史・・・)「ばかね、あなたといられれば、そこが私のスイートルームなんだから」またクリーンヒットだ、香瑠のカウンターパンチ、効くなあ。「そうなの?」 このセリフ、狼狽えてしまった事がもろに分かる・・・そんなだから『分かり易い』って年下の従弟にも言われてしまうのだろう・・・。フーッ、と香瑠はため息をひとつ吐き、今度は身体ごとぼくを振り返ると、「そうなの!」と言った。「ま、いいわ」とも言った。それから彼女は、気を取り直したように優しい笑みを浮かべて「お風呂に入りましょ」と言った。それはまるで「お茶にしましょ」と言ってるのと同じくらいに、サラッとした言い方だった。まただ、香瑠さん、もう勘弁してもらえないだろうか・・・僕は、一体幾つに成ったら香瑠のカウンターパンチをかわせるようになるのだろうか・・・。まてよ、たしか父さんも実質的な初夜を迎えたのは、母さんと結婚してから3週間も過ぎてからだったって、そう言ってた。だとしたらこれはやっぱり遺伝なのか?うん、そうに違いない。何だか身も心も軽くなったような気分、「TAKE IT EASY」が聞こえてきたような錯覚さえ覚えた。バスタブにお湯がたまるまで、ぼくらはベッドの中で待つことにした。寒いから?そんな筈はない。ぼくは2階に上がって直ぐに暖房のスイッチを入れておいた。すでにぼくはトランクス1枚、香瑠は、厚手の上着とジーンズを脱ぎ捨てていて、上半身を隠すのは白いコットンシャツ1枚という格好。で、両手を重ねてぼくの胸の上に置き、その上に顎を乗せてぼくの顔を覗き込んでいる。「ねえ・・・」香瑠のこの言葉には幾つかの引き出しがあって、ぼくにキスの催促をしたり、ぼくの腕に腕を絡み付けてくる時のあの、「ねえ・・・」には、きっと入りきれないほど大量のナノサイズのラブレターが詰め込まれていて、引き出す度にまるで羽毛のように飛び出してきて、何時でも僕の敏感な部分を刺激するのだ。「レイラ」何度聴いてもイントロがGood!MrMoonligtt さん、upして頂いて有難うございます。いつも読んで頂いて、有難うございます。応援ポチっと頂ければ、励みになります。(^^♪
2019.10.14
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「もうひとつのラスト」は、市川拓司先生の原作「そのときは彼によろしく」の二次創作小説です。原作のラストのその後を想像して物語を書き始めました。~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ぼくの方が年上なんだぞ、と言おうとしかけたが、何とか押さえ込み、丸めて飲み込んだ。(第五話)~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~もうひとつのラスト 第六話それでも、赤面したのを悟られないように(この部屋の灯りは新しいだけあって、隣の部屋のそれより遥かに明るいのである)彼女を抱きしめようとした。我ながら名案?だと思ったのだが、香瑠は僕のその手をすり抜けてキッチンに続く部屋に足を踏み入れて立ち止まった・・・何なんだそれは・・・さすがにムッとしたが取りあえず目の前の壁に寄りかかり、足を交差してみた。多分にぎこちなく見えただろうけれど、あのままだとまるでサーカスのピエロだった。けれど、香瑠は僕を振り向きもしない。結局のところぼくの一人芝居は、ブーイングさえ貰えなかったのだ。「壁紙は綺麗に張り替えられているけど」香瑠は小刻みに顔を左右に振ってから続けて言った。「ベッドは?ベッドは何処なの?」「やっぱり照明を変えなきゃダメかな?」ちょっと暗いよね・・ぼくはそう言い足してから部屋の隅へ行き、もう一つのドアを押し開けた。香瑠と手を繋ぐことを忘れずに。彼女は、ぼくに擦り寄るようにして部屋の入口に立った。(そう、いいね!その位置だ)ぼくが想定した丁度いい位置に香瑠が立ったのを確認して、すぐ傍の壁にあるスイッチを押して部屋を明るくした。そして、香瑠が「ただいま!」と言った時に何故か言いそびれた、あの言葉を今、口にしようと決めた。ひょっとしてこんな展開を想定したのかな?あの時、僕は?とにかく、「お帰り」とぼくは言った。そして、「ここが僕たちの部屋だよ」とも言ってみた。香瑠は何も言わず、ぼくの身体を横に押した。もう少しそっちに寄って、てこと?たぶんそうだと思い、ぼくは壁伝いに50センチほどカニ歩きしてみた。香瑠は無言のまま、繋いでいた手を解くと、ぼくの前に進み出てそのまま背中をぼくに預けた。香瑠は、僕を振り返り、見上げた。飴色の髪が彼女の顔の半分を隠している。ぼくは利き腕で、そっと彼女の髪をかき上げた。「ありがとう。素敵よ、とても・・・」「それって、ぼくのこと?」んふ♪と彼女は羽根のように軽く笑い、「そう、あなたが一番。それからこの部屋、ベッドもカーテンも、みんな素敵」そう言うと彼女は、もう一度部屋を見渡す・・・。いつも読んで頂いて、ありがとうございます。ポチっと押してもらえると励みになります。♪
2019.10.02
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『香瑠、ぼくたちの部屋に行かないか?』 もうひとつのラスト 第五話いい歳して僕は、胸をドキドキさせている。いま直ぐに次の言葉を、何でもいいから言葉を発するのだ!「見せたいものが、あるんだ」香瑠なら僕の下手な芝居に乗ってくれるはず・・・。「何かしら?」言わなくても済むような僕のセリフに、彼女は乗ってくれた。「行けばわかるさ」リードしているように見えて、実はリードされている。そうであっても先を続けるのが男たちの役目なのかも知れない。香瑠は頷き、僕の手を握った。ぼくは先に立ち、彼女の手を引きながら階段を上り、プライベートなドアを開けて立ち止まると、手のひらを返し部屋の中へ滑らせた。そのままの姿勢で顔だけ香瑠を振り返り、出来るだけ上品な笑みを浮かべて・・・「どうぞ」そう言ってみた。彼女は、女優でいた時に見せていたあの笑みを、僕一人にだけくれながら、「ありがとう」と言った!あの女優『甲斐 瞳』と名乗っていたあの顔でだ!僕は、思わずみぞおちの辺りを押さえた。久しぶりのこの感覚!香瑠の見事なカウンターパンチをくらって、足がもつれそうになったが、何とか踏ん張って耐えた。フーっと息を吐いて僕が顔を上げるのと、香瑠がぼくを振り返るのとが同時だった。彼女は両手で鼻と口を覆い、その大きな目をさらに見開いて瞬きしている。そこにはもう女優『甲斐 瞳』はいなかった。居たのはただの、しかし、ぼくにとっては世界一の女性、谷川香瑠だった。「本当に増築したのね!すごいわ!」そう言うと彼女は、部屋中を飛ぶように視てまわった。「キッチンが広くなってる!」これならお料理し易いわ!と感想を付け足し、「すごい!バスルームも広くなって、バスタブも大きい!」これなら、二人で一緒に入れるね!とぼくを振り返って言った。僕は、それはちょっと、と言っておいて、「無理だろう」と答えた。その途端、それまで上がっていた香瑠の口角が下がり、目が細くなった! まずい・・・。香瑠は、ケント紙のように白く艶やかな顔色を薄赤く染めて、つかつかとぼくに歩み寄り、両手を腰に当てて口早に言った。「大丈夫!10年ぶりに目覚めた時ガリガリに痩せていたのよ!母の手を借りてリハビリ頑張って、野菜とタンパク質とカルシウムと・・とにかく身体に必要なものをしっかり食べて、ウエストを58センチまで増やしたのよ、だから大丈夫、一緒に入れるわ!」「そうだね、ぼくが両足を曲げればその間に・・・」「私が入るの、そして浩史を全部洗ってあげる」思わずぼくは、ぶるっと身体を震わせてしまった。くすり、と香瑠が笑った。ぼくの方が年上なんだぞ、と言おうとしかけたが、何とか押さえ込み、丸めて飲み込んだ。いつも読んで頂き有難うございます。ポチっとして頂いたら励みになります。
2019.09.23
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「もうひとつのラスト」は、原作「そのときは彼によろしく」市川拓司 著の二次小説です。原作のラストのその後を想像して第一話を書き始めました。※文中の「いばら姫」とは、日本で一般的に知られる「眠れる森の美女」のあのお姫様のことです。 「もうひとつのラスト」 第四話ようやく唇が離れた時、香瑠が言った。「私のお尻を撫でている誰かさんは、ちっとも変わらないのね」でも、君は嬉しそうだよ・・・。「まあ、そう言わないで、彼はこの10年間君を想って、浮気一つしなかったんだから」「そうなの?」 「うん、」「本当に?」 「うん、 トラッシュに誓ってもいい」「わかった、信じてあげる」そう言うと香瑠は、彼女のお尻を撫でていたぼくの左手を掴み、顔の前に持ち上げると、優しくさすりながら言った。「偉かったのねぇ、ご褒美にこれからはいつでも好きなだけ触らせてあげる」「良かったねぇ」ぼくは、自分の左手に向かって、まるで友人に話し掛けるように、そう言った。くすくす、と香瑠が笑う。そしてぼくを見上げる、その仕草。・・・変わらない、本当に変わらない・・・あれから10年経っているんだよ?君は変わらな過ぎる!ぼくは、本当に不思議だと思い、香瑠にそう言った。「不思議だ!」「何が?」「君だよ、君はまったく変わってない。10年も経っているのに!」「姉から聞かなかった?」ああ、そうだったね、とぼくは答えた。眠っている間は、すべてがゆっくりと進むんだった。・・・ぼくの頭の中で、何かが急に頭をもたげ始め、答えを香瑠に求めた。「お姉さんが目覚めたこと、知ってたんだね?」「そう、あなたのお父さんが教えてくれたの」ぼくは無言で頷く。「私を起こしてくれた後、お父さんはこうおっしゃったわ」ぼくは、ただ頷くだけ、もう目の奥が熱くなってきた。「香瑠さん、どうか私の願いを聞いて欲しい。急かせて申し訳ないが、一日も早く息子の元へ帰ってやってくれないか」もちろん、と私は答えたあと、「今、すぐにでも会いにゆきたい!彼の元に飛び込んでゆきたい!でも、二人の想いを叶えるには、体調を整えないと、何しろ10年も眠っていましたから・・・」「『おうおう、そうだったね』 お父さんは、そう言ったわ・・・」「あの時、私は照れ隠しに笑っていた・・・」香瑠はそう言ったあと、俯いたが、すぐにぼくを見上げて言った。「浩史、時間はたっぷりあるわ、10年前とは違うのよ。積もる話は後でゆっくりと、ね」ああ、そうだね、とぼくも同意した。香瑠の腕がぼくにからまり、肩に香瑠の頭の重みを感じた。甘い香りがぼくの鼻から侵入し、脳を直撃した。ナノサイズのラブレターにぼくのすべてが反応した!またしても、ぼくは、香瑠に切っ掛けを与えられたのか・・・。ええい、この際そんなことはどっちでもいい!「香瑠、ぼくたちの部屋に行かないか?」いつも有難うございます。ポチっとして頂いたら励みになります(^^♪よろしくお願いします♪
2019.09.16
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※「もうひとつのラスト」は、原作「そのときは彼によろしく」市川拓司 著の二次創作小説です。※文中の「いばら姫」とは、日本で一般的に知られる「眠れる森の美女」のあのお姫様のことです。 「もうひとつのラスト」 第三話「あなたに、抱いてもらいたかった。そしたらあっちへ行く不安なんか氷のように融けて無くなっていたわ」香瑠は、10年前に「あの場所」へ行くことになったその時の想いを正直に告白した。彼女のその目は怒ってはいなかったが、ぼくの胸を充分に締め付けた。そしてさらに彼女は言った。「みさとさんとお付き合いしてたのに」「え!?」「信じられないわ、避妊の用意をしていなかったなんて・・・」あの時もすでに大人だったぼくとしては返す言葉もなかった。何しろ、香瑠はあの後「あの場所」で何年間眠ったままになるか分からなかった。だから、「妊娠」は絶対に避けなければならない事だったのだ。ごめんよ香瑠。けれど香瑠、ぼくには今、ずいぶん前から君が目覚めたら先ず1番先に、実行しようと決めていたことがあるんだ。香瑠をぼくの新しくなった店(と言っても、2階を増築しただけなんだけれど)を見てもらおうと、ぼくは、首に巻き付いていた彼女の両腕をほどき、左手を香瑠の肩に置いていたのだが、その手を下ろそうとした。すると「その手を離したら許さないから」ときたので、ぼくは『いばら姫の仰せに従うことにした。香瑠は、斜め5センチ下からぼくを見上げ、嬉しそうに微笑んでいる。「今は、ちゃんとしてるんでしょ?」ぼくは胸を張った。その答えも用意してある。「うん、砂漠の住人でも日傘は持っているからね」あらあら、と香瑠はぼくの顔を覗き込み、続けて言う。「大人になったのね、えらいわ」そう、ぼくは大人になったから、君の上から目線的なコメントに一言も反論せず、片方の口角を上げるだけで受け流せたんだ。「ほ、ほう・・・」(どうやら、本当に大人になったみたい)ぼくはポケットから鍵を取り出し、ドアを開けて香瑠の肩を抱いたまま店の中に入り、後ろ手にドアを閉めロックした。「フーッ・・・」 香瑠の溜息だ。一辺り水槽を眺めた後、ぼくに視線を戻した。「この眺め、何度も夢に見たわ、あっちにいる間・・・」「ぼくの次に、だろ?」「もちろんよ、あなたが一番」香瑠は、ぼくの目を見つめてそう言うと、顔を寄せてきた。ぼくは彼女の腰に手を回し、引き寄せた。そして唇を重ねた。長い長いキスだった。それは10年分の想いがこもっている。そして二人には分かっていた。どれだけキスを重ねても、二人の熱い想いを満たす事なんか出来ないってことが。いつも有難うございます。ポチっとよろしくお願いいたします。♪
2019.09.13
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※もうひとつのラストは、二次創作小説です。原作「そのときは彼によろしく」市川拓司著にオマージュを込めて書きました。物語は主人公の2人が再々会を果たすところから始まります。 もうひとつのラスト 第二話「浩史、ちょっと痛い・・・」思いやりと想像力が欠けていた!香瑠は「あの場所」で、10年もの間眠っていたんだ。水泳で鍛えていたあのしなやかな筋肉だって少しくらい衰えていても不思議じゃない。「ごめん!だけど・・・」ぼくは、香瑠の背中に回していた腕をほどいて、二人の間に隙間をつくり、先を続けた。「もう、二度と、絶対に・・・」香瑠の大きな瞳が、5センチ下からぼくの目を見上げている。『大丈夫?浩史、次の台詞は?ちゃんと用意してある?間違えずに言ってくれたら、私、ちぎれるほど尻尾をふって見せてあげるわ』 そう言ってる。『ああ、香瑠!任せといてくれよ、でも、ほらこういう台詞は一気に言わせてくれないと!』ぼくは彼女の目に、そう訴えた。香瑠が頷く。ぼくらは一瞬の間にこれだけの情報を言葉を使わずに伝え合った!驚きだ!一体何がこんな事を可能にしたのだろう?まあ、僕の精神面の成長が、ようやく香瑠に追いついたってことかな?悔しいけれど。「言うよ・・・もう絶対に離さないよ香瑠!」本気になればなるほど、気持ちの表し方はシンプルになるものらしい。この10年間、この場面を想定して取捨選択の結果がぼくに教えてくれた。「う、うん」香瑠の目は失望の色を浮かべていない。どうやら合格らしい・・・でも香瑠の声、語尾が湿っている。「香瑠・・?」「はい!・・・」香瑠は再びぼくの胸に顏を埋めた。「香瑠?今君は、ちぎれるくらい尻尾を振ってくれているの?」香瑠が頷き、柔らかな髪が揺れている。10年前、香瑠が「あの場所」へ行ったその日、ぼくの父の胸に顔を埋めて泣きじゃくったあの時のように,ぼくの胸で泣いている。ただ違うのは、彼女が呼んでいるのは「お父さん」ではなく「浩史、浩史」と繰り返し、ぼくの名前を呼びながら泣いていることだ。ただそれだけで、これ程身体が震えるなんて・・・。今、父さんならあの時のように、背中をぽん、ぽんと軽くたたくようにして香瑠の乱れた心を包み込み、癒し、そして落ち着かせることができるだろうか?父さん、ぼくの大好きな世界一優しい父さん、悪いけど父さんにさえ今のぼくは負ける気がしない。今、ぼくの腕の中で泣きじゃくる香瑠の愛らしさを、ぼくほど強く感じ取れる男は、世界中どこを探してもいるはずがないから。寝静まっていた街角に、ひとつふたつと灯りがともる。そろそろ香瑠の涙声をオフにしなければ。「香瑠?ぼくは、君のこと抱きたくて仕方がないんだけど」その一言で彼女は泣くのをやめて、ぼくを見上げた。ポケットからハンカチを取り出して、香瑠の長い睫毛と頬を濡らす涙を、吸いとるようにそっと拭った。父さん!見たかい?たった一言でぼくは香瑠を泣き止ませたよ!「私も、あなたに抱いてもらいたい」「あの時も・・・」そう言うと香瑠は、ぼくの首に両手を回して、さらに言った。「あなたに、抱いてもらいたかった。そしたらあっちへ行く不安なんか氷のように融けて無くなっていたわ」第二話いかがだったでしょうか?良かったらポチをよろしくお願いします。
2019.09.04
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これから掲載を始めるのは、二次創作小説です。原作「そのときは彼によろしく」市川拓司著にオマージュを込めて書きました。物語は主人公の2人が再々会を果たすところから始まります。※登場人物の名前は全員変えてあります。 「もうひとつのラスト」 マトリックスA (1) 目が覚めた時、ぼくの部屋のカーテンは朝陽の明かりを通してはいなかった。寝返りを打ち目覚まし時計を見る・・・アラームが鳴り始めるのは、およそ1時間後か・・・(寒い・・今夜から毛布を厚手のものにしよう) 今夜のことはさておき、問題は今ここでアラームのスイッチをオフにすると間違いなく寝坊してしまうという事だ。しかたなくベッドを出てガスストーブに火をつける。階段を下りて店舗のストーブにも点火。お気に入りのベーカリーがオープンするまであと2時間、それまでカップスープで空腹を紛らわすことにした。 アクアショップ「ウォーターサイド」のオーナー、会沢浩史(あいざわひろし)彼の1日は、目覚まし代わりにセットしたジョージ・ベンソンの「ブリージン」で始まるのだが、今朝はそのタイミングが大きくずれた。ま、いいか今日のBGMにしよう。 PM6:30、今日は何故か1日中忙しく売り上げも上々。客足が途絶えたのを見計らってアルバイトの青木君を早めにあがらせた。今日はよく働いたこともあって自炊する気力もなく、最近歩いて5分ほどのところにオープンして間も無いながら、シェフの腕が良いと評判のレストランへ出かけることにした。 たっぷり時間をかけて夕食を済ませて外に出ると、かなり気温が下がって いて、浩史はジャケットの襟を立てて自宅兼職場の「ウオーターサイド」への道を急いだ。 行き交う人も少なくなった街路に足音が響く。 商店街を抜けて住宅街との境目のY字路の角に見慣れた建物が見えてきた。そのとき、浩史の五感は何かを感じ取った。店舗の入り口のドアの前に何かが居る・・・ 警戒しながらゆっくり足を進める。何かは、どうも人らしい、そしてその人は膝を曲げ腰を下ろし、店のドアにもたれているようだった。 浩史は警戒を解くことなく口を開いた。「君、そこはぼくの店の入り口なんだけど・・・」座り込んでいた誰かが急に顔を上げた。じっと浩史を見ている・・・やがて意外なほど勢いよく立ち上がると暗がりから照明の下へ姿を現して・・・そして白い歯を見せながら言った。 「知ってるわ・・・あなた店長さんでしょ?」 そう言いながら近づいてくる誰かが誰なのか、浩史はすぐにわかった。彼は誰かさんの芝居がかった問いかけに、応える事も出来ずに身体を小刻みに震わせている。それは決して寒さのせいではなかった。 「香瑠!」(かおる)ぼくは、待ち焦がれた誰かさんの名前を呼びながら歩み寄る。香瑠もまた嬉しさをこらえきれず歩み寄り、ぼくの胸に縋り付いた。 「ただいま!いま、帰ったわ!」 ぼくは、言うべきことが言えず、ただ香瑠を抱きしめた。おもいきり抱きしめた・・・人気ブログランキングに参加する事にしました。応援ポチっとよろしくお願いします。
2019.08.30
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